ロジャーズ派の意味と限界

2005年12月14日 | メンタル・ヘルス

 サングラハ心理学研究所の昨日(13日)の講座は、「聴くこと――コスモス・セラピーの視点からカウンセリングの基本を学びなおす」の最終回でした。

 そこで話した内容のレジュメを公開しておきたいと思います。

 これは、批判のための批判や敵対的批判ではありません。

 もし認識不足、まちがいがあれば、当然のことながら訂正する用意があります。

 関係者の方の生産的なコメントをいただけるとうれしいと思っています。

 ロジャーズ派の意味と限界

 人間の潜在力・成長可能性への信頼は、人間性心理学全体が共有している。

 感情に焦点を当てた傾聴-共感的理解によってクライアントが体験するのは、マズローの階層構造理論でいうと、所属と愛の欲求、承認欲求のある程度までである。

 もっとも典型的・理想的に行なわれた場合、それらの欲求が適度に満たされることによって癒され、自己成長欲求に到りうる。

 しかし、所属と愛の欲求や承認欲求が実際の社会生活の中で十全に満たされるためには、それらを満たしうるような適切な行動が必要であり、適切な行動には適切な知識と考え方(思考)が必要である。

 ロジャーズ派では、無条件に感情を受容することに集中しすぎて、そうした学習過程を組み込んでいない。

 そのため、深い体験をすることなしにただ「親身になってグチを聞いてもらう」ことで一時的に気が楽にはなるが、問題解決はせず、カウンセリングが長引くだけという結果に終わることも多い。

 また、日本には自己決定-自己責任という文化的な風土がないので、深い体験をしたとしても、その結果、適切な思考、知識、行動の自己学習が自発的に行なわれるということが起りにくく、おなじくカウンセリングが長引きがちである。

 クライアントの自己改善・自己学習意欲を引き出し、かつセラピストのインストラクションを受け入れる気になってもらうには、「心の絆(ラポール)」を形成する必要があり、そのための導入部でのベースとして、傾聴-共感はできるだけあることが望ましい。

 しかし、知識・思考・行動が適切なものに変容するために不可欠なのは、適切な事柄の「学習」である。

 論理療法は、感情はそれ自体で独立して起こるのではなく、自明化・自動化した思考(belief)に大きく影響されて起こることを発見した。

 そこで、もちろん感情を大切にはするが、それに焦点を当てるのではなく、思考・思い込みに焦点を当て、働きかけ、変えることで、不健全な否定的な感情を健全なものに変えるという教育―学習的な技法を開発している。

 もちろん心理療法に万能薬があるとは思えないが、脳の病理がない・または少ない中程度までの心理的な不調の治癒の方法としては、比較的短期間でかなりの効果があがる有効な方法だと評価できる。

  自己肯定のための条件・4つの層

 個人レベル
 社会集団レベル(家庭、友人グループ、会社など)
 民族・国家レベル
 自然・宇宙レベル

 人間性心理学は、主に個人としての人間に焦点が当たっており、一部、集団における人間を重視するものもあるが(エンカウンター・グループ、グループ・ダイナミックス、アドラー心理学etc)、民族・国家、自然・宇宙レベルは十分視野に入っていない。

 その点を補うものが、サングラハにおける仏教の学びとコスモス・セラピーの組み合わせである。


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コメント (4)
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