「スウェーデン・ショック」状態

2006年05月18日 | 持続可能な社会

 ここのところの記事で書いたとおり、最近、小澤徳太郎『スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」』(朝日選書)を読み、スウェーデンの政府が主導する〈緑の福祉国家〉構築への着実なステップを知って衝撃を受けました。

 続けてそこに紹介されている本と自分で買って積読になっていた本を何冊か読み、衝撃はさらに深くなっています。

 もう、「スウェーデン・ショック」状態です。

 岡沢憲芙『スウェーデンの挑戦』(岩波書店)は、すでに1991年に出た本で、出た時に買ってあったのですが、何と15年も積読状態でした。

 なぜ、もっと早く読む気にならなかったのか、残念です。

 ここで受けたショックは、昨日の記事にも書きましたが、何よりも「権力は必ず腐敗する」――マナ識が平等性智に変容しないかぎり――と思っていたのに対し、統合的な理性――ウィルバーのいう「ヴィジョン・ロジック」――のレベルに成熟した指導者群と適切なチェック機能があれば、「権力は必ずしも腐敗しない」というスウェーデンの実例つまり事実(だと思われます)です。

 続いて神野直彦『人間性回復の経済学』(岩波新書、2002年)を読んで、経済学の分野でも「日本の構造改革を支えている経済政策思想は、「新自由主義」と呼ばれる」ものであり、「…新自由主義は人間の生活を破壊し、人間の生活をおびやかしていく。しかも、市場経済によって破壊される恐れのある人間の生活を保護する使命を担っている財政をも破壊してしまう」ことへの、論旨明快な批判がなされていること知った。

 「たしかに、重化学工業を機軸とするケインズ的福祉国家という、経済システム、政治システム、社会システムの結合方式は行きづまっている。とはいえ……ケインズ的福祉国家を解体して、市場経済つまり経済システムをむやみに拡大する構造改革を実行しても、社会的危機が激化するばかりである。」

 ではどうすればいいのか。ここでもモデルはスウェーデンです。

 「…現在のエポックで展開している第三次産業革命では…スウェーデンでかかげられている言葉で表現すれば、人間の歴史が工業社会から「知識社会」を目指して大きく動きはじめたのである。」

 内容は簡単に要約できないので、本を読んでいただくほかないのですが、要するに「知識社会」へと産業構造を変革していくことで、経済と福祉と環境のバランスを取ることのできる「人間性回復の経済」が実現できるというのです。

 なぜスウェーデンはこういうふうになれたのだろう、という疑問の半分くらい、歴史的プロセスは、これも積読だった百瀬宏『北欧現代史』(山川出版社、1980年)で解けてきました。

 第一次世界大戦、第二次世界大戦の中で、何とか巻き込まれず中立-平和を維持しようとしてきた北欧の人々のまさに血の滲む苦闘に心打たれました。

 多くの人々の英雄的努力の集積なのです。考えてみれば当然のようですが。

 まだ解けないのは、なぜ北欧、とりわけスウェーデンに、柔軟で賢明で英雄的な指導者が次々と生まれてきたのか、そういう文化、国民性がなぜ、どういうふうにして育まれてきたのか、という疑問です。

 これからさらにいろいろ学んでいきたいと思っています。いい文献、情報をご存知の方、ぜひ教えてください。



↓というわけで、是非、クリックしてメッセージの伝達にご協力ください。

にほんブログ村 哲学ブログへ

人気blogランキングへ

コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シンポジウム:日本を〈緑の... | トップ | 究極の覚りまでの5段階2:... »
最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (XAITO)
2006-05-19 02:08:14
先生が衝撃を受けて、真正面から受け止め、また飛躍しようとしている姿が、教え子として非常に感銘を受けます。

やっぱ、先生かっこいいわ。

返信する
「持続可能な社会」について (hajime)
2006-05-19 09:40:03
 以前、このblogにコメントをされていたkana-hさんのHP(http://www.cty-net.ne.jp/~kana-h/)の「共に生きる」に、けっこう「持続可能な社会」についての本質が書かれているように思いますが、いかがでしょうか。
返信する
読書中です (YOKO)
2006-05-30 07:36:01
『スェーデンに学ぶ「持続可能な社会」』を半信半疑で読み始めました。どうも私は未来に対して今まで楽観的すぎていたような気がしてきました。

