臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の朝日俳壇から(9月1日掲載・其のⅣ・木曜夕刊)

2014年09月04日 | 今週の朝日俳壇から
[金子兜太選]

(松江市・三方元)
〇  サーフィンやこの東に真珠湾

 昨今の日本人は、「円安弗高」をものともせずに海外に水遊びに出掛けようとする、とか?
 松江市にお住いの三方元さんは、もう立派な大人ですから、地元・宍道湖での水遊びに満足せずに、今年の夏は、海外、しかも熱海沖の初島や佐渡島や沖永良部島などの我が国内の島ではなく、畏れ多くもアメリカ領の太平洋中央海山群の中に浮かぶ孤島・ウェータ島まで「サーフィン」とやらを楽しむ為にお出掛けになられたのでありましょう。
 アメリカ領・ウェータ島と言えば、北緯二十度線から僅かに赤道側に外れた島であり、それを何処までも東側に泳いで行けば、溺れない限りに於いては、間も無く「真珠湾」の在るハワイ諸島に辿り着くはずである。
 そこで、三方元さんはサーフィンを楽しみながらも、「この海を東の方向に何処までもサーフィンボードに乗っかって進んで行ったとしたら、あの日米開戦の初っ端となった真珠湾に辿り着くはずである。それなのにも関わらず、僕はこの島でサーフィンなどに現を抜かしている始末である。自公連立政権の横暴に拠って、解釈改憲が為されたそうだから、これからは、地元の日本海でサーフィンを楽しまなければならないな!」などとお思いになったのでありましょう。
 でも、日本海にも近頃は得体の知れない船舶が出没しているという噂があり、日本海岸には注射針などが漂流して来るという噂もありますから、サーフィンを楽しむ事は不可能なのかも知れません。
 〔返〕  サーフィンもおちおち出来ぬ日本海
      小魚も根こそぎ攫ふ某国船  


(さぬき市・野崎憲子)
〇  身の内の荒野青条揚羽かな

 私の連れ合いのS子が話すところに拠ると、「女性というものは、誰しも、身の内に必ず鬼を匿っている存在である」とか?
 本句の作者、即ち、香川県さぬき市にお住いの野崎憲子さんの場合は、「身の内」に茫漠たる「荒野」が広がっているのであり、句中に登場する「青条揚羽」は、野崎憲子さんの身の内の荒野から突如として湧き出でたものと判断されるのである。
 本句は、家庭内のいざこざに拠って生じたフラストレーションから解放されようとする、作者ご自身の言うに言われぬ衝動が詠ましめた名句でありましょうか?
 〔返〕  身の内の不満みーんみーん蝉時雨


(熊谷市・時田幻椏)
〇  泡盛は俳句の季語なり一壺あり

 「泡盛」と言えば、「主としてインディカ米を原料として黒麹菌を用いた米麹である黒麹によって発酵させ、もろみを蒸留した琉球諸島産の蒸留酒であり」、日本酒やビールに厭きた我が国の酒好きの輩どもの垂涎の的となっているアルコール飲料である。
 かく申す、私・鳥羽省三も酒好きの輩どもの中の一人であるが、先年、石垣島旅行から帰った知人から、同地方で幻の酒とされている泡盛「八重泉・黒真珠」の4合瓶を頂戴したのであったが、その頃の私は、通い付けの医師からドクターストップを食らっていたので、せっかくの賜物を口にしないままに何処かに棄ててしまったように記憶しているのである。
 本句の作者・即ち、我が国随一の猛暑の地として知られた、埼玉県熊谷市にお住いの時田幻椏さんは、日本各地に親友をお持ちの方と推察されますから、沖縄地方にも俳句友達をお持ちになられ、四季折々の名産品などをご贈答なさって居られる事と拝察される。
 ならば、本句中の「一壺」の「泡盛」とは、そうした折に沖縄地方の俳句友達からクロネコヤマトのクール宅急便で送られて来た品物と思われるのであるが、その銘柄に就いては、私は一切存じ上げません。
 本句の上五と中七に「泡盛は俳句の季語なり」とあるが、時田幻椏さんの仰る通り、「泡盛」は焼酎や冷酒やビールやサイダーなどの他の飲料と共に「俳句の季語」の一つとして数えられていて、これを季語として用いた俳句は、石塚友二作の「泡盛や汚れて老ゆる人の中」、後藤比奈夫作の「泡盛にちゆらさんといふ言葉よき」、岸はじめ作の「届きたる甕の泡盛先ず試飲」等など、数えきれない程に詠まれているのであるが、この度、私が朝日俳壇の入選句として接する機会を得た、時田幻椏さんの御作、「泡盛は俳句の季語なり一壺あり」は、その滋味溢れる内容もさる事ながら、「泡盛は⇒俳句の季語なり⇒一壺あり」という、一気呵成に詠み上げた格調高い詠風は、二十一世紀の「俳句歳時記」に登録され、我が日本人の残した精神遺産の一つとして永く記憶されるべき名句である。
 〔返〕  泡盛を飲みたけれども命惜しせめて飲もうか三ツ矢サイダー
      泡盛を飲みたけれども命惜しせめて飲もうか養命酒など


