詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

アルメ時代32 傾斜する私

2020-02-02 15:28:37 | アルメ時代
アルメ時代32 傾斜する私



   1
あの日あの街角で
時間を殺さなかったか
アスファルトが白く光って
キョウチクトウが重たく揺れた
曲がらずにまっすぐに行った
あのときのことだ

   2
まだ引き返せる

   3
凝縮された影の上を
影からはみださないように正確に
郵便配達の赤い自転車が走る
角を曲がって消える
ブレーキが軽くきしむ

(逆だったかも)

   4
(振り返ったときに見えるものは
自分の背中だけである)
(振り返ってもみえないものは
自分の背中である)

   5
影が蒸発してしまったのか
色が形を離れ
ザラザラうわついている

   6
(落雁のように)

   7
ここにいるのに
ここが遠い

   8
(落雁のように
均一な粗さに押しかためられた
甘さ……)

   9
電柱に耳を押しあてる
やけたコンクリートのなかから
何かが聞こえる
名づけたくはない
名づけることで
すべての存在に対して
運命が平等であるということを
自覚したくはなかった

   10
遠近法が揺れる
打ち水をした場所で
ほこりが強く匂う
簾の細い横線が光をはじいている
誰かがのぞいている
気配がある

   11
まだ引き返せる
(どこへ
いつへ)

   12
細工がふらつく

   13
ボールが転がってくる
支柱にぶつかり止まる
カーブミラーのなかへはだれも入ってこない
円周へなだれていく無数の焦点
そのあたりで
くらくなる色

   14
境界線はたしかにある
決してあらわれない視線も
どこかにある
アスファルトは白く光って
四方にのびてゆく
キョウチクトウがまた揺れた

   15
まだ引き返せる
(かもしれない)




(アルメ252 、1987年09月25日)

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