花咲舞が黙ってない １

「おっみやげでぇ～す」夏休みに女友達と神社巡りに行って来た花咲は実家の店で父と相馬に土産を配った。縁結びのパワースポットであった為、相馬に「なるほどねぇ」と冷やかされる花咲。また商売繁盛のつもりで父に買った御守りが恋愛成就の御守りだったりもした。花咲家は気楽な様子だったが当夜、川崎支店の水原支店長が帰宅途中に何者かに襲われ、階段から突き落とされる事件が発生！　芝崎次長によればどうも水原はトラブルがちな人物であるらしい。花咲と、東京から遠いのでやや面倒がった相馬は水原の入院した川崎の病院に向かった。
花咲達が病室を覗くと大荒れだった。「何だぁ？！　この稟議書は！！」副支店長と融資課長相手に怒鳴り散らし、稟議書を床に投げ捨てる水原！　副支店長達はひたすら平謝りしていた。「本部臨店班から参りました、相馬です」「花咲です」「何の用だ？」挨拶し事情を聞いたが、警察の対応への不満を言い出す水原。「突き飛ばされたというのは確かなんでしょうか？」花咲がうっかり言質の信憑性ついて問うとどう見ても短気な水原は怒り出した！「臨店ごときが失礼な口効くな！」それ以上は話にならなかった。水原は真藤閥であり、今回の件に「あいつは昔から敵が多いからなぁ」と真藤も呟いていた。
事件はこれだけで済まず、やはり夜、帰宅途中の武蔵小杉の支店長金田が鉄パイプの様なもので襲われた！　その翌日、花咲達は武蔵小杉支店に向かった。水原に比べると軽傷だった金田は出勤してきていた。「難癖つけてくる取引先は山程いるからね」水原程ではないが、金田も剣呑なタイプだった。また金田が虎ノ門支店時代、水原の部下だったこともわかった。花咲達は虎ノ門支店時代に何か要因があると見て、虎ノ門支店へ向かった。
「ちょっとわかりませんねぇ」水原達が虎ノ門支店に居たのは７、８年前。
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花咲舞が黙ってない ２

新任の現在の支店長は関知しておらず、無関係過ぎて半笑いで対応するくらいだった。だが、融資課に古株の女性事務員田川が居て、話を聞くことになった。「びっくりしたわよぉ！　もう朝からその噂で持ちきりよっ」話好きらしい田川。当時、水原はボス猿タイプで金田はその腰巾着だったという。トラブルは多かったが、「一番大きかったのはアレじゃないかなぁ。ちょっと待ってね」田川は７年前の岡村スチールの資料を持ってきた。古い資料に相馬が感心すると、「その当時の支店長がうるっさい人で、全部取ってあるの」その支店長の時代だけ特別らしい。岡村スチールは倒産しており、水原は岡村社長に「お前らのせいだッ！」と殴り飛ばされていた。詳しい事情は「よくわからないけど」と田川は言葉を濁したが、何か言いたげではあった。
花咲達はもう一度、水原に事情を伺うべく、川崎の病院へ向かった。「岡村スチール？　たった今刑事がきて同じこと聞いてったぞ？」やや落ち着いた様子の水原だったが、殴られた話になるとまた少し怒り出した。「逆恨みなんだよっ、担当だった磯部の責任だぞ？」「その方、今どの支店にいらっしゃるかご存知ありませんか？」相馬が問うたが、「知らん！　岡村スチールの件で飛ばされたからなぁ、人事にでも聞いてくれ」水原は磯部という行員の現在は知らないようだった。磯部は２ヶ月前に銀行を辞めていた。
「磯部です」喫茶店で待ち合わせた磯部は歳のわりには髪がほぼ白くなっていた。「簡単な話ですよ、融資が受けられなかったんです」当時、金田から担当を引き継いだ磯部は経営難の岡村スチールへの追加融資の稟議書を融資課長の水原に上げたが、「弱いっ、この程度の理屈で承認を得られるとでも思ってるのか？！」何度も差し戻しを喰らい、結局決済日がきてしまい、岡村スチールは倒産。
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花咲舞が黙ってない ３

