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Mario Bungeのシステム的接近、システム主義(1)〜(5)のまとめ

2016年06月25日 23時53分53秒 | システム学の基礎
Mario Bungeのシステム的接近、システム主義(1)〜(5)のまとめ
δ

 Mario Bunge がシステム的接近またはシステム主義について述べた下記の書の部分を訳出し、まとめようと思う。

 (1)Bunge (2003b) 『創発と収斂:質的新奇性と知識の統一』
 (2)Bunge (2013) 『医学哲学:医学における概念的争点』の「2.3 システム的接近」(pp. 43-47)

 Mario Bunge (2003b) 『創発と収斂:質的新奇性と知識の統一』に、システム的接近についての記述がある。また、システム的分析として、CESM分析、つまり構成、環境、構造という3つの分析に加えて、機構の分析が登場している。


A. 機構についての箇所

 第2章 システムの創発と潜没(pp.26-)のpp.29-30に、機構について言及しているところがある。その箇所を、以下に訳す。

  「
 言い換えれば、システムの創発、振る舞い、そして分解〔解体〕 dismantling を説明するのに、そのシステムの構成と環境だけではなく、総体的(内的および外的)構造によっても説明するのである。さらに、これで十分だというわけではない。システムの機構 mechanism または作動様式 modus operandi についての何かをも、知るべきである。すなわち、どんなプロセス
  〔過程と訳すと、機構が関わらないように受け取れる。→Oxford Paperback Dictionary を見よ[後述]〕

によってそれが振る舞うようになっているのか、あるいは振る舞うことを止めるようになっているのか、その仕方である。

 システムを動かす機構を見つけ出す方法は、システムの特異的機能を探すことである。すなわち、それに特有のプロセスを探すことである(Bunge 2003b)。表2.1を見よ。

表2.1 よく知られているシステムの特異的機能と関連する機構
============================================
システム    特異的機能         (諸)機構
--------------------------------------------------------------------------------------------------------
川       排水             水流
化学反応装置  新しい分子の創発       化学反応
有機体     維持             代謝
心臓      血液汲み上げ〔ポンプ作用〕  収縮─緩和
脳       行動と精神状態        神経細胞間の結合
時計      計時             いくつか〔の機構〕
学校      学習             授業、勉学、議論
工場      商品製造〔生産〕       労働、管理
売店      商品の流通          商売
科学実験室   知識の成長          研究
学術共同体   品質管理           査読〔同僚評価〕
裁判所     正義の探求          訴訟
非政府組織   公共奉仕           自発的労働
============================================

 いくつかの場合、或る特異的機能は、様々な機構を持つシステムたちによって成し遂げられるかもしれない。これらの場合、問題としているシステムたちは_機能的に等価である functionally equivalent_ と言える。たとえば、輸送は、車、船、または飛行機による結果であり得る。いくつかの計算は、脳かあるいは計算機〔コンピュータ〕によって実行され得る。また、不平を取り除くことは、団体交渉、訴訟、暴力、または賄賂によって得られよう。(機構が与えられた場合、その機能を見つけることは、直接的問題である。対照的に、機能から機構へ進むことは、逆問題に携わることである。それは、少しでも解決可能だとしても、機能と機構の写像〔対応規則〕が一対多であるときには、二つ以上の解がある。)よくある間違いは、機能的等価性からシステム同一性を推論することである。この誤りは、_機能主義 functionalism _と呼ばれるが、心についての計算主義的見解の核心である。そのことについては、第9章第3節でもっと詳しく述べる。
」[20160621試訳、20160622試訳]。
(第2章 システムの創発と潜没から、機構についての箇所。Bunge 2003b: 29-30)。


□ 文献 □Bunge, Mario.

Bunge, M. 1999. Dictionary of Philosophy. 316pp. Prometheus Books. [B991213, $41.97+48.65/7]

Bunge, M. 2003a. Philosophical Dictionary. Enlarged edition. 315pp. Prometheus Books. [B20070507, y2,786]

Bunge, Mario. 2003b (2014 reprinted in paperback). Emergence and Convergence: Qualitative Novelty and the Unity of Knowledge. Toronto Studies in Philosophy. [B20150720、4,746+257=5,003円amz、fromBK]

Bunge, Mario. 2003c. How does it work? Philosophy of the Social Sciences (forthcoming). →
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.386.4336&rep=rep1&type=pdf[受信:2016年6月22日。]

Bunge, M. 2008. Political Philosophy: Fact, Fiction, and Vision. Transaction Publishers. [B20090119, y6,431]

