夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ロシアの進攻から2年 欧米は永久戦争への陣太鼓を打ち鳴らす

2024-02-26 16:12:26 | 社会

ロシア軍の攻勢に必死で抵抗するウクライナ兵(AP通信)

 2022年年2月24日、ロシア軍は「特別軍事作戦」と称して、突然、ウクライナへ軍事侵攻を開始した。そしてこの戦争は、ウクライナ軍の反転攻勢が失敗に終わり、ロシア軍が僅かな攻勢を見せているが、全体としては、戦線は膠着状態になったまま、終わる気配はない。
 
1.西側の戦争継続の論理
 アメリカを筆頭に、NATO諸国はウクライナへの軍事支援を、今後も継続する意思を表明している。
 アメリカに限れば、バイデン後の大統領になる可能性が高いトランプは軍事支援を縮小する意向を示しているが、共和党はもともと外交問題は軍事力で解決するという志向のネオコンの影響が強いタカ派である(共和党議員には、米軍は大部隊をウクライナに派兵し、一気にロシア軍を壊滅させるべきと主張する者も多い)。「何をしでかすか、分からない」トランプだが、「軍事支援を縮小」は単なる脅しであるとも考えらる。それは、トランプがNATO加盟国の一つに、「カネを払わなけれ、米軍は貴国を守らない」と言ったことでも容易に想像できる。実際は、トランプは、「そのように脅したら言うことを効いた」と自慢したのである。恐らは、アメリカが軍事支援をやめれば、ウクライナは戦争を継続できないので、全体を敵に回しかねない選択をトランプはとらないだろう。結局、軍事支援をやめることはできないのである。

 西側は、現状での停戦を否定し、戦争の継続を主張しているが、その論理は二つに絞られる。一つ目は、停戦しても、ロシアの侵略の意図は変わらず、今後も侵略行為をやめることはない、というものだ。
 これは、戦争の勃発後、2022年2月から3月にかけて、和平交渉が行われたたが、米英が反対し、決裂した。このことは、英国首相ボリス・ジョンソンが4月9日突然キーウを訪問し、停戦はロシア軍増強の時間稼ぎになるだけだと、停戦反対の意向をゼレンスキーに伝えたことは、西側メディアも認めている。それ以降も西側は、停戦に反対してきたし、現在も同様である。交渉決裂後、ゼレンスキーも西側政府首脳も、一貫してウクライナの勝利まで戦争を継続する意思を明確にしている。
 二つ目は、ウクライナの勝利まで戦争の継続は、「自由で開かれた」「民主主義」を権威主義から守るためというものである。ロシアが勝利すれば、その後も「自由民主主義国」を侵略することをやめることはない、という認識である。それ故、特にヨーロッパ諸国は、軍備の拡張に乗り出しているのである。バイデンが「民主主義サミット」を2021年に開催したが、その目的に「自由民主主義国」が結束し、「海外の独裁国家に立ち向かう」ことを挙げたが、そのことも対ロシア戦争の継続理由に完全に当てはまる。
 そして、ロシアを敗北させるために、今まで以上に、大量の砲弾とともに、最新鋭戦闘機や長距離ミサイルを含む、強力な軍事支援をウクライナに与える、というものである。

 この二つの論理は、欧米とその軍事・経済同盟国、即ち西側の政府と主要マスメディアの完全に共通した主張である。同盟国には、日本、韓国、オーストラリアなどと並び、イスラエルも含む。欧米がイスラエルのパレスチナ人虐殺に繋がる「イスラエルの自衛権」を前面支持するのは、(パレスチナ人の自衛権などまったく認めないことも)イスラエルがアラブ世界に接した西側だからである。そして、西側の一員の日本も、政府も主要マスメディアも、この二つの論理を主張し続けていることは、軍事侵攻開始日の2月24日に掲げた全国紙すべての社説がロシア侵攻に関しては、首尾一貫して同一であることからも裏付けられる。
 
