『ミシュランガイド 京都・大阪・神戸・奈良 2012』で取り上げられた奈良県下のお店25か店のうち、私がいただいたことのあるお店は8か店、わずか3分の1だった。「これから未訪問の店を、少しずつ訪ねることにしよう」と思っていた矢先、会社のMさん(元上司)から「小粋料理 万惣」(奈良市鶴舞東町2-26 サンクレイン201)での食事をお誘いいただいた。万惣は「日本料理の部」でミシュラン一つ星を獲得されている。
お店の入口(ビルの2階)
先付。たっぷりのウニが美味しい
ミシュラン(P483)によると《ジャズやサーフィンをこよなく愛する店主。フランシス・コッポラに呼ばれて日本料理を披露した経験もある。ここの魅力はカウンターで食す割烹料理。割いたり、煮たりと、主の熟練した手さばきを間近に見ることができる。そぎ板に記された品書きには食材とその産地のみ。梅雨入りの頃から出始める鱧は目の前で骨切りし、焼き霜や鍋など、客の好みに合わせて調理する。秋が深まった頃に仕上がる手間暇かけたカラスミは、常連客の楽しみの1つだ》。
ご主人の長田耕爾さん。左は修業中のN嬢
なお「鱧(はも)の焼き霜(しも)」(焼き霜造り)とは、鱧の両面をあぶり、表面に焦げ目をつけ、中をレア状に仕上げたお造りのことだ。焦げ目の香ばしさが、独特の旨味をきわ立たせるという逸品である。さて、このお店は鶴舞東町。近鉄学園前駅から北へ伸びる道を通り、西部図書館のところで坂を下り(やまとの湯や万代百貨店のあるところ)、北西方向にあるコナミスポーツクラブ学園前の向かいのビル(サンクレイン)2階にある。ミシュランのお店はたいてい分かりにくい場所にあるが、ここは比較的分かりやすい店である。
私が訪ねたのは10/31(月)で、総勢3人。《品書きには食材とその産地のみ》とあったとおり、この日は「寒露」として「長崎 たいらぎ貝 淡路 たこ 焼津 南まぐろ 岩手 ますのすけ(キングサーモン) 千葉 黒あわび 根室 たらばがに 根室 きんき 紀州 子持あゆ 岩手 松茸 大和やさいいろいろ」等々 が書かれていた。
タコの含め煮。大根にも美味しい味がしみ込んでいた
ご主人の長田耕爾さんは、ご覧のとおりの「ちょいワルおやじ」風。Twitterには「料理人として37年 サーファーとして37年 ベーシストとして37年 まだまだやりたい事いっぱいだ!」とあった。 奈良市のお生まれで、銀座・鶴の家、中野・柿傳、京都・井筒、神戸・狸々、大阪・茜、京都・炭屋旅館などの名門で修業を積まれた後、この店をオープンされた。そのご主人のワザを目の前で実演していただけるのは、とても楽しいことである。
ミナミマグロ(焼津産)の握り。盛りつけはN嬢
1つはヅケ(醤油味)、1つは軽く塩を振ってある。どちらもウマい!
ミシュランに《鱧は目の前で骨切りし、焼き霜や鍋など、客の好みに合わせて調理する》とあったとおり、目の前で骨切りを始められた。ものすごい早業である。よく「鱧は一寸を24丁(24筋)に包丁する」といわれるが、長田さんの包丁は、もっと細かいのではないだろうか。
長田さんは「私の料理は“創作料理”ではありません。36年間貯めてきた“引き出し”から組み合わせて作っており、自信を持って“私の料理”としてお出ししています。世間では“創作料理”が持てはやされていますが、そもそも“創作料理”なんて代物は、お客さまにお出しするものではありません、おこがましいことだと考えています。偉そうなことを言ってすみません」とおっしゃっていた。だから万惣のお料理は、36年間の経験を踏まえた「長田耕爾さんの小粋な料理」なのである。
鱧の焼き霜(軽く炙った刺身)
新鮮野菜の下に、鱧の焼き霜が隠れていた。こんな食べ方は初めてだ
店内にこんな文章が張り出されていた。上野修三氏(料理人、浪花料理研究家)の言葉を、長田さんが毛筆で書かれたものである。タイトルは「板前割烹」。《ほんまの楽しみ方は なじみになることでっせ。掛け合い(話し合い)で 好きなもん食べて頂きたいもんを互いに知る楽しみも味のうちで「掛け合い料理」ともいうたんですわ。江戸時代後半から明治初期に始まったらしいけど、料り手(料理人)はみな口下手しゃべり下手でねぇ。それでもお人好しでっさかい、声をかけていただいたら じきに気安うしゃべれますねんで 上野修三語ル》。
紀州の子持ちアユ。はらわたから、ほんのりと故郷の川の味がした