初めて聞く言葉だったのでバックキャストとフォアキャストの違いがよくわかりませんでしたが、明確な目的地を想定した上でそこに至るいくつかの道を考え、その中から選んだ道を行くスウェーデンのやり方(バックキャスト)と

現在地から選択可能ないくつかの道のひとつを選んで進んでいく日本のやり方(フォアキャスト)を比べると

確かにたどり着く所はまるで違った場所になるだろうということはよくわかりました。



コスモロジーについても先生はバックキャスト方式をすすめておられるのですね。納得!
返信する
ショックから浸け (おかの)
2006-05-31 10:31:41
>XAITOくん



 教え子からそういわれると、ちょっと照れますがうれしいですね。有難う。



 現在、ショック状態から次のスウェーデン浸け状態に移行しています。



 理想化するつもりはありませんが、知れば知るほどスウェーデンの達成はすごい!



 ようやくなぜスウェーデンに出来て、日本に出来なかったのか、国民性のポイントが見えてきました。



 次は、ではそういう国民性はどうして育まれたのかという問題、それから日本はどうしたら出来るかという問題に取り組んでいきます。



 見えてきたことを、折々に書いたり話したりしていきますので、乞うご期待。



>hajimeさん



 コメント有難うございます。



 kana-hの記事も読んでみました。心は基本的にそのとおりだと思います。



 スウェーデンに驚いているのは、そういう心を一つの国単位で実現しつつあるということです。



 日本もそういう国にしたいですね。



>YOKOさん



 スタートの半信半疑という姿勢はとてもいいと思います。



 知っていくうちに、六信四疑とか七信三疑になるか、零信全疑というふうになっていくか、はっきりしてくるのではないでしょうか。



 学びが進むにつれて、私のスウェーデンへの評価は、現在、八信二疑くらいになっています。



 環境予測だけからすると、未来に対しては絶望寸前くらいになるのだ妥当だと私は思います。



 しかし、希望はゼロではないので、願望達成法-バックキャストの手法で、コスモロジーの共有、緑の福祉社会の構築を目指したいと思っているわけです。



 幸か不幸か、日本は自分で創り出すより、先進モデルを摂り入れるのが得意な国です。



 みんなで、スウェーデン・モデルに追いつき、追い越しましょう!

 



 

返信する
ニッポンのKaizen(改善) (asassata)
2006-07-02 00:33:27
 早坂隆『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)という本に次のようなジョークが載っていました。



●四段階

 新製品が世に流通するまでには、全部で四つの段階がある。

 まず、アメリカの企業が新製品の開発をする。

 次にロシア人が、「自分たちは同じ物を、もうすでに三〇年前に考え出していた」と主張する。

 そして、日本人がアメリカ製以上のクオリティのものを造り、輸出し始める。

 最後に、中国人が日本製のものに似せた偽物を造る。



 これをもじって書くと、



●三段階

 スウェーデンの政府が〈緑の福祉国家〉政策を始める。

 アメリカが相手ではないのでロシア政府の反応の段階が抜けて三つになり、

 日本政府がスウェーデンの〈緑の福祉国家〉政策を更に改善して、諸国のモデルとなり得る政策を採る。(今がまさに、この段階の種を蒔こうとしているところですね!)

 (思いっきり希望的観測を抱いて)中国を含む多数の国が、この政策を模倣するようになる。



 中国も環境問題が深刻化しているようで、汚染物質は偏西風に運ばれて日本に運ばれて来ますから本当にそうなってほしいです。日本は一応大国のはずですが、今ひとつ存在感が薄いところがありますけれども、こういった部分で世界に対する発信力をつけてもらいたいものです。大衆文化の発信力に関しては超大国とも言われるようですが……
返信する

コメントを投稿

持続可能な社会」カテゴリの最新記事