はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

うつろな楽園 その37

2013年09月30日 08時56分21秒 | 習作・うつろな楽園
「籤をひいて決めるんです」
「なんとまあ」
趙雲もおなじくこころのなかで呆れた。
そして、千人近い人間が、息を殺して籤を引いているさまを思い浮かべ、ぞっとした。
当たり籤を引いてしまった者の絶望や、いかばかりか。
「でも、その代わり、大老はわたしたちに水と食糧をくれていました」
「ひとりを犠牲にすれば、のこりの千人が助かる。だから犠牲の涙は無視しようというわけか」
趙雲が声を荒げると、睡蓮は身をすくませた。
「だって、仕方がありません、外でだって、死ぬほどいやな目に遭わなくちゃいけないんです。ここで死ぬのはもともとじゃありませんか。そうです、張伸さまもおっしゃっていました。戦で死ぬのは犬死だけれど、ここでの死はみんなのための死なのだから、意味があるって」

趙雲は、それはまちがっている、とつづけようとしたが、睡蓮のおびえた目に気づき、口を閉ざした。
わるいのは張伸である。
張伸は、自分とおなじく純粋な世間知らずの少女に、都合のいい論理を教え込んだのだ。
たった十四の少女が、自分は何も悪くないのに、貧しさゆえに売られて、妓楼に入れられた。
それはほんとうに「死ぬほど」いやなことだったのだろう。
だから、張伸のもとへ逃げ、そしてその手先となってうごいた。
睡蓮は、まだ自分がなにに加担したのかわかっていないのだ。
おそらく、ただ言われるまま、城に手紙を届けに行っただけとおもっているにちがいない。
そして、少女を責められるほどに、自分の身は清くない。

「大老は、以前は千人分の水と食糧を出せていたわけだ。それが急にだめになった。それは、戸籍調査が進んで、徴兵のがれをする若者が増えたからなのだね」
孔明が問うと、睡蓮は自分が悪いことをしたかのように、悲しそうに言った。
「そうです。張伸さまはお優しいのです。困っているひとを見ると、だれでもすぐに声をかけて里に来ないかと誘っていました。でもそれで、たくさんの人が里に来ることになってしまったんです。大老は、さいしょこそ、あたしたちにただで飲み食いをさせてくれましたが、しばらくしてから、水と食糧を出す術を使うための霊力がなくなった、だからひもろぎを寄越せと言いだすようになりました」
「ふむ、水と食糧を無尽蔵に出せる術というのは会得してみたいものだが、その力の源が人の肉というのはいただけないな。ところで睡蓮、おまえたちは、どうやって中と外の世界に出入りしているのだ」
「大老におねがいして、外に出してもらうのです。大老がよしといえば外に出られますし、だめといったら出られません。中に入るときには、ハマグリの蓋を開ければいいだけです」
「なるほど。外に出るためには、大老を倒すほかなさそうだな。お堂の中の様子を教えてくれぬか」

つづく…


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