2.実現不可能な「ウクライナの勝利」と論理矛盾
 アメリカ国務省は「クライナの勝利とは同国領土からロシアを完全に追放することを意味する 」(2月17日、アメリカ国務省パテル副報道官 )としている。概ね、当のゼレンスキーも、他の西側政府も主要マスメディアも同様の主張をしている。
 しかし、この「ウクライナの勝利」は、西側の戦争継続の論理に完全に矛盾している。「ウクライナ領土からロシアを完全に追放」しても、それが、ロシアの侵略志向を焼失させることにならないからだ。「ロシアを完全に追放」しても、その後は、ロシアは侵略してこないという理由には、まったくならず、西側の論理によれば、ロシアは軍備を増強して、その後も侵略行為を続けるのである。停戦が実現する可能性があった時、そのことをボリス・ジョンソンが、ゼレンスキーに告げたのだ。そうであれば、ロシア軍がロシア領土内に戻ったとしても、権威主義のロシアが変わらなければ、何度でも侵攻してくる理屈になる。そもそもそれが、西側が停戦に反対する理由だったはずだ。


 もし、西側の言うようにロシアの侵略から「自由民主主義国」を守るというのなら、ロシアの侵略する意図と軍事能力を破壊しなければならないのは、誰が考えても分かることだろう。また、ロシアが国際法に違反し、ウクライナ領土を侵略している以上、国際法違反でプーチン等を処罰するというのなら、ロシアを軍事占領し、ロシアの国家権力を停止し、西側政府が支援する国際機関が権力行使できる状況を作らなければならない。そのためには、第二次世界大戦のドイツと日本を壊滅状態にし、占領して政権を転覆させたことと同様なことを、ロシアに実行しなければならない。例えプーチンを失脚させても、メドベージェフの発言を見れば分かるように、プーチン以上にロシア民族主義に固執し、強硬な有力者が山ほどいるのが、ロシアなのである。ロシアの国家機能を壊滅状態にする以外に、西側が描く「権威主義」政権の侵略意図と能力を砕くことは不可能である。
 ロシアは国家壊滅の危機になれば、核兵器使用に踏み切るだろう。そのための兵器なのである。その時は、アメリカもヨーロッパ諸国も壊滅する。そして、人類の生存も危うくなる。
  現代戦で言えば、アメリカがイラクを攻撃し、フセイン政権を打倒したが、これはイラク軍がアメリカ軍と比べれば、圧倒的に弱体だったことによる。イラクの大量破壊兵器の保有を口実にアメリカは戦争を始めたが、大量破壊兵器がなかったからこそ、攻撃が可能だったのだ。もし、イラクがそれを保有していれば、フセインは、アメリカ本土までは攻撃できないので、アメリカの同盟国であるイスラエルに甚大な被害を与えかねない。それを考慮すれば、戦争はできなかったのであり、「大量破壊兵器の保有」という口実は、極めて矛盾している。いずれにしても、ロシア軍はイラク軍と比較ができないほど、強大である。
 これらのことを考えれば、戦争継続によって、プーチン政権の侵略意図と能力を砕くことなどできないのは明白である。
 
 西側政府も主要マスメディアも、ウクライナへの強力な軍事支援でロシアを打ち負かせ、と言うばかりで、具体的にどうやって、ロシアの侵略的な「権威主義」体制を変更さるのかは、決して言わない。それは「言わない」のでなく、明らかに実行不可能なので「言えない」のである。言えば、バカバカしさが露顕するからである。

3.西側に賛同するのは、西側だけ。世界では少数派。
 南ア政府は、イスラエルをガザ住民に対するジェノサイドで、国際司法裁判所(ICJ)に告発した。それに対し、アメリカ政府とアメリカ主要メディアはは、ジェノサイドを厳密に捉えれば、イスラエルの行為をジェノサイド と言えないと、イスラエルの擁護に懸命である。また、2月20日の国連安保理での即時停戦・人道支援の強化の決議案に、またもやアメリカは拒否権を行使し、英国は棄権した。これらのことは米英が、グローバル・サウスを中心とした世界で圧倒的多数を占める国々から、完全に孤立しているこを際立たせた。
 
