情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

「殺人」の嘆願をした32万人の方へ~あなたは自殺する3万人のことを考えたことはありますか?

2009-06-06 13:35:26 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 いやぁ、ひどいねぇ、今日の読売、【「極刑を」32万人署名】って、闇サイト殺人の古い話を持ち出して、一面、社会面に大展開し、さらに2社面では秋葉原事件だ。裁判員になる方へ、死刑判決を下すことに躊躇しないでねって言っているようなもんだ。

 一応、死刑について考える連載のような体裁をとっていながら、書いてあるのは「命には命を」、「自分の娘のことを考えた」というような趣旨の死刑存置意見のオンパレードだ(http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090606-OYT1T00046.htm)。

 まぁ、読売もひどいが、殺人を促すよう署名した32万人の人たちは、いったい、どこまで「死刑=殺人」について深く考えて署名したのか?あなたがたが署名したのは、「殺人」嘆願書ですよ。

 ヨーロッパでは、死刑制度自体、EU加盟国は廃止している。廃止することがEU加盟への条件となっているからだ。それは、死刑が新たな「殺人」だからだ。

 EUのウェブサイトには次のように書いてある。

 【何のために刑罰を科すのかという観点からすれば、死刑は刑罰でもなければ、明らかに再教育でもなく、復讐にすぎません。犯罪者に刑罰を科すことの目的は、その人に自らの過ちを理解させ、自責の念を育み、その人物を更生させ、最終的には社会復帰させることにあります。社会復帰がかなわない人——多くの場合、当人の精神状態のためですが——に限って社会から隔離すべきでしょう。死刑宣告では、刑罰の究極的目標が果たせないのです。】

 抑止力が必要? なら、年間3万人の自殺者のことを考えたことがあるのだろうか?毎年死んでいく約3万人には死刑は抑止力にはならない。この3万人は、自らを殺すという決断を下し、行動を起こしている。それが他人に向けられないのは、死刑があるからではない。犯罪を抑止するのは、刑罰だけではない。それは倫理であったり、教育であったり、家族の愛であったりするわけだ。

 32万人の皆さん、あなたがたは、自殺することを考え、行動に起こすまでの苦しさ、想像したことがありますか?彼ら彼女らが、最後に犯罪でも何でも好き勝手して欲望を満たしてしまおうと考えないのは、「死刑」があるからですか?そんなはずはない。

 EUのウェブサイトには、【「死刑のない世界地図」で色分けされた死刑廃止国と存置国の状況を比較しても、他の刑罰に比べて死刑の犯罪抑止力が高いことは証明できません。欧州では、死刑廃止後に重大犯罪が激増したという事実はありませんでした。】と書かれている。

 サッカーを楽しみ、音楽を楽しみ、食事を楽しむ、同じ先進国の市民は、死刑廃止を当然のこととして受け入れている。なぜ、日本では新たな「殺人」が許容されるのだろうか?

 違う視点から考えてみよう。「殺人」嘆願をした32万人は、年間3万人の自殺者に手を差し伸べようとしたことがあるのだろうか?そのような自殺者が生まれないような社会をつくるためには何が必要かを考えたことがあるのだろうか?より多くの人が幸福になるような社会にしよう、せめて、すべての子供が高等教育まできちんと受けられるような仕組みのある社会にしよう、そういうことを考え、行動を起こしたことはありますか?なぜ、年間3万人を殺す政府、年間1万人を殺す自動車メーカーの責任を同じように問わないのですか?


 人の命は数ではないというのはよく分かる。年間の自殺者数と、闇サイト事件の被害者を数で比較するのはおかしいという考えがあることもわかる。また、もし、私が被害者の遺族だったら、当然、加害者を殺してやりたいと思うし、実際に殺すかもしれない。しかし、遺族がそう思うこと、遺族がそのような行為をすることと、社会が死刑=新たな殺人を容認することとは、まったく話が違う。

 前にも書いたが、私は、いまの自動車が安全面を軽視していると思うし(速度出すぎだし、酒酔い運転を出来なくすることは簡単なのにしていないなどなど…)、もし、家族が自動車事故で死亡したら、メーカーやそのような車を許している官僚を殺してやりたいと思うだろう。その思いを死刑嘆願書にしたとき、32万人の皆さんは、署名をしてくれるだろうか?


 個人的には、死刑を存置することは、死刑に該当するような犯罪を抑止するための政策(生活の安定や教育のあり方など)から政府を免除することにつながると考えている。死刑を存続させることで、実際には、死刑に該当するような犯罪を減らす機会を失っていると思う。


 話を読売に戻そう。DNA鑑定が間違っていたことが分かった菅家さんは生き延びたが、菅家さんの鑑定が間違っていることを前提とした意見書を東京高検の検察官が書いた約2週間後、同じ手法による鑑定によって有罪と認定された久間さんは、死刑台で殺された。いったんは自白したが、裁判では一貫して無実を主張していた久間さんを殺したのは、なぜか?これ以上、死刑事件での冤罪が発覚することを恐れたのではないか?

 取り調べの録画がなされていないなど、日本ではまだまだ、冤罪を防ぐ制度が不十分だ。そのことは、新聞記者と名のつく者であれば、すべて認識しているはずだ。

 それにもかかわらず、死刑判決を下そうという読売キャンペーンは、先進国の新聞として恥ずかしいというほかない。

 同じ今日の紙面で、東京新聞は、菅家さんの事件を大きく取り上げ、久間さんを死刑にしたことに疑問を投げかけている。

 読売新聞から給料をもらって恥ずかしくないですか?

  


【PR】









★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
※このブログのトップページへはここ←をクリックして下さい。過去記事はENTRY ARCHIVE・過去の記事,分野別で読むにはCATEGORY・カテゴリからそれぞれ選択して下さい。
また,このブログの趣旨の紹介及びTB&コメントの際のお願いはこちら(←クリック)まで。なお、多忙につき、試行的に、コメントの反映はしないようにします。コメント内容の名誉毀損性、プライバシー侵害性についての確認をすることが難しいためです。情報提供、提案、誤りの指摘などは、コメント欄を通じて、今後ともよろしくお願いします。転載、引用はこれまでどおり大歓迎です。


最新の画像もっと見る