(茅ヶ崎市・清水呑舟)
〇  とめどなき佐渡の流星世阿弥の忌

 「陰暦八月八日」は、「観世流二世(観阿弥が一世)・世阿弥」の忌日とされていて、俳句では秋の季語である。
 「陰暦八月八日」は、現行暦の九月半ばであるから、澄み切った「佐渡」の夜空には「流星」が一晩じゅう流れる季節でありましょうか?
 〔返〕  佐渡島燈点し頃のお椀舟      


(秩父市・浅賀信太郎)
〇  人間の頭上に原爆落した日

 「金子兜太選」ならではの入選作であるが、こんなにストレートなもの言いをしても、俳句と言えるのでありましょうか?
 〔返〕  人間の頭上に原爆落すとは神を恐れぬ所業なりけむ   


(鹿児島市・青野迦葉)
〇  縄文人の身の丈四尺草の花

 「身の丈四尺」と言えば、僅かに120cm余りの身長である。
 我が国の先住民に「コロボックル」という小人が居た、との説が為されているのであるが、「縄文人」とは、そのコロボックルの異名なのかも知れません。 
 事の序でに記しますと、昭和の歌姫・美空ひばりさんの身長が150cmだったとか?
 〔返〕  ステージも狭しとばかりに歌い捲る昭和の歌姫・美空ひばりさん


(柳川市・木下万沙羅)
〇  終戦日居住ひ正す父をふと
(茅ヶ崎市・小泉由美子)
〇  昼寝覚兵役に泣く夢に泣く

 兵役に就いていた者にとって、軍隊生活の中で身に付いた習慣は、一生涯、死ぬまで付いて回るとの説も在ります。  
 木下万沙羅さん作に登場する「父」にとっての兵役経験と、小泉由美子さん作に登場する人物の兵役経験の差はかなり大きいようにも感じられますが、実のところは、それ程の差は無いのかも知れません。
 〔返〕  昼寝覚め一兵卒の我なりき 


(佐賀県有田町・森川清志)
〇  老いたれど太陽族の夏ありき

 佐賀県有田町に「太陽族」が居たとはビックリ仰天!
 あの怒張したイチモツでも以って、赤絵の花瓶でも割り捲っていたのでありましょうか?
 〔返〕  老いぬれどかつては暴走族なるぞキャブトン飛ばして鳴らしたもんだ!


(野洲市・鈴木幸江)
〇  わたくしはひつくり返つた兜虫

 もう起き上がることが出来ません。
 他人の手、取り分け、お金持ちの殿方の手を借りなければ、私は永久に起き上がることが出来ません。
 〔返〕  私はひっくり返ったカブトムシ五体曝して干上がるばかり

今週の朝日俳壇から(9月1日掲載・其のⅢ・木曜朝刊)

2014年09月04日 | 今週の朝日俳壇から
[稲畑汀子選]

(小平市・三浦正明)
〇  今までにないほど水を飲んで秋

 今年の夏の暑さは例年に無く厳しいものであったが、作者の三浦正明さんは、本句を以って、今年の夏の暑さ対処方の極意をずばりと披歴して見せたのである。
 〔返〕  この夏は例年に無く水飲んだ


(神戸市・玉手のり子)
〇  図書館に誰かの寝息夏深し

 公立の図書館を昼寝の場所としていると思われる人々が例年に無く多かったのも、今年の夏の目立った傾向でありました。
 〔返〕  新聞の縮刷版を枕にし昼寝していたバアバも居たね
      新聞の縮刷版を枕にし昼寝していたジイジも居たり
      新聞の縮刷版を枕にし昼寝していたガングロ居たり
      新聞の縮刷版を枕にし昼寝していたプータロも居たね


