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システム的接近、システム主義(5)

2016年06月25日 22時38分06秒 | システム学の基礎
2016年6月25日-2
システム的接近、システム主義(5)

  「
 たった三つの量的性質だけを含むプロセスを考えよう。それらの性質を、X、Y、Zとする。たとえば、或る化学反応装置における化学物質の濃度、有機体〔生物体 organism〕の生命徴候 vital sign 、或る生態系での個体数密度、などである。三つの性質の各々は、時間の関数であり、三つすべては単一の関数 F=〈X, Y, Z〉へと組み合わせることができる。これは、システムの_状態関数 state function_と呼ばれる。なぜなら、時点tでの F(t)=〈X(t), Y(t), Z(t)〉の値は、tでのシステムの_状態 state を表わす〔表象する represent〕からである。F(t)はそのシステムで起きているプロセスの瞬間撮影〔寸描、スナップ写真 snapshot〕である。F(t)はまた、状態空間(または相空間)における軌跡を記述するベクトルの先端部としても想像できよう。この軌跡、つまり状態 H=〈F(t) | t ∈ T〉の順序配列は、問題としている期間 T にわたるシステムの_歴史 history_を表わす。この歴史は、システムの現実の可能な(または法則にかなった lawful)状態すべてを表わす箱の中に限定される。これは、全状態空間の有限な部分集合である。なぜなら、有限のシステムの現実の〔実在する real〕性質が、無限の値に達することはあり得ないからである。宇宙論ではよくあることだが、もしこのような特異点が真面目に受け取られるならば、その当のモデルは科学的であることを止めているのである。
 さて、或る時点 teで、ベクトル F(t)はX—Y平面にあり、そのZ成分はその時点に成長し始めると、仮定しよう。言い換えれば、そのシステムは、それまでは単に可能性だけだったのが、時点 tで性質Zの創発へと導く変化を遂げるのである。(たとえば、環境温度が一定の値に達するときにだけ開始する、X + Y → Zという形の化学反応を考えてもらいたい。)そのとき以降、三つすべての性質が続く限り、状態ベクトルの先端部は三次元状態空間のなかを動くだろう。ちょうど、創発が状態空間における軸の発芽として表わすことが可能なように、潜没は刈り込みとして表わすことが可能である。そして、或る時間間隔におけるシステムの全歴史は、その類に特徴的な状態空間における軌跡によって、表わすことが可能である。これらの状態空間は、物理的空間と混同されてはならない。一般に、それらの次元は3よりも大きいからというだけでも、そうである。(量子力学での状態空間は、無限次元のヒルベルト空間であり、或る場合にはそれらの軸は一つの連続体を構成する。)


結語

 この章と前の章では、ときにはシステム主義、他のときには創発主義と呼んだ世界観と接近の概略を述べた。その焦点が、システムと創発という概念だからである。システム主義、あるいは創発主義は、四つの一般的だが一面的な接近を組み込んでいると思われる。
 1. _全体論 holism_。これは、システムを全体として組みつき、システムを分析することも、全体性の創発と破損をその構成要素とそれらの間の相互作用によって説明することも拒む。この接近は、素人と哲学的直観主義と非合理主義に特徴的である。ゲシュタルト心理学にも特徴的なのはもちろん、「システム哲学」として通用している多くにもそうなのである。
 2. _個体主義 individualism。これは、システムの構成に焦点を合わせて、個体を超えるいかなる存在者もその性質も認めることを拒否する。この接近は、とりわけ社会的研究や倫理哲学における過度の全体論に対抗した応答としてしばしば提案される。
 3. _環境主義 environmentalism。これは、システムの構成、内的構造、そして機構を見落とすほどにまで、外的要因を強調する。行動主義的見解である。
 4. _構造主義 structuralism。これは、構造を、まるで前から存在するかのように、さらには物とは構造であるかのように扱う。いかにも、観念論者的見解である。
 これらの四つの見解の各々は、真理の一端をつかんでいる。それらを一緒にすることで、システム主義(または創発主義)は、よくある四つの誤謬を避けるのに役立つのである。
」[20160625試訳]。
(Bunge 2003: 38-39)。