Bunge, Mario. 2013[/5?]. Medical Philosophy: Conceptual Issues in Medicine.  [B20150716、paper 6,016円amz]



B. システムの諸型

 「
第4節 システムの諸型 System Types

 システムには、いくつかの異なる種類のものがある。最初のクラス分け〔分類〕は、観念的/物質的という二分法である。つまり、観念的なものは何であれ、物質的ではないし、逆にもそうである。唯物論者と同様に、観念論者もこの二分法を支持する。しかし、観念論者は観念的対象が独立して存在すると考えるが、唯物論者は観念的対象なぞ、或る人が考え得る程度にしか存在しないと主張する。
 しかし、観念的/物質的という二分法は不十分である。或る物質的システムたちは、たとえば社会的システム、科学技術的システム、そして記号的システムといったものであるが、それらは観念を組み入れたり表現したりするのだ。諸システムを幾分かより細かく区別すると、次の通りである。

1. _自然的 natural_。たとえば、分子、河川網、神経系。
2. _社会的 social_。たとえば、家族、学校、言語的共同体。
3. _技術的 technical_。たとえば、機械、テレビ放送網、高度技術〔先端技術〕病院。
4. _概念的 conceptual_。たとえば、或る分類、仮説演繹体系(理論)、法典。
5. _記号的 semiotic_。たとえば、或る言語、楽譜、建物の青写真。

 次のことに注意されたい。第一に、この類型論 typology は、創発的(または非還元主義的)唯物論的存在論に属する。他の存在論においては、何の意味も無い。とりわけ、観念論において(特にプラトン主義と現象主義で)受け入れられないのは、俗流の唯物論において(特に物理主義で)受け入れられないのと同様である。
 第二に、この類型論は分割ではない。ましてや、一つの分類ではない。なぜなら、(a)たいがいの社会システムは、社会的であると同様に人工的だからである。学校、商業、あるいは軍隊について考えてみよ。(b)或る社会システム、たとえば農場、工場といったものは、人々だけでなく、動物、植物、または機械を含んでいるからである。(c)すべての記号システムは、自然言語でさえも、人工物であるからである。それらのうちのいくつかは、概念的システムを、たとえば科学的な式や線図 diagrams を選定するからである。そして、(d)すべての社会的システムにおける活動は、記号的システムを使うことを伴うからである。さらに、上記の類型論は、この世界を構成する諸システムのいくつかの顕著な客観的特徴を粗く表わしている〔表象している〕にすぎない。
 上記の五つの概念の、手っ取り早い(したがって隙だらけの)定義は、次の通りである。
 定義2.1 _自然的 natural_ システムとは、すべての構成物が自然に属し(つまり、人工ではない)、かつ、構成物間の結合が自然に属するシステムである。
 定義2.2 _社会的 social_ システムとは、構成物のいくつかが、同種の動物たちで、かつ、他のものは人工物であるシステムである(道具のような生命の無いものか、家畜のような生きているものである)。
 定義2.3 _技術的 technical_ システムとは、人々によって技術的知識で構築されるシステムである。
 定義2.4 _概念的 conceptual_ システムとは、概念から成るシステムである。
 定義2.5 _記号的 semiotic_ システムとは、(たとえば言葉、楽譜、そして図といった)人工的標徴 signs から成るシステムである。
 定義2.6 _人工的 artificial_ システムとは、構成物のいくつかが作られたシステムである。

 明らかに、人工的システムのクラスは、公的な社会組織(たとえば学校、商社、そして政府)はもちろん、技術的システム、概念的システム、そして記号的システムの和である。すべての言語は、作られるのであるから、人工的である。たとえば英語といった「自然」言語と、たとえば(微積分としてではなく、言語として使われるときの)述語論理といった「人工的言語」との間の違いは、後者は多少とも自発的に進化するということなく設計されるという点である。」[20160622試訳]
(Bunge 2003b: 33-34)。



