はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

おばか企画・ニューシネマ ぱらだいす。 3

2020年05月06日 10時05分57秒 | おばか企画・ニューシネマ ぱらだいす。
※ このお話は、ますますもって、キャラの破壊度が進行しております。アレクサンダー大王の領土よりひろーい度量をお持ちの方に、特に推奨いたします。m(__)m

前回までのあらすじ?(このあらすじも架空のものです)

びんぼうな弟分(と勝手に見なしている)費文偉と董休昭の窮状を知った孔明は、彼らの胃袋をすこしでも満たしてやろうと、自邸の庭にてバーベキュー大会を開催。
しかしGWを利用し、単独、あそびにきていた諸葛恪が、つまらないことから費文偉に喧嘩を売り、たのしいバーベキュー大会は一転。
各国の次代を担う少年たちの代理戦争となってしまう。
腹を立てた孔明は、猫のケンカを止めるときのように二人に水をかけるが、孔明自身がトロいのもあり、水は肝心の二人にはかからず、傍らにいた董休昭にかかってしまう。
ひどい風邪にかかった董休昭は、これではバイトにいけないと嘆く。
休昭がバイトをしていたのは、父の董和への父の日のプレゼントを買うためだった。
ソレを聞いた孔明は言い放つ。
「よし、ではわたしが代わりにバイトに行ってやろう!」
嫌がる栄耀飯店の意向を完全に無視し、孔明はDVDレンタルショップへ足を運ぶのであった…





『ニューシネマ パラダイス 店員用マニュアル』を完璧に読みこなした孔明は、自信満々にカウンターに座っていた。
どんな客でもドンと来い、という構えである。
早々にトラブルメーカーの恪を江東に追い返し、養子の喬を連れてのアルバイトだ。
喬はというと、もともと映画が好きなため、たいがい素直に孔明の言うことを聞くが、今回はとくにはりきって付いてきた。
そうして店につくなり、ハタキを持って、店内の商品のハタキがけをしている。
どうやらパッケージを眺めているだけで至福である様子だ。
仲の悪い兄としばらく一緒にいさせたことで、気を遣わせていたかなと心配した孔明であるが、ひさしぶりの喬のうれしそうな様子にほっとした(とはいえ、喬が楽しそうかどうかは、孔明にしかわからない)。
しかし、恪は嵐のような甥っ子であった。
おかげで孔明もとばっちりを食って、せっかくの大型連休に董允の代理でアルバイト、という憂き目にあっている。
まったく忙しい身だというのに。予定だって…
予定だって…
………
予定だって……
…………
予定だって?
『ないな、予定』
あらためて、プライベートが空疎なことに、愕然とする孔明であった。

冷や汗をかく見栄っぱり

さっそく、開店直後に、はじめての客がやってきたようだ。
「お? 孔明じゃねぇか。なにをしているのだよ?」
劉備である。いつの間に増えたのやら、公子たちを複数伴っての来店だ。
「いささか事情がございまして。ご返却でございますか」
「うーむ。おまえにコレを返すのは、ちょいと気が引けるなぁ」
と、劉備は、手にしたDVD専用バックをちらりと見下ろす。
「いまさら取り繕わなくて結構ですよ。どうせアダルトDVDでしょう」
「なぜわかる」
「顔に『やらしいDVDを返すのは恥ずかしい』と書いてあります」
「えっ!」
劉備は思わず顔に手を当てる。
「……そういうことでございます」
おめぇなぁ、と劉備は孔明を軽くにらみつつ、DVDを返却した。
劉備は、喬の案内で、公子たちをアニメコーナーに連れて行く。しかし長子の劉禅だけは、カウンターから離れず、孔明の仕事をじっと観察しているのであった。
「長子はなにも借りられないのですか」
「観たいものがあっても、どうせ弟たちに譲らなくちゃいけなくなるのだ。それに、一家に何本、とかいう本数制限があるのだろう? 弟たちの観たいものを借りたら、わたしが借りられる余裕はないと思う」
孔明は、異腹の弟たちに気遣いをみせる劉禅に、ほかの誰にもめったに見せない、優しい笑みをこぼした。
「わたくしの会員証を貸して差し上げてもよろしゅうございますよ」
「それはいけないよ。会員証の又貸しになってしまうではないか。ねぇ、軍師。軍師はいつもどんな物を観ているの?」
「す」
ヌーピー、とはさすがにいえず、孔明は止まった。
アメリカの犬のまんが、とバカにしてはいけない。専門書も出ているほどに、スヌーピーの物語には、人生哲学が端的に描きこまれている。
「す?」
「好きなのは『史上最大の作戦』でございます」
「へぇ、さすがだね。映画を観るのも、勉強のためなのか」
と、父親に似て素直な劉禅は、感心して目をきらきらと輝かせる。
いまさら、内容はもちろんだけれど、若かりし頃のショーン・コネリーがどこにいるのかを捜すのが、ウォーリーをさがせ、みたいで、楽しみ、などとは言えなくなってしまった。
「わたしもなにか観てみようかな。なにがお奨めだろうか。もちろん、あんまり難しいものではないほうがよいな」
と、劉禅は照れ笑いをする。
「軍師は、なにを一番観るの?」
「ベ」
ベイブ、と反射的に答えようとして、あわてて口をつぐむ。
ベイブはたしかに名作だが、軍師将軍たるもの、もうすこし威厳を持たなければ。
見栄ではなく。
「べ?」
「ベン・ハーがよろしいかと」
「おもしろいとは聞いているけれど、主演のチャールストン・へストンは、白人至上主義者なので、ずうっとハリウッドでは仕事を干されているって聞いたよ?」
「そのとおり。ですから公子におかれましては、斯様な名作で人間愛と不屈の精神を謳った映画に主演した人物でも、内面ではおそろしい人種差別思想の持ち主である、という矛盾を踏まえながら、映画を鑑賞していただきたい」
「なるほど、蜀は四方を異民族に囲まれている土地だものね。人種差別はよその国の話ではないね。ありがとう、軍師。父上にお願いして、一本、借りてもらう」
そうして劉禅は劉備と弟たちのもとへ行き、その背中を見て、孔明はほっと息をつく。
完璧だ。完璧にごまかしきった。

