はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

おばか企画・ニューシネマ ぱらだいす。 1

2020年05月06日 09時53分54秒 | おばか企画・ニューシネマ ぱらだいす。
※ このお話は、キャラの破壊度がいつになく進行しております。吟遊詩人の琴の音のように典雅な精神とひろーい度量をお持ちの方に、特に推奨いたします。

前回までのあらすじ?(このあらすじは架空のものです)

びんぼうな新米官吏・費文偉は、ゴールデンウィークのあいだ、食糧難をなんとかするべく川に泥鰌を釣りに行ったが、キャンプ中の陳一家に邪魔をされ、泥鰌を釣ることができなかった。
遊びに行くにもお金がなくて、ひもじいばかりなので、短期のアルバイトをすることを決意。
そして栄耀飯店の経営するDVDレンタルショップへ足を運ぶのであった…

まずは、ごあいさつ。

やけのやんぱちになった費文偉は、家の鏡で、懸命に『店員用スマイル』を学習し、身なりも仕事にいくときよりこざっぱりとさせて、さっそくDVDレンタルショップ『ニューシネマ ぱらだいす 成都店』へやってきた。
成都一の歓楽街・長星橋の一角にある、大きな三階建てのDVDレンタルショップである。
一階がアジア映画、二階が洋画、三階がおとな向けという内訳だ。
一本が一週間で480円と高値だが、ほかに競合する店がないのと、品揃えが豊富なのとで、なかなか繁盛をしている。

駐車場へやってきたとき、ふと、立派な馬車のとなりで、荷台に背をもたれさせ、いかにも高級そうな絹の服を身にまとった同年輩の少年が、じゃらじゃらと、あきれるほどにストラップのたくさんつけた携帯でもって、どこかと話をしているのが見えた。
一見しただけで、垢抜けており、いかにも贅沢になれているといったふうの、費文偉としては反発を抱く類いの少年である。
卵型の顔に通った鼻梁の特長的な、聡明そうな少年だ。
だが、目つきがよろしくない。
吊り目ではなく、むしろたれ目なのであるが、奇妙にきつく見える、ある意味まったく余裕のない内面が、そのまま目の表情にあらわれているような、見る者を追いつめるような目をしていた。
さらに口は冷笑的に歪んでおり、性格の悪さ、自己中心的な性質を、これまた端的に示していた。

「パパぁ、いったいいつまでこっちにいりゃあいいの? なんにもなくて、チョー退屈なんだけどー。
山登りー? 疲れるだけじゃん。こっち田舎だから、ロープウェーもないしさー。
ジャングル探検? 冗談じゃないよ、変な病気になったらどうすんの? 漢帝国の大いなる損失だよ、そ・ん・し・つ! 
ほんっとうに、むかつくほど田舎なんだよなー。人間もダセぇし、食事はやたら辛いばっかだし、湿気はあるわで、すぐべたべたしてくるしぃー、全部むかつくってかんじー」

『あまり係わり合いにならないほうがよさそうだ』
文偉はそう判断し、駐車場を行き過ぎると、店内に入った。
「こんちわー、今日からお世話になります費文偉といいます」
と、カウンターにいた、『臨時日雇』という腕章をつけた店員が振り返る。
なんのことはない。
「休昭、おまえもか!」
カウンターには、妙に店員用エプロンのよく似合う、親友の董休昭がいた。

父親がいまをときめく軍師将軍・諸葛孔明の片腕ということもあり、費家よりはいくらかましな生活をしているのだが、父親の董和というのは、弱いものを助けるために、日々生きているような人で、そういう人のところへは、どういうわけか、本当にどうにもならないほど困っている人がやってくる。
董和は、困った人をほっとけない性質ときている。
そこで需要と供給がうまくかみ合って、董家は、人助けびんぼうとなっていた。

「ゴールデンウィークは地上の楽園へ行く、とか言って、自慢してなかったか」
「…『ニューシネマ ぱらだいす』…嘘じゃないぞ」
「最近は、さすがに食べるのには困らなくなったといって、この間も、うちにおこわを分けてくれたじゃないか。なのに、跡取り息子みずからが、大型連休に働いている、というのも悲しいぞ」
「生活するぎりぎりのところは大丈夫なのだ。だが、余裕がない。じつは、一ヶ月ほどまえからバイトをはじめていたのさ。もうすぐ、父の日だろう」
「あいかわらず、父親孝行なやつだな。で、プレゼントをするための小遣い稼ぎをしている、と。
事情はわかった。俺としても、知り合いが同じ職場にいる、というのはありがたい。よろしく頼むよ」
「一ヶ月とはいえ、だいたいの仕事はおぼえたから、頼りにしてくれ。
ところで駐車場を通ってきたのだな? あの嫌味っぽい子供、まだいたか?」
子供、などと言ってはいるが、世間一般から見たら、十七歳の童顔の休昭は、似たようなものである。
「うん? あの派手な携帯で、『パパ』とやらに、蜀の悪口を言っていたガキか」
「そうそれ。わたしは別に愛国心が特別強い人間じゃないが、それでも、よそ者にああいうふうに悪口を叩かれると、やはりムッとするな」
「話したこともないのにアレだが、なんだか仲良くなれそうにないガキだ。
こういうときは、無視するにかぎる。ところで、俺は何をしたらいいのだ?」