C. 構成環境構造機構(または成環構機)またはCESMモデル

  「
第5節 CESMモデル〔構成 環境 構造 機構モデル〕

 システム理論の文献によく見られるシステムの定義を、三つ挙げれば次の通りである。

D1 システムとは、一つの全体として振る舞う集合であるか、または事項の収集体である。

D2 システムとは、構造化された集合または集合体である。

D3 システムとは、或る類いの事項の集合についての二項関係である。たとえば、黒箱〔ブラックボックス〕における入力と出力の対である。

 これらの定義のいずれも、科学的目的のためには適さない。D1は、欠陥がある。なぜなら、(a)収集体が一つの単位として振る舞うようにしている特徴、つまり創発的性質を指し示していないからである。また、(b)「集合」を「収集体」と同じとしているのは、誤りである。なぜなら、集合は概念であり、それらの構成は完全に固定されている。ところが、生物種といった、具体的収集体または集合体 aggregate は、時間とともに変化する。D2は誤りではないが、不完全である。システムの構造を、すなわち、構成者たちを一緒にしておく関係の収集体を、特定するのに失敗している。そしてD3も、不備である。なぜなら、それは黒箱についてだけ成立するからである。それは、複雑な物質的物の最も粗い表象であり、さらに、システムは外的刺激に応答してのみ変化すると仮定する定義だからである。実際は、内的諸力は少なくとも同等に重要である。
 これらの異議のゆえに、システムを構造化された対象として、自らの定義を前に提案したのであった。この代替の定義は正しいが、それでも、まだまだ粗すぎる。なぜなら、システムの環境と機構を含むことに失敗しているからである。次の特徴づけは、CESMモデルと呼ばれ、もっと包括的である。それは、いかなるシステム_s_も、所与の時点で、四つ組としてモデル化できる。

