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パトリシア・ハイスミス『11の物語』(1970)(その2 )「恋盗人」:これは1960年代つまり女性解放(ウーマンリブ)の時代、「翔ぶ」女の時代を背景にした小説だ!

2023-05-25 16:13:45 | 日記
※パトリシア・ハイスミス Patricia Highsmith(1921-1995)『11の物語』Eleven(1970、49歳)ハヤカワ・ミステリ文庫(2005年)「恋盗人」(The Birds Poised to Fly)
A  ドンはニューヨークに住む工業デザイナーだ。彼は「愛している!結婚してくれ!」という手紙をパリに住むロザリンド(工業デザイナー)に書いた。だがロザリンドからの返事が来ない。ドンは毎日毎日、郵便箱を見る。
A-2  ドンは、隣りのデューゼンベリーという男の郵便箱に、自分宛てのロザリンドの手紙が入っているのではないかと思う。デューゼンベリーは6日も郵便箱を見ていない。
A-2-2  ドンは隣りの男デューゼンベリーの郵便箱の扉を引っ張り曲げて、ヨーロッパから来た航空便の封筒を取った。しかし自分(ドン)宛のものでなかった。
A-3  ところがなぜかつい、その航空便をドンはポケットに入れ持ってきてた。それはデューゼンベリーという男のガールフレンドからのものだった。彼女の名前はイーディスだった。
A-3-2  急にドンはイーディスの手紙の中身が知りたくなって、秘かに開封して手紙を読んだ。イーディスは「もう一度、ぜひ会いたい。返事を下さい」とデューゼンベリー宛に書いていた。だがデューゼンベリーは郵便箱を見ていないし、したがって返事も書いていない。
A-3-2-2 イーディスはデューゼンベリーからの返事を熱望している。ドンがロザリンドからの返事を熱望しているのと同じだ。
A-3-3  ドンはイーディスの手紙を読み終わると、再び、隣りのデューゼンベリーの郵便箱に戻した。

B ドンがロザリンドに「愛している!結婚してくれ!」という手紙を書いてすでに22日がすぎた。
B-2  ドンは、自分と同じように返事を熱望するイーディスに、 デューゼンベリーのふりをして返事の手紙を書いた。イーディスがそれに対して再び手紙を書いたら、宛先をドンの勤める「会社気付で返事をくれたまえ」とドンは追伸した。
B-2-2  翌朝(金曜日)、イーディスからの手紙がドンの会社に届いた。
B-3 だがドンの郵便箱にロザリンドからの手紙は来ていない。ドンは絶望する。ドンの心が、自分と同じように恋人(デューゼンベリー)からの返事を熱望するイーディスにしがみついた。
B-3-2  ひたむきに思い詰め「逢う時と場所を言ってくれ」と恋人(デューゼンベリー)に訴えている女(イーディス)!まるで「今にもとび立とうとする小鳥」(A Bird Poised to Fly)だ。  
B-3-3  ドンはイーディスに電報をうった。「金曜(あさって)午後六時、グランド・セントラル駅レキシントン口ニテ待ツ。愛ヲコメテ。」
B-3-4  金曜日の朝、パリのロザリンドからNYのドンのもとに手紙が届いた。「わたし、結婚のために自分の生活をいきなり全面的に変えるって気にはなれないんです」とロザリンドが書く。
B-3-4-2 ドンは「きみと結婚したいんだ」なんてロザリンドにいきなり言って、自分は「間抜けだった」と思った。
B-3-4-3 ドンは思い直し、今夜にでもロザリンドに念入りに手紙をいて、二人の関係をちゃんともとどおりにするんだと思った。

C その午後、会社を早めに出て帰宅したドンは、イーディス(デューゼンベリーの女)が午後六時、グランド・セントラル駅レキシントン口に来ることを思い出した。
C-2  ドンは一張羅の背広に濃紺のネクタイを締めて、グランド・セントラル駅レキシントン口に向かった。午後6時、そこに22歳位の希望に満ちた女性(イーディス)が待っているのを、ドンは見た。6時35分になっても彼女は待っていた。やがて7時、彼女の目が涙で光っているのに、ドンは気づく。
C-3  だが最後にドンが見たのは、「あくまでもと覚悟をきめ、分別をかなぐり棄てた、一縷の望みをうかべてキラキラ光る目だった。」

D ドンはレキシントン・アヴェニューを歩きながら泣いた。「おれの目も、かなえられもしない希望をいっぱいにみなぎらせてキラキラ光っているのだ」とドンは思った。ドンは昂然と顔をおこした。今夜は何が何でもロザリンドに手紙を書こう!

《感想1》ドンは、まったく無関係の22歳の女性イーディスにとんでもない仕打ちをした。①彼女が待つデューゼンベリーは初めからそこに来ることが全くない。②そもそもイーディス宛にデューゼンベリーが手紙を書いていない。イーディスは虚偽の手紙でからかわれただけだ。
《感想2》にもかかわらず、イーディスは絶望しない。「一縷の望みをうかべてキラキラ光る目」をしていた。
《感想2-2》イーディスは、十分若いのだ。彼女はあきらめず「もう一度、ぜひ会いたい。返事を下さい」とこれからもデューゼンベリー宛に手紙を書き続けるだろう。
《感想2-3》だが今後の展開は様々だ。①永遠にデューゼンベリーは「返事を書かない」かもしれない。②イーディスはデューゼンベリーの住居に「直接、逢いに来る」かもしれない。②-2 その時、「デューゼンベリーにハッキリ拒絶される」かもしれない。そして③イーディスは「ついに諦める」かもしれない。④あるいはデューゼンベリーがイーディスと「ハッピー・エンド」になることもありうる。
《感想3》NYのドンとパリのロザリンドの関係の展開として、もっともありうるのはロザリンド自身が言うように、しばらくロザリンドは「結婚しない」ということだろう。「わたし、結婚のために自分の生活をいきなり全面的に変えるって気にはなれないんです」!
《感想3-2》実際、これは1960年代を背景にした小説だから、女性解放(ウーマンリブ)の時代だ!そして「翔ぶ」女の時代だった。Cf.  エリカ・ジョング(1942-)『飛ぶのが怖い』(1973)。
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