 西側は、「自由民主主義国の結束と権威主義国との闘い」を御旗に掲げるが、西側の言う「自由民主主義国」とは、西側自体が認めているとおり、欧米、その同盟国と南米ぐらいで、世界的規模では、少数の国である。南米は、過去には「アメリカの裏庭」と言われたように、軍事独裁国も含めたアメリカの言いなりの親米国ばかりだったが、近年、続々と左派政権が誕生し、西側から見れば、キューバやベネズエラなど「権威主義国」も含めて、多くの国は親欧米ではない。
 ロシアに対する経済制裁が、ロシア経済を弱体化させることができない大きな理由の一つが、例えば、インドは侵攻以前よりロシア産原油輸入量を増やしていることから分かるように、西側に同調する国が少ないからである。
 グローバル・サウスを中心とした世界で圧倒的多数を占める国々は、イスラエルのパレスチナ人への大量殺戮に対してとったイスラエル擁護の西側の姿勢から、西側の二重基準を完全に見抜いている。とどのつまり、西側の掲げる「権威主義国との闘い」は、換言すれば、西側を除く全世界との闘いのようなものである。
 
4.現実のウクライナ軍の劣勢,国民の甚大な被害
 最近、西側主要マスメディアに、「西側はロシアの軍事力を見誤っていた」という評論が多数掲載されている。当初、経済制裁し、軍事力で勝る西側が支援すれば、ロシアを打ち負かせると確信していたが、ロシア経済は破綻せず、西側の予想を遥かに上回る武器弾薬製造能力を持っていた、ということである。また、ウクライナ軍が、攻撃から防御へと戦略変更に迫られたという記事も、西側マスメディアで目立つが、そのことも現実には、ロシア軍は予想以上に強力だったいうことと符合している。
 攻撃から防御への転換は、西側軍事部門の提言でもあり、そうすれば、膠着状態の戦場では確かに、ウクライナ軍の損害は減少する。敵に向かって突進することが、敵からの集中攻撃を招くからである。特に兵員不足と砲弾不足に悩むウクライナ軍としては、適正な選択と言える。
 しかし、ひたすら防御に徹し、ロシア軍の疲弊を待つという戦略なのだが、その間にも、ロシアからのミサイル攻撃などは続き、ウクライナ国民の生命、生活、経済は甚大な被害を被ることになる。ゼレンスキーは、2月25日に、ウクライナ兵の死者数は31000人とし、反転攻勢の「計画はある」と言ったが、これは多分に欧米からの支援継続を訴える目的の発言で、死者数はもっと多いだろうし(ニューヨーク・タイムズは2023年8月に7万人と報道した。)、反転攻勢の「計画がない」とは言えないからだ。現実には、仮に、欧米からの軍事支援がゼレンスキーの希望どおり行われたとしても、兵員不足は解消のしようがない。解任された元司令官のザルジニーは、2023年11月に、「エコノミスト」と「タイムズ」のインタビューでも、戦線が膠着状態に陥り、ロシア有利になったと素直に告げ、西側からのさらなる強力な兵器支援を求めると同時に、ウクライナの兵員不足を嘆いた。大量の兵器があったとしても、それを使いこなす人間が不足していれば、役に立たないのは、明らかである。
 