(柏市・藤嶋務)
〇  老いの秋転ばぬやうにして転ぶ

 どのように注意して歩いても転んでしまうのが「老い」というものの特質の一つである。
 という訳で、私などは出来るだけ外出しないようにしているのであるが、それはそれで筋肉退化の原因となり、ごくたまに外出した時に転んでしまう遠因を作ってしまうから、「老い」というものは真に世話の焼けるものである。
 〔返〕  手土産の御座候を食べたしと孫と目配せ交はせる老母


(奈良市・田村英一)
〇  ひぐらしや夜の匂ひの迫るとき

 「夜の匂ひ」と言えば、若い頃酒場遊びに現を抜かしていた私などは、つい、酒場女の肌の匂いを思い出してしまうのであるが、本句の作者は仏都・奈良市にお住いの方ですから、お線香か抹香の匂いを思い出すのでありましょう。
 冗談はこれくらいにして言えば、本句の作者・田村英一さんは、迫り来る老いの実感と共に、蜩の声に耳を傾け、一人暮らしの夜の辛さに耐えているのでありましょうか?
 でも、やはり、何処かから抹香の匂いが漂って来ました。
 本句は、真面目な態度で鑑賞しても、お線香や抹香の匂いと無縁では無いのかも知れません。
 〔返〕  蜩や燻り止まぬ毎日香  


(平戸市・辻美彌子)
〇  朝顔の思案してゐる蔓の先

 朝顔の蔓が自ら予想していた以上に早く伸びてしまったものだから、右に向かおうか左に向かおうかと迷っている図柄であるが、それ以上に迷っているのは、本句の作者の辻美彌子さんでありましょう。
 新カレは美男子ではあるが、何処と無く頼りなさそうであるし、かと言って、今更、元カレと復縁出来る訳ではないし、と、あれこれと思案をしているのでありますが・・・・・・・。
 〔返〕  苦瓜の悩みあり気な蔓の先
      苦瓜の思案あり気な蔓の先


(枚方市・上野鮎太)
〇  谷川へ降りてゆく道曼珠沙華

「谷川岳」の登山道に取材した一句と思ったのに、作者が枚方市にお住いの方だから、作中の「谷川」とは、大阪郊外のドブ臭いただの「谷川」なのかも知れません。
 でも、だからとて、私たち首都圏の住民もそんなに威張った口は利けません!
 何故なら、東京の世田谷区に「等々力渓谷」というご立派な名称で呼ばれている渓谷が在りますけど、あすこだって、生活排水の匂いが漂ってますからね!
 でも、でも、もう一言云わせて下さいよ!
 あの「曼珠沙華」って奴は何処にだって咲きますからね!
 私は去年の秋に、JR横浜線の十日市場駅裏のしょんべん臭い畦道にあの花が整然と列を成して咲いていたのを見ましたよ! 
 私が臭覚を失っている人間ならば、あれを目にしてた瞬間、感激の涙を流した場面であったのかも知れません!
 〔返〕  駅裏のどぶ板通りの曼珠沙華


(札幌市・菅原ツヤ子)
〇  唐黍の焼く香この街らしくなる

 新緑の頃の「よさこいソーランまつり」と言い、寒さ盛りの二月の「さっぽろ雪まつり」と言い、私は、札幌、特に札幌の大通公園には何一つとして楽しい思い出がありません!
 〔返〕  唐黍の焼く香ただよふ初夏になり俗の俗なる札幌の街

   『初夏』   作詞作曲・山木康世/歌唱・ふきのとう

 噴水の前で 記念写真を
 撮っているのは 新婚さんかな
 僕は座って それを見ている
 鳩はつついてる とうきびの殻を

 夏の初めの昼下がりは
 とても馴じめず淋しくなる

 時計台を見て たむろしている
 大きなリュックの黒いカニ族
 僕は通り過ぎ 見ない振りして
 道を聞かぬよう 声をかけぬよう

 夏の初めの昼下がりは
 とても馴じめず淋しくなる

 地下街はいつも都会の顔して
 狸小路を 田舎扱い
 僕は地下鉄の電車を待ってる
 センチメンタルに浸った振りして

 夏の初めの昼下がりは
 とても馴じめず淋しくなる

 夏の初めの昼下がりは
 とても馴じめず淋しくなる


(芦屋市・田中節夫)
〇  暑さよりあのひもじさに耐へしこと

 本句の作者の御氏名は田中節夫さん。
 真に失礼なことを申し上げますが、「田中節夫」さんとは、本句の内容に相応しい御氏名かと存じ上げます。
 〔返〕  暑さよりあのひもじさに耐えたるは田中節夫に相応しき事 


