検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

「電力システムに関する改革方針」は利権抗争のストーリ

2013年09月13日 | 検証・電力システム
 4月2日閣議決定の「電力システムに関する改革方針」はその2カ月前に発表された「電力システム改革専門委員会報告書」(2013年2月)に基づくものだと言われています。
 確かに改革の3つの目的、「安定供給を確保する」「電気料金を最大限抑制する」「需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する」は「電力システム改革専門委員会報告書」の提言通りです。

 主な改革の内容も専門委員会の提言に沿っています。
しかし、この2つの文書をよく比較検討すると重要な問題を閣議決定の「改革方針」は「専門委員会提言」を骨抜きしています。
 例えば「専門委員会報告書」の提言は一般電力事業者に認めている地域独占と総括原価方式は小売全面自由化の中で「廃止」方向を提言しています。ところが閣議決定の「改革方針」では「送配電事業については、引き続き地域独占とし、総括原価方式等の料金規制により送配電線等に係る投資回収を制度的に保証する。」としています。しかもそれは安定供給の確保のために必要だとしています。

 総括原価方式は電力会社に高収益を「制度的に保証する」ものです。民主党政権から自民党政権に交代して「閣議決定」は電力業界の利権を守る方向転換をしたのです。
 ところで「電力システム改革」は戦後、何度か行われていますが最も激しく政官財が抗争したのは1997年から2003年の第3次制度改革といわれる改革です。

 背景に1990年代の円高、産業空洞化問題と日本経済のバブル崩壊による景気どん底があります。そのなかでも地域独占、総括原価方式で高収益を保証された電力料金は世界の中で一番高いと言われ、産業界から不満・是正の声が起こります。この声に押されて時の佐藤信二通産相が97年1月、「発電、送電事業の分離はタブーとされてきたが、大いに研究すべき分野だ」と発言。これに通産省の官僚・村田成二(元事務次官)が関係しています。

 村田成二は94年、公益事業部長時代から電力10社による発送電独占システムの改革をめざします。それは電力10社の市場独占を快く思わない産業界の意向とアメリカ側の規制緩和要求(電力の市場開放)に応えたものでした。
 しかしこの抗争は村田の敗北に終わります。電力会社が総反撃に出て、まず自民党エネルギー総合政策小委員会の委員長、事務局長で東電出身者や電力族が村田の「改革」に反対。村田は次官を2年勤めて2004年に退任したからです。「村田改革」否定されたことから総合資源エネルギー調査会電気事業分科会報告書(2003年)は「発送電部門の一体的な運用・整備、広域的指示用の整備、電源開発投資環境の整備、需要家選択肢の確保」などを出します。

 この報告書を受けた電気事業法の改正が2005年に行われ、小売自由化が段階的に実施されます。また2004年2月に「電力系統利用協議会:ESCJ」が設立されます。
 そして発送電一環体制を維持させつつ、送配電部門と発電部門の会計分離を実施します。しかし産業界は電力全面自由化と発送電分離をしてこそ日本の再生が始まるとして電力システムのいっそうの改革を求めています。その背後にアメリカの電力市場開放・規制緩和要求があります。

 そうした攻防戦の中で自民党政権から民主党政権に交代しました。福島第一原子力発電事故も起きました。新政権は産業界、アメリカの意を酌み取って電力システム改革に着手します。
 その検討委員会が今年2月報告書を出した「電力システム改革専門委員会」です。昨年2月に発足して1年かけてまとめています。委員会報告としては異例の長さです。この専門委員会に提出された「事務局提出資料」。これを見ると自民党政権が推進した「電力システム」を支えた官僚が民主党政権になって、さまざま抵抗しながら政権の意向を無視することもできず、しかし積極的に意向に沿うこともできず。いかに自分たちが推進してきた電力システムを守るか。それに知恵を出し、抵抗してきたため、時間もかかったと言えます。

 そしてできた「電力システム改革専門委員会報告書」。それを骨抜してできたのが今回の閣議決定。権力闘争、利権争いがそこにあります。「改革方針」は何を目標にしているのでしょうか。次回