千葉市美術館「二つの柱ー江戸絵画/現代美術をめぐる」2
1の続き
見たかった渡辺崋山が、嬉遊会コレクションから二点♪。
渡辺崋山「厳寒二友図」1838
竹の葉を線で、梅の花を点で。墨だけで色がない効果なのか、点と線のリズムを感じる気が。速描きでならした崋山の、そのスピードに同化。手慣れた感じが、かっこいい。
渡辺崋山「黄雀窺蜘蛛図」1837
出光美術館の「??捉魚図(ろじそくぎょず)」と通じ、やはり聡明な感。朝顔や葉の淡さに見惚れました。
朝顔、蜘蛛、雀、竹は全て吉祥画題。
ですが、??捉魚図と同じく、どうしても、うすら寒いようなものを感じてしまう。一つ一つは美しく吉祥を表していても、これらが一枚の世界に共存すると、緊迫が生じ、平穏が壊れるその一瞬手前のような。
この絵も蟄居中の絵ゆえ作年を偽ってありますが、おそらくは自害する1841年かその前年に描かれたものらしい。蟄居中の心境、絵への表現としてのこれらの数作、気になる。
ドナルド・キーンさんの「渡辺崋山」によると、この時期に、借金返済と暮らしのためにかなりの数の絵を描いたようですから、吉祥画題をさらりと描いたこの絵もそういう一枚でしょうか。それでもどこかに心情を吐露させたと考えるのは、強引すぎでしょうか。
この「嬉遊会コレクション」とは、千葉県内の数名の美術を愛する会社経営者の方々が、買い集めた所蔵品を一般の方にも見てもらおうと、千葉市美術館に寄託されているとのこと。画集を購入しましたが、見てみたくなる作品ばかり。崋山のほか、やはり気になる山本梅逸も画集には二点。コレクション展が開催されるのを待ち望んでいます!
コレクション内では、崋山の弟子の福田半香「柳蔭納涼図」1846が。崋山の死後五年後の作。
英一蝶「張果老・松鶯・柳烏図」も。
白鷺と烏の対比の真ん中に、張果老の入るひょうたん。すうっと気が登り馬が天馬のように。ミニチュアみたいな小さい馬がかわいく。このお茶目な絵が掛け軸として成立するところが、日本の美って魅惑的だなあと思う。
「サトウ画廊コレクション」というコーナーもありました。現代アートの小品を中心に10点。
サトウ画廊さんは、戦後の昭和30年ごろから銀座で営業していたそうです。店主の佐藤さんを慕って画家がおいていった作品や、または佐藤さんが所望した作品400点が。現在は営業していませんが、千葉市美術館に寄贈されたとのこと。
画像がないですが、オノサトトシノブ「CIRCLE]、藤松博「羽ばたき」1956(赤い空気の波動のような)、タイガー立石「封函虎」1989(マッチが緑の虎に・・)など、色彩の取り合わせも印象深く、楽しいコーナーでした。
他の日本画も、魅力的な作品ばかり。
西川祐信(1671~1750 四季風俗図巻」(享保1716~36頃)
花見、川床遊びやお座敷遊び、紅葉狩りなど、京都のお気楽な遊び。線が美しく、着物や小物まで細やかに気が配られている。女子力の高さに感服。そしてひとしきり遊んだあとは、遠くに月を眺めて静かに終わるところが、いい。
歌川豊国はやはり面白い。「両画十二候 五月」享和元年1801
竹賢図の見立て。ゴージャスな着物を着ているのに、大きなタケノコを抱えて、どっすんとしりもちつく美人。竹林の向こうには水が流れ、美しくつつじが咲き。この確信犯的な趣向に膝を打つ。
浮世絵は勝川春湖、渓斎英泉、歌川国貞など見ごたえありましたが、中でも喜多川歌麿の「画本虫撰」1788に見惚れました。
さすが歌麿、人物以外も素晴らしく上手い!細密な描写にも感嘆だけど、さらに画面の配置と、織りなす線も流麗で素敵。小さな本の前で捕まってしまいました。展示以外のページは、国会図書館デジタルコレクションで見られます。
呉春「漁礁問答図」(天明1781~89)とその異母弟の松村景文「鮎図」(文政~天保1811~44)を一緒に見られたのも興味深かった。特に松村景文の鮎図は、涼やか。波の勢いと、小さいのに巧みに進む鮎。一匹はぴょんと跳ね、その動きに一瞬、心も跳ねる。
岡本 秋暉は、出会うたびにその繊細な美しさに足が止まってしまうのですが、今回見た二作は、ひとくせある趣き。