カウンター業務 その1

返却用DVDの棚には、さまざまなジャンルのDVDがずらりと並んでいる。
「まずは返ってきたDVDの仕分けだな。階数ごとのジャンルに分けてくれ。
そのあと、所定の場所に返す。汚れているものがあったら、布巾で綺麗にしておいてくれ。意外に汚れていたりするぞ」
「『となりのトトロ』の隣に『かまきり夫人』がある、という光景も、なんだかシュールだな」
「ああ、そこにあるアダルトDVDの一群、主公が借りたものだから」
「へ?」
「すごいよな。堂々と本人が返しにきたぞ。天真爛漫というか、自分に正直、世間にも正直、というか…」
「大物だなぁ。おや、いらっしゃいませ」

見ると、趙子龍が、DVDの専用バック片手に店に入ってきたところであった。
カウンターにいる、毎度おなじみのコンビを見て、ほんの一瞬、顔をこわばらせる。
とはいえ、その表情の変化も、ほんとうに一瞬のことであったから、見分けることができるのは、そのひととなりをある程度まで理解している人間だけであったろう。
趙子龍は、DVDの袋を休昭に返却すると、ではな、と短く言って、そのまま踵を返してしまった。
「あれ? 借りにきたのではなかったのか…」
「休昭」
文偉は、親友の服の袖をつんつんと引っ張る。
「中! 中身見たい! DVD袋の中身。開けていい?」
「そりゃあ、見てもいいけど…っていうか、開けないと仕事にならないだろ。なんだってそんなに興奮しているのだ。怖いぞ」
「だって、気になるだろ、あの方がどんなDVD見るのか」
ちらりと文偉は、劉備が返した、ろくでもないDVDをちらりと見て、言う。
「もしかしたら、とか!」
「うーん、それはそれで、人付き合いが変わりそうでイヤだなー。というより、おまえ、なにを見ても、店を出たら、だれにも言っちゃダメだぞ」
「守秘義務だな? わかっているとも。さー、なにが出るかなー?」
一本目。『世界遺産紀行一・フィレンツェ編』
「フツーだ」
「フツーだなぁ…」
二本目。『イースター島紀行・モアイのなぞ』。
「うーむ」
「………」
三本目。『どうぶつのあかちゃん・子馬編』。
おわり。
「………ナニコレ」
「……うーむ、あの人のイメージなら『ロボコップ』なんだがなぁ」
「そりゃ、『趙将軍が見そうなDVDのイメージ』じゃなく、『趙将軍に近いイメージのDVD』だろ? うちの職場でさ、趙将軍があんまり完璧で人間らしくないので、じつは新野時代に、軍師将軍が魔術を駆使して製造した、フレッシュゴーレムじゃないかって噂があってさ、俺、いままで否定派だったけど、いま、肯定派になったわ…」
「いや、それは否定してさしあげるべきだろう。しかし、なにがおもしろいのかな、このラインナップ…」
「趙将軍とTVを共有できそうにないな、俺…」

店内清掃

「モップでもって、店内の床を掃除するんだ。結構汚れているから、気合で磨けよ」
と休昭に言われ、文偉は、店内のモップ掛けをはじめた。
店内には、ちらほらと見知った顔がいる。
『うーむ、何も考えずに時給で決めたバイトであったが、こうして見ると、意外な人の意外な趣味がわかって面白いものだな』
ふと目をやると、軍師将軍・諸葛孔明が、真剣そのものの顔をして、DVDのパッケージを見ていた。
立っているコーナーは…
『ホラーコーナー』
なんとなく、見てはならぬものを見てしまった気がして、文偉は掃除をてきとうに切り上げて、カウンターへ帰ってきた。

「休昭、軍師が来ておられるぞ。ホラーコーナーにいた」
「へえ? あの方はたしかに会員だが、ホラーなんてのは珍しいな。いつもは本当に、普通の作品ばかり借りていくのだがな」
と、休昭は、顧客管理画面を休昭に見せる。
なるほど、そこにはごくごくポピュラーな作品ばかり。
『ライムライト』、『グランドホテル』、『北北西に進路を取れ』、『サウンド・オブ・ミュージック』などなど。
「渋いなぁ、名画ばかりではないか。でもなんだか、あの方の趣味じゃなさそうな」
「このリストにたまーに入っている『スヌーピーベストコレクション』やら、『あらいぐまラスカル』やらは、喬どのがお好きなのだそうだよ」
「なんで知っている」
「ご自分でそう仰っておられたからさ」
「あのひとが、自分で? へぇ?」
と、ふと何気なく新作コーナーを見て、文偉は愕然とする。
「あっ! 最後に一本だけ残っていた、あとで借りようと思っていた『ターミナル』がない!」
「それなら、さきほど劉巴どのが借りられていったぞ。なんかさ、パッケージのうしろの『STORY』をじっと読んでおられたのだが、それだけで目がウルウルしていたなぁ」

トム・ハンクスとS・スピルバーグ監督が組んだ『ターミナル』は、東欧の旅行者がNYにやってくるものの、母国が突然、クーデターを起こして帰国できなくなってしまい、アメリカへの入国許可も下りないまま、ある『約束』を果たすため、ひたすら空港から出る日を待ち望みつつ、やむをえず空港で日々を過ごすことになる、という、心温まるヒューマンドラマです。
劉巴の目がウルウルしていた理由が分からない方は、wiki検索してね。

「うーむ、コメントはあえて差し控えさせていただく」
「ほんと、ウチの国は、色んな事情を抱えた人間がいるよなぁ」

つづく……

(サイト「はさみの世界」 初掲載年月日・2005/05/03)


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