No Room For Squares !

レンズ越しに見えるもの または 見えざるもの

木村伊兵衛の秋田 

2016-11-21 | 街:秋田





木村伊兵衛といえば、戦前戦後を通じて幅広い分野で活躍した、日本を代表する写真家の一人である。ライカ使いとしても有名で数々の伝説的なエピソードを持っている。その木村伊兵衛は、1950年代に古くからの田園風習の残る秋田に何度も訪れ、数多くの写真を残している。現在の秋田県の観光キャンペーンの公式ポスターは、氏の代表作品の一つでもある「おばこ」の写真が使われている。その木村伊兵衛の写真展「木村伊兵衛の秋田」が秋田市内で開催された。正直、僕にとっては馴染みのある写真家ではないけど、上質のプリントを見る絶好の機会なので、早速行ってきた。そしてそこで感じたことを少々書きたいと思う。

秋田県で写真展が開催されることは稀有であり、僕は可能な限り見にいっている。正直どの写真展も大盛況という状況にはなく、逆にいえばじっくりと鑑賞できるというメリットもある。ところが今回の写真展には驚いた。大盛況なのである。一つには秋田県と所縁のある写真家だからという面がある。秋田に何度も訪れた写真家であり、「木村伊兵衛の秋田」という写真集も出版しているし、観光キャンペーンのポスターにも採用されている。それにしても会場の混雑ぶりは異様だった。普段はおよそ写真展など見に来ないであろう客層の人も沢山いる。展示写真を見ながら、周囲の人の会話を聞いて、その理由が分かった。それは単純明快な理由であり、そこに気づかないこと自体、僕がいかに写真馬鹿になってしまったかを証明するものだった。その理由とは・・・。


理由:観客は木村伊兵衛の写真だから見にくるのではなく、昔の秋田県の風景・風俗・町並みの写真を見に来ている。


この事実をもって、木村伊兵衛氏に失礼とかそういう問題ではなく、人が写真を記録し、それを見るという行為の本質がそこにはあるような気がする。これが本来の写真の姿なのかもしれないなと感慨深かった。木村伊兵衛は、写真の鬼と言われた高圧的な土門拳とは対照的な人柄であったという。時に気配を消し、時にすっと懐に入り込み、一瞬の早業でさっと撮ったという話を聞いたことがある。そんな木村伊兵衛だからこそ撮れた写真ではあるが、観客は撮り手の存在は意識せず、ただ昔を懐かしみながら写真を見ている。ある意味、写真撮りとしての桃源郷に達したとも言えるだろう。撮り人知らず、僕はそこまで達観できないけど、究極の姿だと思う。





LEICA M9 / SUMMICRON 35mm ASPH



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4 コメント

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Unknown (ariari)
2016-11-21 22:48:14
理想ですね。撮り人知らず。
写真を見る人は写真を趣味にしている人、という図式が嫌なんですよ。
絵画などの美術や音楽は当たり前に専門家を対象にしていないのに、写真だけが趣味人ばかりを対象としている気がします。
だから人が入った景色だと「邪魔だどけ!」となるのでしょう。
ぼくは写真を趣味や仕事にしている方に自分の写真を褒められるのは違うかなと思います。
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師匠 (6x6)
2016-11-22 08:59:42
音楽でいえば分かりやすいですね。
僕は素人で、ロクに楽器もできないけど、ジャズを楽しんでいます。もちろん、音楽への造詣が深まると見えてくるものもありますが、コード進行とか楽器のメーカーを意識して聴いているわけではありません。
音楽にも、「素人には分からない」と悦に入っているスノビッシュなファン層もいますが、それと音楽を楽しむことは別です。

写真についても同様のことがあり、僕は趣味のレベルですが、同じようになっていないか、自省したところです。

「写真のことは全然分かりませんが、この写真はジーンと来て好きです」
こんなこと言われるのが、一番うれしいですものね。

追申:木村伊兵衛氏は、明らかに「記録」を意識していたのだな、と思いました。


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お久しぶりです (鉄板男)
2016-11-22 11:49:57
木村伊兵衛の秋田シリーズいいでね
特に1953年頃の写真は充実してますね
その頃の秋田には失われつつある日本の原風景が残っていたのでしょう
記録写真も時間軸の中で熟成していくものなのでしょう
木村伊兵衛の写真ほど素人から玄人までうならせる写真は少ないように思われる。
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鉄板男さんん (6x6)
2016-11-22 18:36:44
お久しぶりです。
1953年とか、50年代後半の写真が多く、田園の原風景みたいな光景でした。決して裕福ではないけど、全く不幸ではない、そんな時代だったようですね。

その頃のおばこ(若い女性)、今は70代のお婆ちゃんが沢山来ていて、「あれま、懐かすい」とか大喜びしていました。
一張羅を着た車椅子のお爺ちゃんとか。いいなあ、これが本来の写真だなあと思いました。市井の人を撮って、市井の人が観る。これですよね。
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