おせっかい、あらわる。

「なぜ素直に『ベイブ』と答えないのだ、おまえは」

孔明はちらりと目だけを動かして、声の主を見た。
「いつからそこにいた。馬だらけ」
「なに?」
「今日もどうせ、『最強馬ナリタブライアン』だの『逃げ馬列伝』だのを借りにきたのであろう。ヘンだぞ、子龍」
「放っておけ、仕事中毒。馬は俺の人生の一部だ。それにおまえは間違っているぞ」
「公子に言ったのは嘘ではない。ベン・ハーも好きな映画だ」
「いや、そうではなく、『最強馬ナリタブライアン』はDVDを購入した。今日はそれを借りにきたのではない」
「……そう」
趙雲は、そうだ、と言いながら、ぐるりと店を見回す。
ゴールデンウィークだというのに、店内に客はまばらだ。
「店の外からおまえの姿が見えたので寄ったのだ。どうも、ほかの客も、カウンターにおまえがいるので、驚いて引き返してしまうらしい。店の迷惑だぞ」
「なんと、それはいかんな。どうすればよいだろう」
「そういうと思って、ほら」
と、趙雲が取り出したのは、パーティー用の付け髭である。
「……ええと?」
「付けてみろ。ほら、これで軍師将軍がまさかレンタルショップの店員をしているとは思うまい」
趙雲に言われ、付け髯をつけた自分を鏡で確認した孔明であるが、あまりの胡散臭い風貌に言葉を失った。
「コレでは、別の意味で客が逃げる」
「安心しろ、まさか軍師将軍ともあろう者が、付け髭をつけてレンタルショップの店員をしているとは誰も思うまい」
「……そうだろうか?」
そうだ、と趙雲は強くうなずいた。
孔明は、自信満々の趙雲に反論できず、そういうものかと無理に自分を納得させ、付け髭のまま、カウンターに入ることとなった。

意外にバレない

付け髭をつけて三時間後…
はじめてその孔明を見たとき、養子の喬はびっくりして泣きそうな顔をしていたが、やがて慣れたらしく、普段どおりになった。
口の周りの違和感は、如何ともしがたいものがあるが、客足が伸びてきたので我慢せねばなるまい。
それにしても、張飛がやってきて、『あなたに降る夢』の延滞はまだ解決しないのか、しないのであればこれを借りていく! といって、『マイ・フェア・レディ』と『ゴースト ニューヨークの幻』を借りて大事そうに抱えて去っていく姿を見たときは、ひっくり返りそうになった。
そうして、こっそりひっそりとやってきた馬岱が、三本のDVDを返したあと…その作品内容にもたじろいだが…つづいてあらたに『さらば、わが愛 覇王別姫』を借りていった時には、つぎに普通にあったとき、ちゃんと目を合わせられるだろうかと孔明は自分を危ぶんだ。

さて…
「なにをしているのかね、軍師」
一泊二日レンタルだった『ターミナル』を返しにきた劉巴は、孔明を見るなりそう言った。
馬良になら、ばれるかな、と思っていた孔明であるが、劉巴に先にばれるとは。
「よくわかりましたな」
「わかるとも。わたしなどは、襄陽からの顔見知りなのだからね。愉快な姿をしているじゃないか。あまり諸国には見せられないな」
「見せるつもりもありませんよ。あなたが沈黙を守ってくださるのであれば」
劉巴は肩をすくめると、今回借りていくDVDをカウンターに出した。それを観て、孔明は眉をしかめる。並べられたDVDは、『マルホランド・ドライブ』、『ピクニック・アット・ザ・ハンキングロック』、『英国式庭園殺人事件』。
「頭痛がひどくなりますよ」
「『ターミナル』のような単純な映画を見たあとは、世の中の不条理を思い出すために、こういうものを見たほうがいいのさ」
「単純でしたか」
「常に夢をみたい人間にとっては、ああいうものは必要なのだろうが、わたしにはふさわしくない」
「では、あなたも夢を見ればよろしいでしょう」
「いらないよ。いまさらな」
そう寂しく言うと、劉巴は孤独な背中を見せて去って行った。

つづく……

(サイト「はさみの世界」 初掲載年月日・2005/05/03)


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