 μ(s)=〈C(s), E(s), S(s), M(s)〉

ここで、
 C(s)=構成:sのすべての部分の収集体;
 E(s)=環境:sのいくつかのまたはすべての構成要素に作用するか作用される事項〔むしろ物項と訳すべきか。または項目〕の収集体。ただし、sにおけるそのように事項は除く;
 S(s)=構造:構成要素の間の諸関係、または構成要素とsの環境E(s)における事項との間の諸関係、とりわけ諸結合;〔←原文のピリオドは、;の間違いに違いない〕
 M(s)=機構:sがそのように振る舞うようにする、sにおける諸プロセスの収集体。
 例1。2個の成員〔属員〕からなる半群、
  C(s)=これといった特徴のない要素 aとb の集合;〔改行されずに続くが、見やすいように改行した。また、例毎でも改行した。〕
  S(s)=連結(a⨁b、b⨁a、a⨁a、b⨁b、a⨁b⨁a、そしてb⨁a⨁b);
  E(s)=述語論理;
  M(s)=空集合。
 例2。一つの文は、一つの(記号的)システムである。というのは、いくつかの語を連結することの結果であるから。
 例3。一つの本文 a text は、システムであるかもしれないし、システムでないかもしれない。そのことは、その構成要素の表現がなんらかの仕方で「つじつまが合う」かどうか、つまり、同じ主題に言及しているかのか、あるいは含意の関係によって繋がっているかどうかに、依存する。
 例4。一つの原子。ここで、
  C(s)=構成物である粒子と関連する場;
  E(s)=その原子が相互作用する相手となる物たち(粒子と場);
  S(s)=その原子をくっつけておく場と、加えてその環境における諸事項との相互作用;
  M(s)=光の放出と吸収、組み合わせ、など。
 例5。一つの言語的社会。ここで、
  C(s)=同じ言語を話す人々の収集体;
  E(s)=その言語が使われる(諸)文化;
  S(s)〔原文のC(s)は、誤植に違いない〕=言語的通信〔コミニュケーション〕関係の収集体;
  M(s)=記号 symbols の生産、伝送 transmittion、受け取り reception。
 例6。会社 a firm。ここで、
  C(s)=社員と経営陣;
  E(s)=市場と政治体制 govenment〔政府〕;
  S(s)〔ここでも、原文のC(s)は誤植に違いない〕=会社の構成員の間の仕事関係、そして会社構成員とその環境との仕事関係;
  M(s)=会社の生産物で終わる諸活動。
 最後に、例7。システムたちではないものの福袋。すなわち、構造を欠いた、不特定の要素の任意の〔恣意的な arbitrary 〕集合。一つ以上の言語から出鱈目に選び取られた記号の任意的収集体、分解された機械の部品の山〔積み重ね〕、世界全域に移動してしまった人たちから成る、大家族または村。
 次の点に注意されたい。第一に、収集体は不変の成員性〔属員性〕を持つかもしれないし持たないかもしれない。持たない場合にのみ、集合と呼ばれる。具体的システムは常に流転しているから、構成は時を経て変化し得る。自然言語とか言語的共同体のことを考えてほしい。第二に、一全体としての宇宙を除いて、あらゆるものは、それが相互作用する環境を持っている。第三に、「結合 bond」(またはその同義語である「結び tie」)は、関係項〔複数〕relata になんらかの相違を生じる関係を表わす。たとえば、一つの相互作用は、一つの結合である。他方、より大きいとか、左側であるという関係は、結合ではない。第四に、システムの構造は、二つに分割し得る。すなわち、(a)_内部構造 endostructure_、つまりそのシステムの成員間の結合の収集体、そして(b)_外部構造 exsotructure_、つまりシステム構成要素と環境事項との間の結合の収集体である。システムの外部構造は、特に重要な二つの事項を含んでいる。すなわち、_入力 input_と_出力 output_である。入力は、環境項目のシステムへの作用の収集体であるが、出力は、システムのその環境への作用である。入力と出力だけを含むシステムモデルはどれも、黒箱 black box と呼ばれる。入力と出力だけを含むシステムモデルはどれも、黒箱 black box と呼ばれる。他方、外的構造と機構を表わし〔表象し represent〕もするモデルは、透明箱モデルと呼ばれてもよい。第五に、環境項目〔事項〕との直接関係を維持するシステムの属員〔成員 members〕だけを含む、外的構造の部分集合は、システム_境界 boundary_と呼ばれてもよい。注意されたいことは、(a)この概念は、形状 shapeまたは幾何的形態という概念よりも広いこと、(b)量子力学的〔量子機構的 quantum-mechanical〕システムや有限の領域に限定された連続的媒体の場合のように、境界または縁 edge についての明示的言及が、それに依存するシステム機構がなんであれ、必要とされること、そして(c)宇宙は境界を持たないこと、である。
 入力─出力モデルまたは黒箱モデルは、CESMモデルの特別な場合であることに注意されたい。実際、入力と出力の端子を持つ箱は、構成は単集合 singleton で、環境は概略だけで、構造は入力と出力の集合であり、そして内部機構は純粋に機能的(行動的)用語で指定されるようなCESMモデルなのである。これが、行動主義がときおり「空虚な有機体モデル」と呼ばれる理由である。サイバネティクスは、構成を犠牲にして構造を強調する別の例である。作られている「材料 stuff」に関係なく制御システムに焦点を当てる(たとえば、Wiener 1948、Ashby 1963を見よ)からである。
 見かけは簡素なのだが、実践上は、CESMモデルは扱いにくい。というのは、システムのすべての部分についてとそれらのすべての相互作用についての知識だけでなく、残りの世界との連結についての知識も、必要とされるからである。実践では、_或る水準での_構成、環境、構造、そして機構という概念を使う。たとえば、分子の原子的構成、器官の細胞的構成、あるいは、社会の個人的構成について語るのである。〔素〕粒子物理学を除いて、なんらかの物の究極的構成要素を扱うことは決して無い。そして、〔素〕粒子物理学でさえも、数多くの(とりわけ環境事項との)相互作用を、ふつう無視するのである。
 より精確には、sのすべての部分の集合 C(s)を取るかわりに、実践では、類 aの部分の集合 Ca(s)だけを取るのである。すなわち、 C(s) ∩ a = Ca(s)という共通部分または論理積を形成するのである。四つ組 ミュウ(s)の他の三つの軸についても同様に進めるのである。すなわち、Eb(s)つまり水準bでのsの環境、Sc(s)つまり水準cでのsの構造、そしてMd(s)つまり水準dでのsの機構を取るのである。要するに、_減少された〔還元された〕CESMモデル_と呼ばれ得るものを形成するのである。すなわち、

