郵政博物館「美をあふぐ 華麗なる巨匠たちの扇の世界展」
2016.4.9~6.26
大正5(1916)年に簡易生命保険が創業され、逓信省より事業功労者への贈呈用に、扇子が制作されます。大正、昭和、平成の日本美術界の大家によって描かれた、その原画61点と製品の扇の展覧会です。
前は確か東京駅あたりにあった逓信博物館が、いつのまにか「郵政博物館」と改名して、東京スカイツリータウンに移転していました。
前は子供向けのスペースが多かった感じでしたが、オフィスビルフロアの一角になって、マニアとか大人向けな感じに。(9階ですが、8階でエレベーターを乗り換えないといけないため、スカイツリーの賑わいと打って変わって、穴場感。)
こんな感じで、原画と、仕上がった扇が展示されていました。。(企画展スペースだけは、写真が禁止です。)
原図の展示リストを引用。(後期分のみ)
平福百穂「竹林の隠者」、山村耕花「金魚」、竹内栖鳳「金魚」、竹内栖鳳「あやめ」、山内多門「山水」、荒木十畝「花鳥」、小杉未醒「ざくろ」、石井柏亭「百合」、長野草風「甘草」、長野草風「撫子と桔梗」、山元春挙「牡丹に黄金虫」、山元春挙「巖に松」、土田麦「鮎」、土田麦僊「あやめ」、前田青邨「かささぎ」、冨田溪仙「あじさい」、橋本関雪「鶴」、川端龍子「おしどり」、西山翠嶂「京洛春色」、
奥村土牛「柿」、堅山南風「つばめ」、堂本印象「柳につばめ」、高間惣七「縞ひよ」、鴨下晁湖「百合」、西山翠嶂「おもだか」、加藤晨明「首夏」、橋本明治「桔梗」、奥村厚一「波紋」、松林桂月「あじさい」、朝倉攝「夏の太陽」、小倉遊亀「桔梗」、上村松篁「矢車草」、平山郁夫「河畔涼風」、東山魁夷「青富士」、片岡球子「桜花」、加山又造「初秋」
このほかに、製品になった扇の現品も展示されていました。大御所ばかり。もらった人いいなあ。「事業功労者」って?たくさん保険に入った人かな?
上のチラシは、富士山のほうが東山魁夷、桔梗の花のほうは小倉遊亀。
扇の小さな空間ですが、それでも画家それぞれの画風の通りがわかりやすく出ていました。
なかでも、福田平八郎の「川蝉」1928と「金魚」1928は、ひかれました。
拾いものですが、「川蝉」の部分(こちらから)
色が魅力的。軽やかに洗練と言ったらいいのか。
2012年に山種美術館で「福田平八郎と日本画モダン」という展覧会を見ましたが、「平八郎モダン」ともいえるかも。その画集に「形や線よりも先に色彩を強く感じる」と言葉が残されていました。
参考に「芥子花」1936
打って変わって「金魚」のほうは、金魚の輪郭だけを薄い線で二匹描き、金魚のぶち(というのか?)に朱をこれも薄く置いただけ。これがまたとっても魅力的でした。
珍しいのが、日本画家がほとんどの中で、三岸節子の「花」1964があったこと。
三岸節子は、油絵の具を盛った強い印象の洋画しか見たことしかなかったので、ここで扇に出会えるとは。
原図はなく製品の扇でしたが、代表作のこの「花」に似た印象の画。強い赤色、抽象的な形。三岸節子らしい個性的な扇でした。
この中で自分がいただけるとしたらどれを選ぶかな、と妄想したところ、まず上村松園「ほたる」、次点で鏑木清方「牡丹」。
松園のほたるは、薄くさらさらと柳の葉がひかれ、小さな点のように蛍が葉にとまっている。その黒い体に、これも点のように薄く朱色の模様がぽつん。とてもシンプルで薄い絵です。
鏑木清方の牡丹は、扇いっぱいに大きく牡丹が描かれていますが、これもものすごく薄い彩色で、かすかにふわりと。
気づいてみれば、どちらも美人画の大家。さすがというか、ほかの絵と違って、女性が実用に使うことを意識しているのでしょうか。扇の絵柄が主張しすぎず、控えめ。どちらも、女性が扇を開いて顔の近くに持ってきたときに、どんな顔立ちでも、顔を邪魔しないのでは。どんな表情にも演出を加えるというか。
他にひかれたのは、竹内栖鳳「金魚」、奥村土牛「柿」、長野草風「甘草」、堂本印象「柳につばめ」、西山英雄「縞あしと赤とんぼ」、奥村厚一「波紋」、山元春挙「牡丹に黄金虫」、朝倉摂「夏の太陽」など。
常設の郵便についての展示も、レトロでいい雰囲気。
切手で作ったモナリザ
この貯金箱、懐かしい~。
この簡易保険のポスター、なんだかすごい。
「簡易保険入って置けば、後々の心配がなく、毎日愉快に働けます」。。。って、なんか入ったら天上に召されそうで・・・。
この天女がかなり魅惑的。
今日はとても蒸し暑い一日だったので、涼やかな扇がぴったりな展覧会でした。