sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:ル・コルビュジェとアイリーン 追憶のヴィラ

2017-12-07 | 映画


もう2度とコルビュジェの作品が素敵に思えなくなる映画。
傲慢の権化、独善の塊のいやなやつ(笑)
でも、実際のところはどんな人だったんだろうなぁ、と興味はわきます。

「ル・コルビジェとアイリーン追憶のヴィラ」という、
相も変わらぬ駄邦題映画には呆れるけど、
どのシーンを切り取ってもシャネルかエルメスかという
ハイブランドの広告写真みたいなきれいな映画だった。
主人公は若くなくて美貌でもないのにどのシーンもホントきれい。
スタイリッシュな映画です。

予告を見て、コルビュジェとアイリーンが愛し合って愛憎の果てに
コンプレックスとプライドの高いダメ男コルビジェに才能を利用される話か、
女性ゆえにうまく騙される話かと思ってたら、全く違う話で、
二人は全然恋愛とかなくて、コルビジェは重要な役ながらも脇役で
むしろアイリーンの生き方や恋愛についての話。
本当のタイトルは「欲望の値段」なのに、邦題は
脇役のコルビジェの名前を前面に出してコルビジェの映画のように思わせ
観客を騙す意図なのかと思うと、ますますいやだなぁ。

アイリーンは何度か、孤立や孤独の重要性を言う。それは自由のコストだと。
この強くて毅然とした彼女に比べて、相手役の(コルビュジェの友達)色男?が、
チャラい役で、しかもチャラさの中にキラリとした無垢や誠意や愛が見える俳優
・・・ではなかったのが残念。笑
色気はあるんですけどねぇ、何とも悪そうな、浅はかそうな、安っぽい。

売れっ子有名家具デザイナーだったアイリーン。
コルビュジェの友達の建築(評論)家のジャンに取材を受け、
彼女の理想の家を建てるのに協力し合おうということになって、
そのうちに愛し合うようになる。そして、二人のための家を建てるが、
アイリーンもジャンの薄っぺらさ、軽薄さ、ずるさを知るようになり
自分がいいように利用されて、自分の作った家さえ自分の手を離れてしまうと、
一旦は怒るものの、結局は現実を受け入れ距離をおくようになる。
怒りに駆られて泣いたり暴れたり戦ったりするのではなく
疲れた顔であきらめて、復讐よりも自己を高める方へ向かおうとする大人ぶり。
アイリーンの愛の深さ、懐の深さには、とても感銘を受けた。
そして、この一度は愛した男が死の床についたときの彼女の優しさはどうだろう。
浅はかで軽薄でプライドばかり高く自分を利用しながらお酒に溺れたこの男を
アイリーンはやはり愛していたのだなぁ。
全部わかった上で、ダメな男を、仕方ないと愛していたのだろうかなぁ。

アイリーンだけでなく、彼女の恋人女性達の美しさ、気持ちの自由さと優しさは
醜い嫉妬に絡め取られ、独善的な行動をとる自意識過剰で傲慢な男達とはあまりに違って、
なんと美しく気高いことか。
アイリーンがジャンとコルビュジェたちに、ボーイズオンリークラブにはうんざり!と
怒鳴るシーンがあるけど男の嫉妬って、立場が強いだけに本当に手に負えない。
この男たちには、慰めあう女たちの徳の高さのひとかけらもない。
コルビュジェの作品がどんなに素敵でも、
才能と人間の中身は、全然別ものなんだなぁと、しみじみ思った映画。