「百花一瓶図」は1の日記の通り、不可思議な一枚。
「蓮池遊漁図」は、先日、柏で見た摘水会記念文化振興財団の寄託。蓮の花よりも、葉のほうが存在を放っている。花はといえば薄く、しかも一つは枯れて首を垂れて水につき。一つはタネになりつつ、花びらがはらりと落ちている。静かなリアリズム。
河田小龍「草花図」19世紀、かなりリアルで、存在感のある絵。
土佐の出身。福山雅治の大河ドラマ「龍馬伝」で、リリーフランキーさんが演じていました。確か竜馬の家に上がりこんで、龍の絵を描いていたっけ。改めて調べると、アメリカ帰りのジョン万次郎の取り調べに当たるなど、面白い人。日本語を忘れていたジョン万次郎と寝起きをともにし、日本語を教え、英語を教えてもらい、鎖国日本と世界とのギャップに驚きます。竜馬に外国との貿易を説いたのも小龍。万次郎から聞いた話を記し、藩に献上した「漂巽紀畧」には、小龍の挿絵も入っているようなので気になります。改めて、今回はその絵と千葉市美術館で出会えて幸運でした。
鍬形蕙斎「草虫図」(1804~1824頃)は、チラシにも使われていました。
右幅は、青竹に巻き付く朝顔に蝶。左幅は、枯れた竹に夕顔、こうもり。ひとくせある感じ。流れるように目線を上に持っていかれる。夕顔の大きい葉と同じ形に共鳴したこうもり。後ろ姿が、ちょっとかわいくなってしまっているのがたのしい。
鍬形蕙斎(1764ー1824)では、「草花略画式」という絵手本の冊子も展示されていました。
以前、葛飾北斎の俯瞰図「木曽街道名所一覧」と並んで、「江戸俯瞰図」を見たことが。
鍬形蕙斎「江戸一目図屏風」
蕙斎は北斎の6歳年下ですが、まさに同時代の絵師。「俯瞰図」も「略画式」も鍬形蕙斎が始めたのに、北斎に真似されてしまう。俯瞰図は「俯瞰図といえば北斎」と言われるようになり、略画式も北斎漫画のほうが有名になってしまい、「北斎はとかく人の真似をなす。何でも己が始めたることなし」と怒っていたと。気の毒だけど、相手が悪かった・・・。しかも北斎は長生き。蕙斎の死後も25年も多く画業を極め続けることができた。
俯瞰図はちょっと北斎の方が超絶かなっと思ったけど、「草花略画式」も「草虫図」も、心惹かれた絵。鍬形蕙斎の絵を通してみてみたいものです。(「北斎にパクられ続けた男」とかって回顧展、どうかな)
曽我蕭白「獅子虎図」(1751~64)は、意外性の一枚。
虎は、せっかく虎なのに、負け犬風。獅子は虻にそんなに驚く?ってくらい驚き、岩にしがみつく。どちらも顔が最高♪。
俵屋宗達「許由巣父図」
伝説の世界。岩も木も、牛も幽玄。ぼかしとにじみが美しいです。畠山美術館の蓮池図で知った、宗達の繊細さ。これも少ししゃがんで、下から見上げると、何とも言えない心地よい世界でした。
風景の章では、鶴沢探山と丸山応挙の六曲一双の大きな屏風に、引き込まれました。
鶴沢探山(1655-1729)「山水図」1719、
玉澗のような破墨の部分もあるかと思うと、牧谿のような消えそうなくらいふわりとした部分も。師の狩野探幽の影響もあるでしょうか。絵では具体的な形は微かで、見る者の心の中でやっと情景が姿を現す。山から始まり、ふもとに村、気づくと月が出ている。下に目をやると水辺と舟。水辺は左隻につながると、浅瀬になり、やがて小さな集落に。そして山が広がる。光景を文で書くとよくある山水図になってしまいましたが、余白に漂えました。もう一度見たい絵です。(冒涜だとののしられそうだけど、その時のメモ↓)
円山応挙「富士三保図屏風」1779、大きなこの屏風とともに歩くと、去りがたいほど。
西洋風な画面構成を摂取した40代半ばの作とのこと。うっすら、形のイメージを投影させたような。立ち上る大気。海は薄い青色がとてもきれいだった。この広やかな開放感。なのに、筆跡は朴とつにのこる。点々とつけられた松原が狐の行列みたいで楽しい。全体的に大きいのに、あたたかい感じ。応挙の人柄かな。
ちょっと遠いけれど、行くたび必ず心満たされる千葉市美術館でした。