岡村社長は激怒して水原が殴られたのだった。「全て私の力不足が原因です」「磯部さんも当時の関係者ですので、どうぞ気を付けて下さい」花咲は気遣ったが、「私は大丈夫ですよ」磯部は疲れた表情で呟いていた。
岡村社長はシロだった。現在岡村は上海で商売をしており、アリバイがあった。花咲達が警察からの知らせに困惑していると、本部に田川が訪ねてきた。「実は、昨日言えないことがあったのよ！　岡村スチールの担当だった行員のことなんだけど」「磯部さんですか？」相馬が言ってみると、「知ってるの？」田川は裏事情を語り出した。当時、磯部は強引な水原に逆らった為、目を付けられイジメを受けており、岡村スチールの件も単にイジメの一貫に過ぎなかった。「もし断るなら早くしないと、他の金融機関に申し出ても間に合わなくなります！」磯部は岡村スチールに関し水原にそうも進言していたが、取り合われなかった。「彼が犯人なら、自首するように説得してほしいの！」当時何もしてやれなかったと、田川は心配していた。
田川が帰ると、相馬はダメ元で磯部本人に電話を掛けると、意外にも磯部は出た。逃げるつもりは無いらしい。磯部は打ち明けた。飛ばされた先ではいわゆる追い出し部屋に入れられたこと、家族の為に耐えたこと、２ヶ月前、出勤途中にとうとう座り込んでしまい銀行を辞めたこと、辞めた後何も残らず途方にくれたこと、そしてたまたま川崎支店の前を通り掛かると、相変わらずワンマンで支店長としてチヤホヤされている水原を見掛けたこと！「許せないと思いました。あの人にはどこにも、何の傷も付いていないのかとっ。その時に決めたんです」磯部は復讐を決めていた。また「許せない人間がいるんです。見て見ぬふりをした奴がっ」と言って、怒る磯部は電話を切った。当時の水原の上司は、真藤！
真藤は金融懇談会に参加すべく児玉を伴い、
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花咲舞が黙ってない ４

車に乗り込もうとしていた。その時、「真藤さん」磯部が現れた！「どちら様？」児玉は戸惑った。「お前か」真藤は磯部を見た。警棒を手に、磯部は真藤に向かって突進した！　ビビりながら鞄で真藤を庇おうとする児玉！　磯部が児玉を殴る寸前、駆け付けた相馬が磯部の腕を取った！「離せっ」暴れる磯部は相馬と児玉に取り押さえられ、「もう止めましょう！」相馬は説得し、警備員や花咲が遅れて駆け付けると、磯部は観念し、座り込んだ。「馬鹿な男だ」真藤は言い捨て、児玉と共に車で去った。花咲は連行される磯部を見送るしかなかった。
「これで解決ってことですか？」「そういうことになるだろうな」騒動後、すっきりしない花咲と相馬。「俺達だからできることもある」「え？」相馬は花咲を連れ、虎ノ門支店へ向かった！　相馬と花咲は支店長に頼み、田川の案内で詳細に残っている水原達が虎ノ門支店にいた頃の資料を探り出した。花咲達は当時の建設業、不動産業の資料を探り当てた！
本部の真藤の執務室に退院し、松葉杖を突いた水原が挨拶に来ていると、そこへ「失礼致します」相馬が言って花咲を伴い現れた！　何か資料を持っている。「事件の発端は虎ノ門支店にあります。水原さん、あなたは岡村スチールの稟議を故意に遅らせましたね？」相馬の問いに「何の話だ知らん！」強気の水原だったが、相馬が磯部へのイジメについて言及すると焦り出した。「作り話だ！」「証拠ならここにあります」相馬は水原が磯部に何度も書き直させた稟議書を取り出した。全て取ってあった。当時、真藤は既に間に合わなくなってから水原が持ってきた稟議書に単に呆れ、また軽く心配した程度で深くは関知していなかった。「俺は被害者だぞ？　アイツがしたことは許されるのか？！」「許されません」水原に、花咲が答えた。「ですが、磯部さんを犯罪者にしたのは、あなたです！
　　　　　５に続く

花咲舞が黙ってない ５

あなたのしたことは法律には触れていないのかもしれません。ご自分が恨みを買ったと思ってもいない、そんな人のせいで人生が狂わされるなんてそんなの間違ってます！」「黙れ！」「黙りません！　卑怯な手を使って部下を追い詰めて、一つの会社を倒産にまで追い込んでっ、そんなことをして手に入れた地位に全く価値はありません！！」「水原さん、今回の件は既に人事部に報告してあります」動揺する水原！「真藤さん、助けて下さいっ」真藤は顔を逸らし、水原はソファにへたり込んだ。「真藤常務、岡村スチールの倒産は本当に磯部さんの責任だと思ってらっしゃったんでしょうか？　それとも、目をつぶられたんでしょうか？　当時、大事な時期だったんですよね？　だから」花咲は問うたが、「答える必要は無い。だが、これだけは言っておく、銀行という組織を守り、動かしてゆく為には綺麗事ばかりでは済まない。私は、どんな時でも、東京第一銀行の名誉を守ることを考えている。当行の、名前を汚すようなことだけは何があっても避けてきた。それだけだ。失礼する」真藤は一人で退室した。
事件は示談となり、警察署の前で妻に迎えられた。花咲はまだ不満があったが、花咲と相馬の元へ珍しく児玉が現れた。「一応、お前達には報告しておく」水原は降格の上、関連会社に出向、金田は戒告となった。「あの二人を説得して被害届けを取り下げさせたのは真藤常務だ。磯部には弁護士を付けた。決して体裁を守るだけじゃない」児玉はそう言って去って行った。
「乾杯っ！」花咲の実家で田川を交え酒を呑む花咲と相馬。「あら？　これすっごく美味しい！」田川は花咲の父の料理が気に入ったらしい、父も喜び、早速厨房で料理を教わり出した。「効いたんじゃないかあの御守り？」「あたしも買ったんですよ！　御利益あるかも～」楽しみな花咲だった。
・・・田川がレギュラーに？！　真藤掘り下げ回だったね。