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『ライブドア監査人の告白』を読む

2006年08月17日 | 日々是雑感
夏休みの読書用にと、本をたくさん買い込んだ。読了1冊目がこの『ライブドア監査人の告白』(田中慎一著 ダイヤモンド社)だ。

読む前は「悪事に加担した見張り役が、自らを反省した本なのかな」と思っていたが、読後の印象は、「真実を知ったときは、手遅れだった。当事者である会計士が、粉飾の経緯とカラクリ、そして監査制度の限界を告白」(BOOKデータベース)という感じに近い。
※同書に関するダイヤモンド社のサイト(立ち読みもできる)
http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?isbn=4-478-31221-4

当初、この本全体を要約して紹介しようと思ったのだが、CNETに詳しく出ていたので(著者とのインタビュー・A4 で23ページ分)以下、概要だけを書くことにする。
※監査人が見たライブドア事件の舞台裏(CNET Japan)
http://japan.cnet.com/column/entrepreneur/story/0,2000055910,20137067,00.htm

著者の田中慎一氏(1972年生れ)は公認会計士としてあずさ監査法人、UBS証券などで主にM&A業務に従事した後、04年7月、港陽監査法人に移った。横浜に本拠を置くこの監査法人は、早くからライブドア(当初はオン・ザ・エッジ)の監査を引き受けていた。

というのはライブドアCFOだった宮内亮治氏(税理士・後に逮捕)と、港陽監査法人の創業時メンバー・小林元氏(証取法違反で在宅起訴)が旧知の仲だったからだ。当初は小林氏がライブドアの監査責任者だったが、彼が03年12月に他社(ゼネラル・コンサルティング・ファーム=彼が宮内氏と立ち上げた会社)に移った後は、同監査法人の久野太辰氏(証取法違反で在宅起訴)が引き継いだ。

小林氏と久野氏が担当している間、ライブドアの宮内氏は監査人をいいようにあしらっていた。中小監査法人の大クライアント(しかも税理士で弁も立つ)という立場を利用して、宮内氏は好き放題に会計を操作し、それを小林氏と久野氏に追認させていたのだ。

宮内氏やホリエモンの逮捕・起訴理由は、投資事業組合、株式交換、株式分割という手段などを巧みに利用しつつ、

1.投資事業組合を使った自己株売却益の環流
(風説の流布、偽計取引および粉飾決算=資本取引を損益取引として処理)
2.子会社との間の預金の付け替え
(粉飾決算=架空売上の計上)

を行ったことであるが、これらは小林・久野氏の時代に宮内氏が実行したものだ(ホリエモンはこれら操作の詳細までは知らなかった様子だ。小林・久野氏は、知っていて知らぬふりをしていた)。

小林氏が辞めた穴を埋めるように港陽監査法人に入った田中氏はライブドアと遭遇し、宮内氏の態度や会計操作に疑問を持ったことから、05年4月、ライブドアの監査責任者を自ら買って出る(この時点で、すでに04年9月期決算の虚偽の有価証券報告書が提出済だった)。つまりあえて火中の栗を拾いに行ったのだ。

田中氏が監査責任者になってから、それまでの負の遺産(監査人がライブドアの言いなりになっていた)の処理に手を尽くした。投資事業組合も解散させ、トリッキーな操作が行われる芽を摘んだ。

同書には、田中氏がホリエモンや宮内氏と行った丁々発止のやりとりや、「私の意見が嫌なら、監査人を降りますよ!」とプレッシャーをかけ続けた様子が記されている。上場企業で監査人が交代する(監査法人が変わる)と市場はネガティブに反応し、株価が暴落する可能性があるので、ライブドアはこれを大変恐れていたのだ。

田中氏は書く。「正直、ライブドアの監査には骨が折れた。常に堀江氏、宮内氏の行動には目を光らせていないとならないし、業績数値以外にも彼らがどのような事業計画や予算をブチ上げるのか、といった点についても気にかけなければならなかった。身の丈以上の業績予想を公表したがために、期末になって無理をしてくるというのが宮内氏の“活躍”の構図だからだ」

そして田中氏がコーポレートガバナンスや内部統制の整備に着手したところで、ライブドアに強制捜査が入ってしまった(06年1月16日)。

結局、ライブドアの粉飾に関与した港陽の監査人2人は検察に起訴されたが、田中氏は問題の決算期を担当していなかったため訴追を免れた。しかし田中氏は、事件を未然に防げなかった(「架空売上」について何かおかしいと感じていたが、監査責任者の久野氏に引導を渡せなかった)責任を感じ、自主的に公認会計士の資格を返上した。今後も会計関連の職には関わらないという。

担当検事のひと言が田中氏の立場を代弁している。「この事件って、港陽監査法人がライブドアから騙されたというより、田中さんや他のパートナー(監査人)が小林さん、久野さんから騙されていますよね」

田中氏は高校・大学(いずれも慶応)から社会人5年目まで、ラグビーをされていたそうだが、会計士を廃業するとはいかにもスポーツマンらしい潔さだ。田中氏は今年34歳と、まだまだ若い。これからは起業家として再出発されるそうだが、今回の事件を教訓として、たくましく甦っていただきたい。

※写真は東大寺・南大門の仁王さん(金剛力士立像のうち阿形像 運慶・快慶らの作)。8/14に撮影したカラー画像を白黒に補正した。仁王は、お寺を仏敵の侵入から防ぐ「見張り役」である。

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