(泉大津市・多田羅初美)
〇  夏痩を案じてくるる子なりけり

 「子なりけり」と詠嘆気味に述べているのは、「夏痩を案じてくるる子」が今は亡き子である所為なのかも知れません!
 〔返〕  メタボなど何にしやうぞ夏を喰ふ  


(北杜市・亀村慶子)
〇  台風に備へる心待つ心

 それと同時に「吹き荒れている間を耐えている心」も忘れてはいけません。
 〔返〕  台風の我が故郷に寄らぬらし寄ればいいのに憂ひは無きに

今週の朝日俳壇から(9月1日掲載・其のⅡ・水曜朝刊)

2014年09月03日 | 今週の朝日俳壇から
[大串章選]

(神奈川県大井町・新井たか志)
〇  刈干しや卑弥呼のやうな女ゐて

 阿蘇や久住高原などの九州地方での旅行詠でありましょうか?
 「卑弥呼のやうな女」が「ゐて」、「あそこの茅を真っ先に枯るべし!」、「あの山には蝮が出るから、十分に注意して刈るべし!」、「あのミヤマキリシマを刈って仕舞わないように十分に注意して刈るべし!」などと、男性の草刈り人足どもに、いちいち指図していたのでありましょうか?
 〔返〕  刈干の峰に響くや「馬草負えヨ」と
      刈干の山に響くや「日が長いヨ」と
      刈干の胸に響くや「わしゃひもじヨ」と
 

(枚方市・山岡冬岳)
〇  山寺に芭蕉の蝉と出会ひけり

 件の「芭蕉の蝉」に就いては、芭蕉研究史的にも有名な、歌人・斎藤茂吉と文芸評論家・小宮豊隆との「山寺の蝉論争」があるが、その概略は次のようなものである。

 即ち、「1926年、歌人の斎藤茂吉は、『閑さや岩にしみ入る蝉の声』という、松尾芭蕉の句に出て来る蝉に就いてアブラゼミであると断定し、雑誌『改造』の9月号に掲載された『童馬山房漫筆』で発表した。これを契機に、俄然この句に出て来る蝉の種類についての文学論争が起こったのであるが、1927年、岩波書店社主の岩波茂雄は、この件について議論すべく、神田にある小料理屋『末花』にて一席を設け、齋藤茂吉をはじめ安倍能成、小宮豊隆、中勘助、河野与一、茅野蕭々、野上豊一郎といった文人を集めていろいろと考究させた。アブラゼミ説と主張して止まない斎藤茂吉に対して、小宮豊隆は、『閑さ、岩にしみ入るという語はアブラゼミに合わないこと』、『この句を芭蕉が詠んだ元禄2年5月末は太陽暦に直すと7月上旬となり、アブラゼミはまだ鳴いていないこと』を理由にして、茂吉の主張する『アブラ説』は間違いであり、この句の蝉はニイニイゼミであると主張して大きく対立した。その詳細は1929年の『河北新報』に寄稿されたが、科学的問題も孕んでいたため決着がつかず、結論は持越しとなったが、その後、茂吉は実地調査などの結果をもとにして、1932年6月、自らの誤りを認め、芭蕉が詠んだ句に登場する蝉はニイニイゼミであったと結論付けた」とのこと。

 ところで、大阪府枚方市にお住いの山岡冬岳さんは、「山寺に芭蕉の蝉と出会ひけり」と詠んでいるのであるが、山岡冬岳さんが謂うところの「芭蕉の蝉」とは、ニイニイ蝉でありましょうか?それとも、アブラ蝉でありましょうか? 時期が時期だけに「山寺」にはニイニイ蝉のみならず、アブラ蝉も居ることが予測されますので、その点に就いては、作者の山岡冬岳さんに聞いてみなければ判りません。
 〔返〕  山寺の玉蒟蒻は旨かった