なるほど。Mさんはここの常連なので、長田さんとはごく気安くお話しさせていただいたが、ミシュラン(および当ブログ)を見て初めて訪ねる人は身構えて来られるので、なかなかこのようには行かないかも知れない。しかしこの文章のように「声をかけていただいたら じきに気安うしゃべれます」ということなので、どんどんお声かけいただきたいものだ。
これはたっぷりのお肉と岩手産松茸である
牛肉と松茸は、とても相性がいい
以前、毎日新聞奈良版(10/19付)の「ミシュランガイド:上陸 励みに/奈良の食文化発信 ☆に喜び、意欲」というミシュランのまとめ記事に《日本料理「万惣」(同市鶴舞東2)のオーナーシェフ、長田耕爾さん(56)も「料理人を育てるのは地元の常連さんたちでもある。そういった意味では、奈良のお店がミシュランの星を受けるのは、奈良の食の世界にとても意義があることだ」と語った》というコメントが紹介されていた。
漬物だって、長田さんが盛りつけると「絵」になる
にゅうめんのツユにも、いいダシが出ていた
全くその通りだと思ったので、私も当ブログの「識者コメントから“奈良の食”を展望する」という記事で紹介させていただいた。かつて長田さんは、奈良でお店をしているというと「何でそんな所で店を開いているんだ」と言われたこともあるそうだ。ミシュランで奈良のお店が紹介され、地元の常連さんが増え、ますます奈良の「食」のレベルが上がる。私はそのような好循環を信じている。
デザートにも手を抜いていない
それにしても、新鮮な食材を使った「小粋料理」の数々には舌を巻く。食材を見極める目、それらを組み合わせるイマジネーション、そして何より包丁のワザが冴える。今度はぜひ特別な日に、家族連れでお邪魔したいと思う。長田さん、美味しいお料理をご馳走さまでした。そしてMさん、良いお店にお連れいただき、有難うございました!
※奈良市鶴舞東町2-26 サンクレイン201
℡ 0742-47-4966 090-3260-5400
昼(11:30~15:00) 4,500円から(要予約)
夜(17:00~22:00) 7,000円~15,000円 アラカルトあり
カウンター8席、テーブル・お座敷2~15名
仕出し、慶弔料理、出張料理、パーティ料理、お茶事 対応可
地図は「食べログ」をご覧ください
お店の入口(ビルの2階)
先付。たっぷりのウニが美味しい
ミシュラン(P483)によると《ジャズやサーフィンをこよなく愛する店主。フランシス・コッポラに呼ばれて日本料理を披露した経験もある。ここの魅力はカウンターで食す割烹料理。割いたり、煮たりと、主の熟練した手さばきを間近に見ることができる。そぎ板に記された品書きには食材とその産地のみ。梅雨入りの頃から出始める鱧は目の前で骨切りし、焼き霜や鍋など、客の好みに合わせて調理する。秋が深まった頃に仕上がる手間暇かけたカラスミは、常連客の楽しみの1つだ》。
ご主人の長田耕爾さん。左は修業中のN嬢
なお「鱧(はも)の焼き霜(しも)」(焼き霜造り)とは、鱧の両面をあぶり、表面に焦げ目をつけ、中をレア状に仕上げたお造りのことだ。焦げ目の香ばしさが、独特の旨味をきわ立たせるという逸品である。さて、このお店は鶴舞東町。近鉄学園前駅から北へ伸びる道を通り、西部図書館のところで坂を下り(やまとの湯や万代百貨店のあるところ)、北西方向にあるコナミスポーツクラブ学園前の向かいのビル(サンクレイン)2階にある。ミシュランのお店はたいてい分かりにくい場所にあるが、ここは比較的分かりやすい店である。
私が訪ねたのは10/31(月)で、総勢3人。《品書きには食材とその産地のみ》とあったとおり、この日は「寒露」として「長崎 たいらぎ貝 淡路 たこ 焼津 南まぐろ 岩手 ますのすけ(キングサーモン) 千葉 黒あわび 根室 たらばがに 根室 きんき 紀州 子持あゆ 岩手 松茸 大和やさいいろいろ」等々 が書かれていた。
タコの含め煮。大根にも美味しい味がしみ込んでいた
ご主人の長田耕爾さんは、ご覧のとおりの「ちょいワルおやじ」風。Twitterには「料理人として37年 サーファーとして37年 ベーシストとして37年 まだまだやりたい事いっぱいだ!」とあった。 奈良市のお生まれで、銀座・鶴の家、中野・柿傳、京都・井筒、神戸・狸々、大阪・茜、京都・炭屋旅館などの名門で修業を積まれた後、この店をオープンされた。そのご主人のワザを目の前で実演していただけるのは、とても楽しいことである。
ミナミマグロ(焼津産)の握り。盛りつけはN嬢
1つはヅケ(醤油味)、1つは軽く塩を振ってある。どちらもウマい!
