「取材行為が一定の問題意識のもとに始まることからも、予断が入った質問をすることは、なんら問題となることではない」…朝日新聞「報道と人権委員会」の整理回収機構に関する朝日新聞及び週刊朝日の記事に関する調査結果(←クリック)の中での力強い言葉である。NHK番組改編事件で安倍らから押され気味だった時には、言えそうになかったセリフに接することができて、ちょっと嬉しくなった。
このエントリー自体は、朝日新聞が独自に行っている自社に対する苦情申立処理について、上記図に触れつつ、紹介するつもりだった。新聞社の第三者機関で、具体的な名誉毀損などの苦情を取り上げて調査するところはまだ少ない。そういう意味で「報道と人権委員会」は、画期的な制度であり、その調査結果をきちんと発表する姿勢を賞賛するとともに、他方で、いったい、何件くらいの苦情があって、何件くらいを調査し、その結果はどうなったのか、という基本データを開示していないことを残念に思うっていう感じでまとめようと思っていた。
ところが、具体的に調査結果を読むと、上記のような発言がされていた。う~ん、ジャーナリズム宣言は本気かも、と思わされた。佐藤ヒゲ隊長発言は書いていないけど…。
そこで、もう一方の当事者である安倍氏のブログを見たところ、とっても面白いものをみつけた。本当は、こちらを今回のタイトルにしたいくらいの発見(といっても結構古いので、知っている方は知っているかも…)。
その面白いものとは、安倍の週刊現代に対する「通告書」。週刊現代の取材に対し、安倍が一度文句を言った(通告書を送った)が、それに対する週刊現代の誌上での回答が気に入らないため、再度送付したものらしい。
冒頭、安倍氏は、【(1) 本通告書第1項は「貴社が発行する「週刊現代」編集部は、朝日新聞の意図に沿った記事を書くために未だ発売もされていない月刊現代の記事についてコメントを求めるといった常軌を逸した取材を行いました。そこで、平成17年7月28日付で自由民主党「朝日新聞の問題報道に関する調査プロジェクトチーム」は、同編集部からの安倍らに対する取材依頼には今後は応じない旨をすでに通告しました。」といっているのであって、「なぜかお門違いの朝日新聞に関することだ」との本反論は全く当たりません。貴誌の常軌を逸した取材によって取材拒否を通告されたという事実を隠蔽するためにこのような要約をされたとしか考えられません。】と述べている。
ちょっと分かりづらいので、解説すると、週刊現代側は、安倍の一通目の通告書の第1項について、「なぜかお門違いの朝日新聞に関することだ」と書いた。これに対し、安倍は、一通目の通告書の第1項は、「貴社が発行する「週刊現代」編集部は、朝日新聞の意図に沿った記事を書くために未だ発売もされていない月刊現代の記事についてコメントを求めるといった常軌を逸した取材を行いました。そこで、平成17年7月28日付で自由民主党「朝日新聞の問題報道に関する調査プロジェクトチーム」は、同編集部からの安倍らに対する取材依頼には今後は応じない旨をすでに通告しました。」というものであり、お門違いではないと主張しているようなのだ。
う~ん、文中の「朝日新聞」っていうのは、誤植かなって最初は思った。「週刊現代編集部が朝日新聞の意図に沿った記事を書く…」って意味不明じゃないですか。
しかし、その後に、「朝日新聞の問題報道に関する調査プロジェクトチーム」なんて書いてあるから、やっぱり、「朝日新聞」って誤植じゃないんだって分かった。
分かって、とっても恥ずかしくなった。この通知書を送ったのは、我が国の首相ですよ…。首相が、「週刊現代編集部が朝日新聞の意図に沿った記事を書くために未だ発売もされていない月刊現代の記事についてコメントを求めるといった常軌を逸した取材を行いました」って抗議をしているんです。
あるメディアがほかのメディアの意図に沿った記事を書く、なんて本気で思っているとしたら、とんでもないことだ。悪いけど謀略史観的というか被害妄想、まるで、米軍に毒ガスを散布されるって騒いでいたオウム真理教のようだ。自分がメディアに圧力をかけることが日常茶飯事だから、メディアがほかのメディアの意向を汲んだ記事を書くなんていう発想があるわけだ。オウム真理教も、自分たちが毒ガスを製造したからこそ、毒ガスを撒かれるなんて被害妄想を内部で増殖させた。