(宝塚市・横山嘉子)
〇  水中に風あるごとき金魚かな

 水槽の中で泳いでいる「金魚」の尾や鰭が、「水中に風ある」ヒラヒラと揺れているのでありましょう。
 〔返〕  水泡眼めだま揺らして泳ぎをり


(大垣市・伊藤英司)
〇  百選の水の都の盆踊り

 掲句中の「百選」とは、昭和60(1985)年3月に、環境庁(現在の環境省)が選定した、日本各地の「名水」とされる100ヶ所の「湧水、河川(用水)、地下水」、即ち「名水百選」を指して言うものであり、その基準となっているのは、「日本各地の『名水』と称するものの中で『保全状況が良好』で『地域住民等による保全活動がある』ということであり、『そのまま飲める美味しい水』という意味ではなく、飲用には煮沸が必要とされているものもある」との事である。
 
 以下に列挙するのは、「名水百選」に選定されている「名水」(名称・種類・所在地)の一覧である。
1~羊蹄のふきだし湧水(湧水・北海道虻田郡京極町)
2~甘露泉水(湧水・北海道利尻郡利尻富士町)
3~ナイベツ川湧水(湧水・北海道千歳市蘭越)
4~富田の清水(湧水・青森県弘前市紙漉町)
5~渾神の清水(湧水・青森県平川市唐竹)
6~金沢清水(湧水・岩手県八幡平市松尾寄木)
7~龍泉洞地底湖の水(湧水・岩手県下閉伊郡岩泉町)
8~桂葉清水(湧水・宮城県栗原市高清水桂葉)
9~広瀬川(河川・宮城県仙台市)
10~六郷湧水群(湧水・秋田県仙北郡美郷町)
11~力水(湧水・秋田県湯沢市古館山)
12~月山山麓湧水群(湧水・山形県西村山郡西川町)
13~小見川(湧水・山形県東根市羽入)
14~磐梯西山麓湧水群(湧水・福島県耶麻郡磐梯町)
15~小野川湧水(湧水・福島県耶麻郡北塩原村)
16~八溝川湧水群(湧水・茨城県久慈郡大子町)
17~出流原弁天池湧水(湧水・栃木県佐野市出流原町)
18~尚仁沢湧水(湧水・栃木県塩谷郡塩谷町上寺島)
19~雄川堰(用水・群馬県甘楽郡甘楽町)
20~箱島湧水(湧水・群馬県吾妻郡東吾妻町箱島)
21~風布川・日本水(湧水・埼玉県大里郡寄居町)
22~熊野の清水(湧水・千葉県長生郡長南町佐坪滝ノ上)
23~お鷹の道・真姿の池湧水群(湧水・東京都国分寺市西元町)
24~御岳渓谷(河川・東京都青梅市)
25~秦野盆地湧水群(湧水・神奈川県秦野市)
26~洒水の滝・滝沢川(河川・神奈川県足柄上郡山北町)
27~竜ヶ窪の水(湧水・新潟県中魚沼郡津南町)
28~杜々森湧水(湧水・新潟県長岡市西中野俣)
29~黒部川扇状地湧水群(湧水・富山県黒部市・下新川郡入善町)
30~穴の谷の霊水(湧水・富山県中新川郡上市町)
31~立山玉殿の湧水(湧水・富山県中新川郡立山町)
32~瓜裂の清水(湧水・富山県砺波市)
33~弘法池の水(湧水・石川県白山市釜清水町)
34~古和秀水(湧水・石川県輪島市門前町鬼屋)
35~御手洗池(湧水・石川県七尾市)
36~瓜割の滝(湧水・福井県三方上中郡若狭町)
37~御清水(湧水・福井県大野市泉町)
38~鵜の瀬(河川・福井県小浜市神宮寺)
39~忍野八海(湧水・山梨県南都留郡忍野村)
40~八ヶ岳南麓高原湧水群(湧水・山梨県北杜市)
41~白州/尾白川(河川・山梨県北杜市)
42~猿庫の泉(湧水・長野県飯田市羽場)
43~安曇野わさび田湧水群(湧水・長野県安曇野市)
44~姫川源流湧水(湧水・長野県北安曇郡白馬村
45~宗祇水/白雲水(湧水・岐阜県郡上市)
46~長良川<の中流域>(河川・岐阜県美濃市、関市、岐阜市)
47~養老の滝.菊水泉(湧水・岐阜県養老郡養老町)
48~柿田川湧水群(湧水・静岡県駿東郡清水町)
49~木曽川<の中流域>(河川・愛知県犬山市~可児川合流点)
50~智積養水(用水・三重県四日市市)
51~恵利原の水穴<天の岩戸>(湧水・三重県志摩市磯部町)
52~十王村の水(湧水滋賀県彦根市西今町)
53~泉神社湧水(湧水・滋賀県米原市大清水)
54~伏見の御香水(地下水・京都府京都市伏見区)
55~磯清水(地下水・京都府宮津市文珠)
56~離宮の水(地下水・大阪府三島郡島本町)
57~宮水(地下水・兵庫県西宮市)
58~布引渓流(河川・兵庫県神戸市中央区
59~千種川(河川・兵庫県宍粟市、佐用町、上郡町、赤穂市)
60~洞川湧水群(湧水・奈良県吉野郡天川村)
61~野中の清水(湧水・和歌山県田辺市)
62~紀三井寺の三井水(湧水・和歌山県和歌山市)
63~天の真名井(湧水・鳥取県米子市)
64~天川の水(湧水・島根県隠岐郡海士町)
65~壇鏡の滝湧水(湧水・島根県隠岐郡隠岐の島町)
66~塩釜の冷泉(湧水・岡山県真庭市)
67~雄町の冷泉(湧水・岡山県岡山市中区)
68~岩井(湧水・岡山県苫田郡鏡野町)
69~太田川<の中流域>(河川・広島県広島市
70~今出川清水<出合清水>(湧水・広島県安芸郡府中町)
71~別府弁天池湧水(湧水・山口県美祢市秋芳町)
72~桜井戸(湧水・山口県岩国市)
73~寂地川(河川・山口県岩国市)
74~江川の湧水(湧水・徳島県吉野川市)
75~剣山御神水(湧水・徳島県三好市)
76~湯船の水(湧水・香川県小豆郡小豆島町)
77~うちぬき(自噴水・愛媛県西条市)
78~杖の淵(湧水・愛媛県松山市)
79~観音水(湧水・愛媛県西予市)
80~四万十川(河川・高知県西部)
81~安徳水(湧水・高知県高岡郡越知町)
82~清水湧水(湧水・福岡県うきは市)
83~不老水(地下水・福岡県福岡市)
84~竜門の清水(河川・佐賀県西松浦郡有田町)
85~清水川(河川・佐賀県小城市)
86~島原湧水群(湧水・長崎県島原市)
87~轟渓流(河川・長崎県諫早市)
88~轟水源(湧水・熊本県宇土市)
89~白川水源(湧水・熊本県阿蘇郡南阿蘇村)
90~菊池水源(河川・熊本県菊池市)
91~池山水源(湧水・熊本県阿蘇郡産山村)
92~男池湧水群(湧水・大分県由布市)
93~竹田湧水群(湧水・大分県竹田市)
94~白山川(河川・大分県豊後大野市)
95~出の山湧水(湧水・宮崎県小林市)
96~綾川湧水群(河川・宮崎県東諸県郡綾町)
97~屋久島宮之浦岳流水(河川・鹿児島県熊毛郡屋久島町)
98~霧島山麓丸池湧水(湧水・鹿児島県姶良郡湧水町)
99~清水の湧水(湧水・鹿児島県南九州市)
100~垣花樋川(湧水・沖縄県南城市)

