韓国語は多くの固有語(韓語)を失っており、多数の言葉が漢語にとって代わられている。
大売出⇒대매출・テメチュル
たとえば、韓国語で「대매출・テメチュル」といえば、ディスカウントセールを意味するが、この言葉が「大売出」という日本語を韓国式に漢字音読したものと気づいている韓国人はほとんどいない。
そのように、自分たちの言葉がどれだけ漢語や日本語の影響を受けているかの自覚も容易に生まれない。
これは単に言葉の上の問題だけではなく、文化のあり方に大きく関係している。
たとえば韓国人も「タクアン」をよく食べるが、多くの人は「タクアン」を韓国固有の食べ物だと思っている。
かっては「タクアン」と呼んでいたものを、いまでは「タンムジ」(甘い大根の漬け物)と固有語にいいかえているが、「タクアン」が日本から来たもので、「沢庵和尚」の名に由来するとは先ず知らない。
そのようなことを学校で教えないからだけではなく、日常的に外来のものと気づく手がかりが、言葉のシステムの中に無いのである。
水素⇒수소(スソ)
韓国語では化学元素Hのことを「수소・スソ」という。
これは漢字で書けば「水素」で日本人が作った和製英語なのだが、韓国の学校教育では、科学用語としてとにかく「수소・スソ」というのだと教えられただけで、それを漢字では「水素」と書くのだとは教えられていない。
だから「수소・スソ」は日常生活とはなんら関係することのない純学術用語以外のものではなくなる。
しかし日本語では、「水素(スイソ)」という言葉を教われば、誰の頭にも「みずのもと」という訓が浮かんでくる。
そのように、純粋な科学用語でも日常的な和語の世界に抵抗なく入ることができる。
そのため日本では、韓国のように、学術用語が専門的な教育を受けた者しかわからない。
日常世界から遊離した言葉になることもそれほど多くはないのである。
こうして、和語は漢語に取って代わられることなく、逆に漢語を包み込むようにして日本化していった。
この、漢語が日本に根を下ろしていったプロセスは、外来文化が日本に入って日本化されていく基本的なパターンをすぐれて物語っているように思う。
さらに、幕末から西欧の文化・思想が入ってくると、日本は漢字を駆使して日本にない西欧の概念語に対応する日本語を盛んに創造しはじめる。
科学、化学、哲学、数学、株式、銀行、利息、資本、民主主義、権利、市民・・・・・・。
こうして作られた膨大な日本製漢字語は、中国や朝鮮でもほとんどそのまま採用された。
したがって、日本は国内についてだけではなく、中国や韓国での西欧概念の普及・理解にも大きな役割を果たしたのである。