さらに、安倍は、一通めの通告書で、「このような従前の経緯に鑑みて、貴社のマスコミとしての資質については疑念が強くなるばかりです。すでに、幾度となく貴社代表取締役である野間佐和子氏には、このような資質に対する疑念をお伝えしてきたところですが、今日に至るまでの間、なんらの回答もありません。このような不誠実な態度に徴すれば、マスコミとしての資質の問題は、貴社編集部のみならず社全体の問題として考えざるを得ないものと感じます。よって、今後は貴社(週刊現代のみならず貴社全体)からの取材申込は、国民の知る権利を阻害するばかりで何らの益もないので回答する意思はありません。今後は、貴社の電話取材やFAX等の文書による取材も迷惑ですので差し控えて頂きますよう通告します。」と通告したことも公にしている。
へっ、「国民の知る権利を阻害するばかり」ってどういうこと。別のところでは、「有限の時間を有効に利用するため、貴誌からの取材についてはお受けしないことを通告した」って言っているくせに…。
まぁ、ほかにも突っ込みどころ満載だが、とにかく、首相としての資質を大いに疑わせる論理展開だ。こういう恥ずかしい文書を恥ずかしげもなく公表できるところがある意味、すごい。まさに鈍感力…。
この通告書を掲載することを止めない側近もどうかしてるんじゃないか。裸の王様なんだろうなっって透けてしまうよ…。
以上、百年の恋も一発で覚める文章でした。
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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安倍は、一通めの通告書で、「このような従前の経緯に鑑みて、貴社のマスコミとしての資質については疑念が強くなるばかりで・・・このような資質に対する疑念をお伝えしてきたところですが、今日に至るまでの間、なんらの回答もありません。このような不誠実な態度に徴すれば・・・」
安倍さんは、きっと要望書に回答をくれるんだ!
「未だ発売もされていない月刊現代の記事についてコメントを求める」ってどういうことでしょう?
その記事を発売前、原稿段階で見せてコメントを求めたのでしょうか。発売前がなにか不都合なのかしらん。「常軌を逸した取材」というのが、発売前の記事に対するコメントを求めたことなのか、「朝日新聞の意図のそった記事を書くために」なのか、よくわかりません。
「朝日新聞の意図に沿った」というのも、ある係争中のケースについて、一方の立場のほうが正当らしいという判断をもって取材・報道することは、そんなにおかしくないと思うけど…。
朝鮮総連の疑惑をA新聞が報じ、双方で対立している問題に、ジャーナリスティックな問題だと思ったB週刊誌が取材をかけて、その時に系列の月刊誌ではこういう記事を準備しているけど、言い分は? と尋ねたら、それが常軌を逸しているかなあ。
「えーん。マスコミがよってたかっていじめたー」ってお坊ちゃま首相がむくれているってことですかね。
私は、整理回収機構(RCC)のことをある程度取材し、記事にもしてきましたが、今度の朝日新聞「報道と人権委員会」の見解にはショックを受けました。
RCCの強引な取り立ては公知の事実であり、委員会が問題だとする記事が取り上げている日光市の温泉旅館をめぐる破産事件でも、「RCCはハゲタカみたいだ」という怨嗟の声は地元に少なくありません。
私自身、宇都宮地裁が選任した破産管財人(弁護士)に「RCCはハゲタカみたいだと言われているが」と訊いたところ、「ズバリそうだろう」とその先生も答えられたほどです(「テーミス」6月号に詳報)。
こうした委員会は、いわゆる報道被害の救済と予防をめざしていると思いますが、公権力をバックにつけた巨大企業の不正を追及する報道を抑えつけるのでは、本末転倒ではないでしょうか。
公権力ないしそれに近い機関からの申し立てを受けたこと自体に問題があるうえ、朝日委員会の委員のおひとりはRCCとも近しい破産法の専門家であり、審理の公正性も疑わざるをえません。
国が株式の100%をもつRCCの申し出を受けた朝日の委員会は、自民党や社保庁からの同種の申し出も受けるのでしょうか?
北健一
k-kita@h7.dion.ne.jp