 こうして、改めて一覧表を作ってみると感じられるのであるが、一口に「日本名水百選」と言ってもその内容は様々であり、例えば、「№94」の「白山川(はくさんがわ)」は、大分県南部の豊後大野市を流れる大野川水系の河川である中津無礼川と奥畑川の総称であり、指定区域内には、日本最大の水中鍾乳洞として知られる「稲積水中鍾乳洞」が在り、源氏ボタルの生息地として知られている、その流域全体が「名水百選」として指定されているのに対して、「№11」の「力水」は、通称「学校山」と呼ばれていた名も無い低山の麓の岩の隙間から湧き出て来る冷たい水が地元の人々の喉を潤していた程度の事であったが、「日本名水百選」の選定に当たって、「我が故郷の、みちのくの小京都・湯沢にも観光客を呼べるような名所地が欲しい」との地元民の熱い要望と地元選出の国会議員の誘致策とが功を奏して、目出度く「日本名水百選」の一つとして名を連ねる結果とは相成った、といった程度の代物でしか無いのであり、同じ湯沢市内には、「力水」と同様に、過去数百年間に亘って地元民や通りすがりの喉を潤して来た湧水が数十ケ所も在るのである。
 本句を鑑賞するに当たって注意するべき点は、上掲の一覧表に示された通り、「名水百選」に選定されているのは、岐阜県郡上市に在る「宗祇水(白雲水とも云う)」であって、郡上市全体が「名水百選」の対象となっている訳ではない、という事である。
 「名水百選」とは別に、我が国には、国土交通省所管の「『水の郷』審査委員会」なる団体に拠って選定された「水の郷百選」なる、広域に亘る名水の地が在り、岐阜県郡上市の旧八幡町地区は「人と自然が調和した交流文化のまち」として「水の郷百選」に選定されているのである。 郡上八幡の盆踊りに就いては、今更説明を要さないと思われます。
 〔返〕  我が国の水の都は大阪だ郷土自慢も大概にしろ
 郡上八幡市の旧八幡町地域は、我が国に数在る「小京都」の一つに数えられ、毎年、大勢の観光客が押し寄せているのであるが、だからと言って、それを「百選の水の都」とまで言ってしまったら、それこそ「贔屓の引き倒し」になってしまいましょう。