ミシュランに《鱧は目の前で骨切りし、焼き霜や鍋など、客の好みに合わせて調理する》とあったとおり、目の前で骨切りを始められた。ものすごい早業である。よく「鱧は一寸を24丁(24筋)に包丁する」といわれるが、長田さんの包丁は、もっと細かいのではないだろうか。
長田さんは「私の料理は“創作料理”ではありません。36年間貯めてきた“引き出し”から組み合わせて作っており、自信を持って“私の料理”としてお出ししています。世間では“創作料理”が持てはやされていますが、そもそも“創作料理”なんて代物は、お客さまにお出しするものではありません、おこがましいことだと考えています。偉そうなことを言ってすみません」とおっしゃっていた。だから万惣のお料理は、36年間の経験を踏まえた「長田耕爾さんの小粋な料理」なのである。
鱧の焼き霜(軽く炙った刺身)
新鮮野菜の下に、鱧の焼き霜が隠れていた。こんな食べ方は初めてだ
店内にこんな文章が張り出されていた。上野修三氏(料理人、浪花料理研究家)の言葉を、長田さんが毛筆で書かれたものである。タイトルは「板前割烹」。《ほんまの楽しみ方は なじみになることでっせ。掛け合い(話し合い)で 好きなもん食べて頂きたいもんを互いに知る楽しみも味のうちで「掛け合い料理」ともいうたんですわ。江戸時代後半から明治初期に始まったらしいけど、料り手(料理人)はみな口下手しゃべり下手でねぇ。それでもお人好しでっさかい、声をかけていただいたら じきに気安うしゃべれますねんで 上野修三語ル》。
紀州の子持ちアユ。はらわたから、ほんのりと故郷の川の味がした
なるほど。Mさんはここの常連なので、長田さんとはごく気安くお話しさせていただいたが、ミシュラン(および当ブログ)を見て初めて訪ねる人は身構えて来られるので、なかなかこのようには行かないかも知れない。しかしこの文章のように「声をかけていただいたら じきに気安うしゃべれます」ということなので、どんどんお声かけいただきたいものだ。
これはたっぷりのお肉と岩手産松茸である
牛肉と松茸は、とても相性がいい
以前、毎日新聞奈良版(10/19付)の「ミシュランガイド:上陸 励みに/奈良の食文化発信 ☆に喜び、意欲」というミシュランのまとめ記事に《日本料理「万惣」(同市鶴舞東2)のオーナーシェフ、長田耕爾さん(56)も「料理人を育てるのは地元の常連さんたちでもある。そういった意味では、奈良のお店がミシュランの星を受けるのは、奈良の食の世界にとても意義があることだ」と語った》というコメントが紹介されていた。
漬物だって、長田さんが盛りつけると「絵」になる
にゅうめんのツユにも、いいダシが出ていた
全くその通りだと思ったので、私も当ブログの「識者コメントから“奈良の食”を展望する」という記事で紹介させていただいた。かつて長田さんは、奈良でお店をしているというと「何でそんな所で店を開いているんだ」と言われたこともあるそうだ。ミシュランで奈良のお店が紹介され、地元の常連さんが増え、ますます奈良の「食」のレベルが上がる。私はそのような好循環を信じている。
デザートにも手を抜いていない
それにしても、新鮮な食材を使った「小粋料理」の数々には舌を巻く。食材を見極める目、それらを組み合わせるイマジネーション、そして何より包丁のワザが冴える。今度はぜひ特別な日に、家族連れでお邪魔したいと思う。長田さん、美味しいお料理をご馳走さまでした。そしてMさん、良いお店にお連れいただき、有難うございました!
※奈良市鶴舞東町2-26 サンクレイン201
℡ 0742-47-4966 090-3260-5400
昼(11:30~15:00) 4,500円から(要予約)
夜(17:00~22:00) 7,000円~15,000円 アラカルトあり
カウンター8席、テーブル・お座敷2~15名
仕出し、慶弔料理、出張料理、パーティ料理、お茶事 対応可
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