情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

マスメディアが気付かないうちに捜査側に利用されている例は珍くない~取調の可視化が必要な理由

2010-02-05 06:16:20 | メディア(知るための手段のあり方)
 小沢幹事長に対する検察側情報による集中的な報道について、個々の記者に悪意があるわけではなく、そうすることが正しいと思いこんでいることは分からないわけじゃぁない。某有名な冤罪事件についても、当時捜査側に食い込んでいる記者があれは実際はやっているんだと真剣に話をしたりする。捜査側は不利な情報をマスメディアには流さない。だから、マスメディアは一方的な話を信じ込む。今回の報道もなぜ、捕まらないのか、という苛立ちさえ伝わってくるような感じだった。問題は、記者が知らないうちに利用されていることだ(一部のマスメディアの経営幹部は意図的なキャンペーンとして繰り広げたと思うが)。

 たとえば、私がずいぶん前に経験したある事件についてご紹介したい。

 この事件は、数億円に上る詐欺事件としての報道から始まった。

 そして、起訴されたのは、わずか数十万円の詐欺…。

 このギャップが意味するものがお分かりですか?

 単に量的な問題だと思いますか?許される誤差の範囲内だと思いますか?

 この事件を報道した記者は、結論が数十万円の判決だったことさえ、気づいていないだろうし、自らが伝えた報道が、有罪判決に向けてどのような影響を与えたかなんて、考えたことすらないはずだ。

 

 実は、この事件は、ある業界における特定の行為に関する詐欺で、その行為は通常は詐欺にはならないのだが、それを詐欺に利用することもありうる、というものだった。

 つまり、詐欺かどうかが、単なる金の移動だけで判断できるような単純なケースではなく、いろいろな裏付けがなければ立証できないようなケースだったわけです。

 そこで、数億円の詐欺という最初の発表が効いてくるのです。

 本人はもちろん、逮捕されている。

 関係者は、数億円の詐欺という報道に接する。

 関係者は、自分の関わった部分については、問題がなかったと思いつつも、数億円の詐欺事件の共犯者にされてしまうのが怖くなり、捜査側の言う通りの供述をしてしまう。

 いったん、供述をした以上、それを法廷で覆すことは難しい。

 関係者のうち数人は、警察での取り調べが誘導的なものであることを認め、詐欺を立証する方向での供述を撤回するような証言をした。

 しかし、数人は、供述を維持した。そのなかには、関連事件で起訴されるという恐れを抱きつつ、証言をした人もいた。そういう状況の者の証言を信用する裁判所にも問題があるが、いずれにせよ、そういう証言をさせるようにもっていったのは、数億円の詐欺という当初の報道だった。報道の後に関係者から事情を聞いているのだ。本来、順番が逆だと思うが、これが報道と捜査の実態だ。結局、被告人は覆らない証人の証言に基づき、有罪とされた。マスメディアは今もそんなことだったとは知らない…。

 最初の報道がなければ、関係者は本当にそんな詐欺をしたのかどうかを本人に確かめたうえで、事実を警察に語ることができたかもしれない…。そうすれば、数十万円の詐欺さえ、起訴されなかったかもしれない。


 もちろん、これは弁護側の視点であり、捜査側の視点はまた違うと思う。

 しかし、少なくとも数億円の詐欺という報道が証人の供述・証言に大きな影響を与えたものであることは、証言内容から明らかだったし、それがゆえに、実は起訴されたのは数十万円の詐欺であること法廷で告げられた数人の証人は、従来の証言を覆したのだろう。

 こうして、報道が捜査に利用される。

 そんなことはマスメディアは知らない。自分たちは社会に必要な報道を伝えただけだと考えている。

 仮にこの事実を当時報道したマスメディアにつきつけても、彼らはこう言うだろう。

 「捜査担当者に確認したら、『確かに数十万円でしか起訴できなかったが、それは関係者が協力的でなかったからだ。本当に悪質な輩だ』と言っていた。確かに数億円の詐欺という報道は、裁判の結果とは違うが、真実とは合致している。だから、おれらは間違った報道はしていない」

 こう思って「よし」としてしまう理由は、法的な事実を真実とみなすしかないというルールに対する軽視、無罪推定原則の軽視だ。

 きちんとマスメディアに抗議すればよいのではないかと思うかもしれないが、書かれた側は、すでに数億円の詐欺だと報道されているわけだから、騒がれたくないという一心で、マスメディアに抗議することなんてできるはずもないのである。

 こうして、マスメディアは自分たちが間違っていたことに気付かないまま、新たな捜査側情報を報道していく…。
 
 もちろん、捜査側の情報を報道するこういう問題を起こしうるものだと分かっていても、報道しないわけにはいかないというだろう。

 では、どうすればよいか?

 問題は、取調べが可視化していないことだ。

 紹介した事例でも、関係者から話を聞く時に、数億円の詐欺であること、否認すれば関係者も共犯とされかねないことを示唆しながら供述をとっているはずだ。これは、間違いない。

 そういう不当な捜査をできなくすること、つまり、取調べ過程を録音し、不当な捜査をできなくすること(取調べの可視化)が重要となる。

 この取調べの可視化と捜査側手持ち証拠の弁護側への全面開示がなされたうえでの、捜査情報であれば、それがリークされても、ダメージはかなり軽減される。少なくとも、報道を利用した形でのでっち上げ事件はずいぶん減るはずだ。


 だから、せめて、マスメディアは、取調べの可視化と捜査側手持ち証拠の開示というルールを早く法律で定めるようにキャンペーンを張ってほしい。

 そうしないと今後も、あなた方が気付かないうちに、多くの人を無実の罪に巻き込むことになりますよ。

 それでもあなたは、安眠できますか?

 小沢捜査不起訴に伴う特捜部長会見で、マスメディアは、週刊朝日で伝えられた石川議員の秘書に対する不当取調べ(弁護士に電話したいと言ったのを無視して5時間以上任意捜査を続け、身柄を解放したのは10時間後という悪質さ)について、一切、質問をしなかったようだ。

 それでもあなたは安眠できるんだ…。

 




 

  





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