(金沢市・今村征一)
〇  磨きたる窓より秋の立ちにけり

 本句に於いては、暑さを堪えて立秋まで漕ぎ着けた事に因る感激を込めて「秋の立ちにけり」という言い方をしているが、季題は立秋である。
 「磨きたる窓より秋の立ちにけり」という表現は、立秋の頃になると朝晩涼しくなり、硝子戸を通して感得する空気の気配が急に澄んで来るような気がするので、具体性を伴った感覚的な表現ではある、と言えましょうか。
 〔返〕  磨かれた硝子扉の向こう側 秋の粒子たちがダンスをしている


(福津市・松崎佐)
〇  立秋やいのち惜しみて寝そびれし

 「つい昨日まではあんなに暑かったのに、今日の夕べの涼しさは、まるで別世界を旅行しているみたいだ!こんなに涼しくては寝るのが惜しいよ!」などと、夫婦二人で言い合って「寝そびれ」てまったのでありましょうか?
 〔返〕  松崎の松に花咲く立夏かな


(伊丹市・保理江順子)
〇  朝顔の今朝咲く花の高さかな

 夏の深まりと共に、「朝顔」の花の咲く位置が根元から枝先へと徐々に徐々に高くなるのであり、秋近くになったある朝、目覚めてみたら、朝顔の花が手を伸ばしても届かないくらいの高さに咲いていた、という経験は、誰でも一度や二度ぐらいはした事でありましよう。
 〔返〕  朝顔や保理江順子はまだ醒めず 


(草加市・本間まりも)
〇  空蝉の精緻に型の残りけり

 本句で謂う「空蝉」とは蝉の抜け殻であるが、蝉の抜け殻というものは、その空洞の中で蝉という儚い命の生き物が生きていた事を証拠立てるような精緻な形をしているのである。
 私の連れ合いのS子は、先日、我が家の狭庭の葡萄の葉っぱにカマキリの抜け殻がしがみついているのを三度も目にしたそうだ。
 「カマキリの身体は脱皮する度毎に次第に成長して行くので、私が目にしたカマキリの抜け殻は、次第にその身の丈に合わせたように大きくなり、三個三様の大きさと精緻な形をしていた」とS子は云うのである。  
 〔返〕  空蝉は空蝉なれど形あり


(川越市・大野宥之介)
〇  卵抱き続ける鳩や終戦日

 今日が「終戦日」であろうが「敗戦日」であろうが構わずに、大野宥之介さんちの軒端に巣を掛けた「鳩」は「卵」を「抱き続け」ているのであり、家主の大野宥之介さんとしては、そうした有り様を目にしていると一抹の哀れさを感じざるを得ないのである。
 かくして、埼玉県川越市にお住いの大野宥之介さんは、毎年、「終戦日」に出会う度ごとに、生きとし生きる者の哀れさを胸に噛み締めているのである。
 〔返〕  我思う故に我在り終戦日


