青リンゴ観察日記

韓国漫画「世紀末青リンゴ学習塾」観察ブログです。
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第五十二話④

2022-03-08 | 第五十二話〜第五十四話

「チョル、ミエちゃん来たわよ!」

 

休日の午前中、ミエがチョルの家にやって来た。

「あら、このナムル美味しそうね!お母さんにご馳走様ですって伝えてね」

「はい!」

ミエは自室にいるチョルに、「何してんの〜?話しかけてもいい?」と声を掛けた。

「キム・チョルっち〜」

「出〜てきて〜」

部屋を覗いても動かないチョルに、ミエはもう一度聞いてみる。

「チョルぴ〜何してんの?」

すると次の瞬間、ミエは目を疑った。

「なっ・・!?」

「べっ・・勉強してんの?!ちょっ・・ついこの間テスト終わったばっかだよ!?」

遊ぶことしか頭になかったミエは、本当に驚いた。チョルに矢継ぎ早に質問する。

「あんた一体何位だったの?!ていうか何の科目の勉強してるわけ?

あんたがうちの子だったら、うちの親ウハウハだろーなーっ」

廊下でそう喋るミエを見て、チョルは無愛想だが部屋に促してやった。

「・・入れば」「おっ!」

「あんたほんとに頑張ってんだね!成績かなり上がったんじゃない?

気になるから教えて欲しいな〜私のも教えたげるから!」
 
 
ミエはトタトタとチョルに走り寄り、隣に並んでパッと笑顔を向けた。
 
 
チョルはミエから目を外し、ぶっきらぼうにミエの質問に答える。
 
「・・お前よりは下だよ」「えー?私の成績知ってんの?私は15位だよ!」
 
「お前より下だって」
 
 
チョルはそう言って軽く息を吐いた。ミエはそれを聞いて、無防備に笑う。

「なんだよ〜絶対に違うって!」

裏のないその顔を見て、チョルの心のネジが少し緩む。

思わず心に溜まった不安が溢れ出してしまいそうで、すぐにチョルは顔を背けた。

実際、やはり少し溢れ出た感情を、チョルはミエから視線を外したまま口にする。

「ハードルが高ぇんだよ・・」

「え?」

 

「ハードル高いんだよ・・出かけるとかは・・・」

チョルが言い出したのは、ミエとの”約束”のことだった。

ミエが軽い気持ちで口に出した”街に遊びに行く”が、チョルにはどうしても引っかかっていた。

「変な風に聞こえるかもだけど、図書館に宿題しに行くのと・・それはちょっと違うだろ。

ハードル高いってのは俺だけが・・そうなんじゃなくて・・それがお前の負担になるかもしんねーし・・」

「だから・・街に行く・・とかじゃなくて・・他のことを・・」

言いにくそうにそう口にした言葉を、ミエは目を丸くしながら繰り返す。

「他のこと?」

「またビデオ見たりとか・・まぁ・・そういう・・」

 

期待をしてるミエにそう言うのは、とても気が重いことだった。

そう口にした時、ミエがこうリアクションするだろうと思ったからだ。

「はー?あんたなんなん?いい加減にしてよ!くだらないことでビクビクすんなし!」

「そんなにからかわれるのが嫌なの?!あんた何歳よ!?いい加減ムカつくよ、私も!

もういいよ!一緒に遊ばない!はい、もうこれでいいでしょ!?マジでなんなの?!」
 

これでミエとの”約束”は消えると、チョルは本気でそう思っていたのだ。

ハッ、としてチョルはすぐにミエの方を見た。

ミエは目を丸くしたまま、チョルの方を見ている。

「うん!そうだね、そうしよっか!」

チョルの予想に反してミエは、ニッコリと笑顔でチョルの提案を歓迎した。

いい加減にしてよ、とキレる想像の中のミエが、ふわりと消えていく。

「やったー!あんたの方からナイスな提案してくれたじゃん!

私、面白そうなの選んでくるよ!塾行く前に観ればいいよね!
 
あ、お菓子も食べよーね!楽しみ〜!」

ミエはそのままチョルの家から帰るまで、ずっと笑っていた。

 

「さようなら〜」

ミエが帰ってから、自室にいるチョルに母親が声を掛ける。

「チョル、夕飯何時に食べる?あら、トイレかしら?」

部屋から返事がなかったのだ。

実際チョルは、洗面台の前にいた。

まだ心の整理がつかなくて、チョルはその場で立ち尽くしていた。

先日、夜の路上でミエと話した時のことを思い出しながら。

「うちら友達じゃん?理解できなくてもさ」

「あともうちょっとだけ親切にしてくれたら・・」

ミエが自分を思ってくれている気持ちを、どこか信じられなかったのかもしれない、とチョルは思う。

過去の傷を庇うあまり、目の前の幼馴染の気持ちに気づかなかったのかもしれないと。

ふと、目の前にある鏡が目に入った。

パッ

[ザワザワ ザワザワ]

胸がざわめく。

心のネジが緩んだその隙間から、色々な感情が溢れ出る・・・。

[ザワザワ ザワザワ]

 

 

 

その日の夜、ミエはベッドに横になって天井の星を眺めていた。

昼間は嬉しいだけだったが、少し冷静になってチョルの気持ちを考える。

そんなにハードル高いかぁ・・チョル、確かに目立つことは目立つけど・・

うーん・・じゃあ早く断ったら良かったのに、なんであんなに言い辛そうに・・。
いつもだったら・・
 
「嫌だね。なんで俺が」

大魔王のツノが見えるような雰囲気で、ただ断れば良いだけの話だ。

するとその時、ビビッとあることに思い至った。

パチッ

「まさか・・」

先日チョルに、こう言ったことを思い出したのだ。

「あとちょっとだけ、親切にしてくれたら・・」

ひくっ

ミエは思わずニヤけてしまった。

いつも一方通行だったその気持ちが、ようやく届いたと気づいたからだ。

「なんだよも〜」

[ソワソワ ザワザワ]

胸はざわめく。

自分の気持ちも相手の気持ちも、揺らめいていてはっきりとは見えないけれど。

 


第五十二話④でした。

 

チョル、ミエの気持ちを知ってホッとしたのかな・・。

目元を拭うチョルが泣けます・・もう、若いのに苦労して・・(親目線)

 

第五十二話⑤に続きます