水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

ミナリ

2021年05月04日 | 演奏会・映画など
 移住した韓国人一家の移民物語がアメリカで好評を博したのは、アメリカ人が根本的にもつ移民アインデンティティを刺激されたからなんじゃないかな……て言えるほど、アメリカのことは知らないけど。
 でも、たとえば「あの子は貴族」の主人公の気持ちを、よほど生粋の東京っ子以外の東京人がなんとなく感じ取れるみたいな感覚はあるような気がする。
 思い描く理想の新生活は、そう簡単に手に入るものではないことを、誰もがわかっている。
 わかっていながら夢を追い、明日を信じてしたたかに生きる移民の暮らし。
 水辺に芽を出し根を張っていくミナリはそんな暮らしの象徴だ。
 センターの小説問題の最後に必ず出るタイプの、わかりやすい象徴。
 若い一家がすべてを失って川辺に行ったとき目にするのは、亡くなったおばあちゃんの植えたミナリが大きく根を張っている様子だった。そしてそれ以上説明しないのがいい。邦画だと、ここで「もう一回がんばろう」って言わせちゃったりしがちだ。
 あじわい深い作品だった。おばあちゃん役の方がアカデミー賞の女優賞を受賞されたのも納得できる。
 インタビューで、(隣にいる)ブラッドピットさんはどんな匂いですか? と尋ねられ、「私はイヌじゃない」と笑顔で答えられていた。アメリカにも日本と同じくらい低レベルのインタビュアはいるものだ。いつか樹木希林さんにもとってほしかった。きれのあるインタビューを見たかった。

 アカデミー賞が発表された翌朝、天声人語がなんか的外れなことを書いていた。
 もしかすると自分に気づけない深い洞察があるのだとしたら、読解力不足を謝るしかないのだけど。
 でも、昨今の情勢のなかでのアカデミー賞で、アジア出身の監督さんが作品賞を、韓国の女優さんが主演女優賞をとるということになんの言及もなく、もちろん一般人のYAHOO映画のコメント欄レベルならいいけど、天下の朝日新聞の一面がこんなレベルでいいのかと驚いた。
 ミナリとはセリの意味だと紹介し(映画に興味ある人は知ってるって)、セリ鍋がブームになって久しいと述べ(ほんとに?)、子供世代のために働く親という意味がセリにあると紹介し、セリの食感が恋しくなった……とまとめる。
 入試の小論文で書いたら、まず点数をもらえないだろう。自分の講習を受けている生徒さんから提出されたら赤だらけになる。
 文章のうまい下手以前に、志が感じられない。
 悪口ではない。自己防衛としてそう感じる。
 小論文の勉強に「天声人語」を読もうなどとのたまわれる同業者が、今もいると聞くので。
 正直、他校の生徒さんがそうしててもかまわないのだけど、国民を育てる仕事に携わる者として、ほおっておけない思いがふつふつとわいてきた。逆にこの天声人語自体が、小論文講習のネタにはなる。
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