蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ゴールデンスランバー

2008年01月13日 | 本の感想
ゴールデンスランバー(伊坂幸太郎 新潮社)

例によって舞台は仙台。首相暗殺の犯人にしたてあげられた主人公が、(捕まってごたくを並べられる前に殺してしまおうとしている)警察に追いかけられ、かつての友人などに助けられながらひたすら逃げる話。
伊坂さんらしく、過去と現在のシーンが互い違いに登場するが、構成が絶妙で読みやすく、混乱しない。また、伊坂さんの作品としては珍しく超能力者が登場しない。

(ここからネタバレ多数ですのでご注意ください)
ご都合主義と指摘されそうな部分がたくさんあるのだが、それぞれに隠し味のようなエピソードを添えることで、スマートな物語に仕立てていると思う。
例えば・・・
①数年前に野原に捨てられた車の中で恋人とデートしたことを思い出した主人公は、移動手段としてその車を使おうと思いつく。もちろんバッテリーはあがっているが、元恋人もなぜかその車のことを思い出して新品のバッテリーをもってきてくれる。
→昔のデートの場面とか主人公が車に残したメッセージを元恋人が発見する話などが魅力的なため、「そんな都合よく行くわけないでしょ」とは余り思わなかった。

②仙台付近で連続殺人を犯している犯人がなぜか主人公をたびたびアシストしてくれる。
→連続殺人犯のキャラがものすごく立っている(主人公よりもずっと魅力的。この人を主人公にした物語を読んで見たいと思うほど)ので、そちらに気をとられて不自然を感じているヒマがない。

③主人公は、結局警察に囲まれた窮地から下水道をたどって逃げ、整形手術をして別人になりすますことで生き延びる。
→こう書くとなんとも陳腐なラストなのだけれど、変なアイドルの女の子(整形してた?)と主人公のエピソードを絡めることで悪い印象を回避している。


主人公はいったん捕まって無実を証明しようともするが、国家権力は自分を殺そうとしていることに気づき、とにかく逃げることにする。周囲の人もとにかく逃げろと主人公を励ます。
伊坂さんは、同じような主題の「魔王」では、自由を制限しようとする権力に(無力ながらも)立ち向かおうとする人を描いていた。既にに日本は(あるいは世界は)努力によって修正できないほど悪い方向に向かって走り始めてしまった、だから、後は逃げるしかない、と言いたいのだろうか。

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