―ひきこもり探偵シリーズ―
坂木 司/創元推理文庫
2006年6月26日初版、2013年3月1日第17刷。数あるミステリーの中でも人が死なないミステリー。「ひきこもり探偵シリーズ」は三部作。「仔羊の巣」はその中の作品で前に「青空の卵」、後に「動物園の鳥」がある。主人公は鳥井真一なのだが、なにせ「ひきこもり気味」なので、坂木 司が話をリードする。鳥井真一の論理的推理、状況分析は人並み外れているが、(坂木以外の)人の痛みを理解しようとしない人物。自分勝手なひきこもり野郎だ。憎たらしい。面と向かって言われたら、とても栄三郎さんのように寛容ではいられない。そんなイメージを残す主人公を描くことが著者の意図だったのか。
それは三部作の完結編を読まなければわからない。嫌だけど、この先が気になる。現実はもっと厳しくて、苦労している人はたくさんいる。自業自得、自己責任とは言うけれど、そんな現実を見ると何も言えなくなってしまう。人は「ひきこもり」を潔しとしない。いつか羽ばたくことを期待している。だからこそこの先が気になるのだ。
仕掛けたはずの仲介役が実は自分がターゲットだったなんて、鳥井の推理はすごい。一度も会っていない相手をここまで洞察するのか。「憧れと忘却は、人にとって生きてゆくために必要な福音」、でも鳥井真一は慣れることを知らない。「寂しさに終わりはない。僕らはいつでもたった一人なんだから」でも、だからこそ誰かと共に歩きたいと願う。常々そんなことを訴えかける作品。
このナヨっとしたこの雰囲気、そう5年前に読んだ「和菓子のアン」だ。料理に対する憧憬、描写も確かにそのままだ。著者は覆面作家などと言われているが、どうやら作品は書き続けているらしい。
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