5.ロシアをいくら非難しても問題は解消しない
 国連のグレーテス事務総長は、2月23日ロシアが「国連憲章を軽蔑していることが問題」と述べた。確かに、問題の発端は、国連憲章違反のロシアの侵略にある。例え、侵攻の理由の一つが、NATOの東方拡大があり、 それがロシアにとっては脅威だとしても、軍事侵攻という選択は、ロシア・ウクライナ双方に甚大な被害をもたらし、かつ、NATOの脅威を減らすどころか、高めるだけだからだ。
 しかし、1億回ロシアを非難したところで、問題の解決からは、ほど遠い。多くの西側の左派も、実際には、「だんまり」を決め込み、どうすべきかは、言わない。
 「平和勢力」を自認しているはずの日本共産党幹部会議長の志位和夫も、「ロシアがあれだけ侵略している状況のなかで『即時停戦』を主張するわけにはいかない」(あかはた2月25日)と言う。 そして「『国連憲章守れ』の一点で、全世界がロシアの蛮行を包囲することが必要」(同)と続けた。しかし、「全世界がロシアの蛮行を包囲する」とは、具体的にはさっぱり分からないし、「『即時停戦』を主張するわけにはいかない」とは、現状の戦争継続を意味する。戦争継続とは、武力によってロシアの侵略を追い返すことであり、当然ウクライナ軍への支援であり、ロシアの「蛮行」を止めるために、ゼレンスキーが最も求めている軍事支援を行うべきだ、という西側政府の論理に繋がるのは明らかである。当然、日本もウクライナへ軍事支援を行うべきだ、と主張するのが、論理的に整合性がある。それができないのは、憲法が禁止しているからというのなら、憲法を変えるべき、という理屈になってしまう。「国連憲章を守れ」と1億回叫んだところで、ロシアは「分かりました」とは言わないのである。
 国連憲章違反の行為は、ロシアだけではない。アメリカの国連無視も甚だしいし、国際法で言う「領土一体の原則」を破ったのは、セルビアの自治州だったコソボを、セルビア空爆までして武力によって独立させたNATO諸国も同罪と言わねばならない。イスラエル同様に、親西側の国際法違反は支援し、反西側の行為は非難する。現実世界には、こういった二重基準に満ちあふれているのである。

6.欧米は永久戦争への陣太鼓を打ち鳴らす
 ルモンド・ディプロマティーク(英語版)は、2023年3月号に「戦争のチアリーダーとしての西側メディア」と題する記事を掲載した。
 記事は「西側ジャーナリストらは、ロシアと(和平への)交渉することはロシアの侵略を許すことに等しい、という点でほぼ一致している 」と言う。BBC、ル・モンド、ガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストに至るまで、ほぼすべての欧米マスメディアが、「政治の世界に押し付けるワンマンシップの論理に取り憑かれて、西側諸国の対ロシア戦争への漸進的な参戦を共同演出している」とも言う。「ワンマンシップの論理」とは、「民主主義、個人の自由、人権、法の支配という我々が共有する価値観 」であるが、しかし、それはあくまでも、何が民主主義か、何が自由、人権、法なのかを、欧米が決めた「価値観」ということである。世界で何が正しいのか決めるのは、欧米なのである。したがって、西側の武力行使に基づくコソボの独立も、法の範囲内なのである。

 さらに付け加われば、「自由で開かれた」とは、実質的には、欧米資本に「自由で開かれた」という意味である。それは、欧米が「権威主義」と言って非難する国は、政治的に国営企業やその国の国内資本保護障壁によって、欧米資本が自由に活動できない国々である。逆に、サウジアラビアのように国政議会も政党もない中世的君主国家は、欧米資本が自由に活動できるので、軍事支援も行い、その政治体制を非難することはない。「自由民主主義」を高く掲げたとしても、その内実は、資本活動の自由と強化を目指す、新自由主義の先兵なのである。

 
 西側はウクライナ「自由で開かれた」「民主主義」のために、「権威主義国」と戦うと言うが、それが対ロシアの場合は、戦争を意味している。「権威主義国」には、ロシア以上に強権で「一党独裁」の中国が並ぶ。NATOは、対中国を念頭にアジア支局を開設しようとしているし、アメリカも台湾問題もからみ、アジア地域の軍事力を強化している。「戦う」が戦争を意味するなら、次の戦争は、西側対中国に移行する。現在の戦争を止めなければ、次の戦争も止められない。戦争には、「即時停戦」を主張する以外に、平和主義者の選択すべき手段はない。

 大石内蔵助は、「吉良上野介の首を取れ」と山鹿流陣太鼓を打ち鳴らしたが、欧米政府と主要メディアは「プーチンの首を取れ」と、永久戦争への陣太鼓を打ち鳴らすのである。そして、「プーチンの首」は、「習近平の首」に取って代わる日も遠くはない。

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