内田康夫/角川文庫
1993年3月10日初版、1993年10月10日第六刷。シリーズNo.48。ストーリー自体はそれ程凝った作りではない。けれども、光彦の偽物が登場するという仕掛けがある。矛盾というほどでもないが、話の整合性にぎこちない所があるような。この作品もまた「伊香保殺人事件」に似たような背景を採用している。「日なた道と日かげ道」である。下川健一は気の毒としか言いようがない。何の罪も責任も無いのに、である。原因を作った父親は、その責任を問われたのであろうか。偽光彦の最期を思うと、何かしら悲哀と怒りが湧いてくるようだ。
トランプの絵柄が付いた表紙の冊子は北原白秋の詩集「O MO I DE」。白秋と言えば「雨」や「この道」など、どちらかと言うと曲の方で有名だが、その詩集の中に仕組まれた一枚の写真が物語る真実に、人間の限りない欲望が隠されていた。白秋にとってはいい迷惑なのだけれども、それが「思ひ出」というタイトルなのだから、意味深長である。片や、自分の汚れた過去を隠蔽しようとし、片や、それを強請のネタにして優位に立とうとする。自分の全く関係ないところで、自分を中心にして起こる不条理、理不尽に、最後まで偽光彦は己の心情を語ることは無かった。
現代では、あらゆる画像が世界中で氾濫している。あらゆる街角や通りでも監視カメラがある。個人として、禍根となるようなものは残したくないものだ。
早速、トランプの絵柄が付いた表紙の冊子、北原白秋の詩集「O MO I DE」を検索してみた。画像の著作権があるのか無いのかわからないが、復刻版の画像があった。詩集にしては随分立派な本だった。
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