  μabcd(s)=〈Ca(s), Eb(s), Sc(s), Md(s)〉。

 たとえば、社会システム(または集団)のモデルを形成するとき、全個人から構成されると取るのが普通である。したがって、システムの内部構造を個人間の諸関係に制限することになる。しかしながら、「a」、「b」、「c」、そして「d」の意味を変化させれば、同じ社会についての完全な束のモデルを構築することを妨げるものは何も無い。所与の社会システムの一定の下位システムを、たとえば家族や公的組織を、分析の単位と取るとき、これを行なっているのである。もちろん、すべての知識分野で、同様な束のモデルが構築され得る。
 システムについての上記のモデルは、創発 emergence と潜没 submergence 、すなわち、生成と崩壊のシステムのモデルで補足されるべきである。或る類のシステムの量的および質的変化をモデル化することへの最も一般的な接近〔アプローチ〕は、状態空間的接近である。これは、量子物理学から遺伝学から個体数統計学〔人口学 demography〕まで、どの専門分野でも、使われるか使用可能である。その概略を述べることに取りかかろう(詳細については、たとえばBunge 1977aを見よ)。
 たった三つの量的性質だけを含むプロセスを考えよう。それらの性質を、X、Y、Zとする。たとえば、或る化学反応装置における化学物質の濃度、有機体〔生物体 organism〕の生命徴候 vital sign 、或る生態系での個体数密度、などである。三つの性質の各々は、時間の関数であり、三つすべては単一の関数 F=〈X, Y, Z〉へと組み合わせることができる。これは、システムの_状態関数 state function_と呼ばれる。なぜなら、時点tでの F(t)=〈X(t), Y(t), Z(t)〉の値は、tでのシステムの_状態 state を表わす〔表象する represent〕からである。F(t)はそのシステムで起きているプロセスの瞬間撮影〔寸描、スナップ写真 snapshot〕である。F(t)はまた、状態空間(または相空間)における軌跡を記述するベクトルの先端部としても想像できよう。この軌跡、つまり状態 H=〈F(t) | t ∈ T〉の順序配列は、問題としている期間 T にわたるシステムの_歴史 history_を表わす。この歴史は、システムの現実の可能な(または法則にかなった lawful)状態すべてを表わす箱の中に限定される。これは、全状態空間の有限な部分集合である。なぜなら、有限のシステムの現実の〔実在する real〕性質が、無限の値に達することはあり得ないからである。宇宙論ではよくあることだが、もしこのような特異点が真面目に受け取られるならば、その当のモデルは科学的であることを止めているのである。
 さて、或る時点 teで、ベクトル F(t)はX—Y平面にあり、そのZ成分はその時点に成長し始めると、仮定しよう。言い換えれば、そのシステムは、それまでは単に可能性だけだったのが、時点 tで性質Zの創発へと導く変化を遂げるのである。(たとえば、環境温度が一定の値に達するときにだけ開始する、X + Y → Zという形の化学反応を考えてもらいたい。)そのとき以降、三つすべての性質が続く限り、状態ベクトルの先端部は三次元状態空間のなかを動くだろう。ちょうど、創発が状態空間における軸の発芽として表わすことが可能なように、潜没は刈り込みとして表わすことが可能である。そして、或る時間間隔におけるシステムの全歴史は、その類に特徴的な状態空間における軌跡によって、表わすことが可能である。これらの状態空間は、物理的空間と混同されてはならない。一般に、それらの次元は3よりも大きいからというだけでも、そうである。(量子力学での状態空間は、無限次元のヒルベルト空間であり、或る場合にはそれらの軸は一つの連続体を構成する。)


結語

 この章と前の章では、ときにはシステム主義、他のときには創発主義と呼んだ世界観と接近の概略を述べた。その焦点が、システムと創発という概念だからである。システム主義、あるいは創発主義は、四つの一般的だが一面的な接近を組み込んでいると思われる。
 1. _全体論 holism_。これは、システムを全体として組みつき、システムを分析することも、全体性の創発と破損をその構成要素とそれらの間の相互作用によって説明することも拒む。この接近は、素人と哲学的直観主義と非合理主義に特徴的である。ゲシュタルト心理学に特徴的なのはもちろん、「システム哲学」として通用している多くについても特徴的なのである。
 2. _個体主義 individualism。これは、システムの構成に焦点を合わせて、個体を超えるいかなる存在者もその性質も認めることを拒否する。この接近は、とりわけ社会的研究や倫理哲学における過度の全体論に対抗した応答としてしばしば提案される。
 3. _環境主義 environmentalism。これは、システムの構成、内的構造、そして機構を見落とすほどにまで、外的要因を強調する。行動主義的見解である。
 4. _構造主義 structuralism。これは、構造を、まるで前から存在するかのように、さらには物とは構造であるかのように扱う。いかにも、観念論者的見解である。
 これらの四つの見解の各々は、真理の一端をつかんでいる。それらを一緒にすることで、システム主義(または創発主義)は、よくある四つの誤謬を避けるのに役立つのである。

[20160625試訳](Bunge 2003: 36-39)。


 第2章はp.39で終わり、第3章 システム的接近 The Systemic Approach はpp.40-52となっている。
 第3章の目次は次の通り。
 
  第3章 システム的接近 
   第1節 システム的接近 pp.40-42
   第2節 概念的システムと物質的システム pp.42-43
   第3節 物理的および化学的プロセスへのシステム的接近 pp.43-45
   第4節 生命へのシステム的接近 pp.45-49
   第5節 脳と心へのシステム的接近 pp.49-52
   結語 p.52