(横浜市・神尾幸子)
〇  敗戦日無残に青き空なりし

 あの「敗戦日」の空を、本句の作者の神尾幸子さんは「無残に青き空なりし」として記憶していると言う。
 あの日の空の青さは、私の場合は、単に「あの日は天気が良かったから空が青かったのだ」といったぐらいにしか思っていないのであるが、神尾幸子さんは、私よりは年上であった所為なのでありましょうか、「敗戦日無残に青き空なりし」と、敗北感に打ちひしがれたようにして記憶しているのである。
 〔返〕  敗戦日そこ除けそこ退け稲田が稔る
 彼の自民党切っての右派議員として名を馳せた稲田朋美女史が、この度の内閣改造人事に伴って、内閣府特命担当大臣から自由民主党の政務調査会長の椅子に横滑りするとか。 

今週の朝日俳壇から(7月21日掲載・其のⅠ・火曜朝刊)

2014年09月02日 | 今週の朝日俳壇から
[長谷川櫂選]

(いわき市・坂本玄々)
〇  白桃やうら若き地球を愛す

 本句の鑑賞並びに読解に際しては、作者の坂本玄々さんが福島県のいわき市の住民である事を認識がある。
 福島県と言えば、「桃、梨、林檎、プラム、さくらんぼ、柿」といった様々の果物の生産地であるが、その福島県産の果物は、昨年辺りまでは原発事故の風評被害とやらで、首都圏の市場に出回る事が非常に少なかっただったのである。
 然るに今年の夏は、それが堂々と「福島産」と銘打ち、しかも他県産の品よりむしろ高値で販売されるようになったのであり、此の事は無類の果物好きの私としては大きな喜びであるから、それを具体的な形に表すべく、我が家では昨日の午前中、近所のスーパーから福島産の梨「幸水」七顆を大枚一千八十円を叩いて購入させていただいた次第でありました(笑)。
 ところで、作者の坂本玄々さんが本句の創作を発意し、長谷川櫂選の首席という栄誉に輝くような名句に仕立て上げた次第に就いて思ってみると、その発端は、作者が目前にしていた福島産の桃「川中島白桃」一顆及び、その産毛立った肌触りであったと思われる
 それを発端として、軈て作者の想いは、その「川中島白桃」と同じように若くて丸くて愛すべき、私たちの地球へと広がるのである。
 本句の読者の方々の中には、作者の坂本玄々さんが「(白桃や)うら若き地球を愛す」と、「関白宣言」ならぬ「地球」への一方ならぬ「サポーター宣言」をなさった事に対して疑念を持たれる方も居られましょう。
 しかしながら、私たちの「地球」をその構成員の一つとする「宇宙」の年齢が「百三十七億年」である事を考慮すると、私たちの地球の年齢は、たかだかその半分以下の四十六億年に過ぎなく、果物に例えるならば福島名産の「川中島白桃」、しかもその艶々とした肌には、まるで処女の如くにも産毛が生えた程度のものでしかありません。
 更に熟慮してみると、私たち読者は、本句の作者がお住いの福島県が、東京電力福島原発の人災事故に因る被災地である事にお気づきになられ、本句は、その福島から、私たち読者に向けて発せられた「若き地球」への強力な「サポーター宣言」であり、原発再稼働を企ている自公連立政権に対する「離別宣言」である事にお気づきになられるはずである。
 昨今の「朝日俳壇」や「朝日歌壇」には、朝日新聞社が我が国の「原発再稼働反対キャンペン」の旗頭になっている事を読み取り、狡賢くもそれに迎合するが如くして、「原発再稼働反対」の意志をテーマにした作品が、恰も中国大陸から日本海沿岸各県の海岸に押し寄せるゴミの如くに投稿されているのであるが、本句の如く、表面の穏やかさ静けさとは別に、その底に「原発再稼働」への激しい怒りを秘めた作品こそは、これからの「朝日俳壇」や「朝日歌壇」にとって、最も期待される投稿作品と思われるのである。
 〔返〕  立秋や産毛生えたる妻の貌


(印西市・麦丘馬)
〇  国道に戦車のごとく八月あり

 猛暑続きの今年の「八月」こそは、まさしく「国道に戦車のごとく」といった感じでありました。
 折も折、この暑さ盛り八月には、イスラエルとパレスチナ、お隣りの某経済大国とフィリピン、ロシアとウクライナとの対立関係がただならぬ気配を見せて、路上に「戦車」が繰り出され、ミサイルが発射されるという狂態を演じていたのである。
 我が国もその狂態の脇役を演じたく無かったら、来たるべき沖縄県知事選に於いては、その意思をはっきり表しましょう。
 〔返〕  広島に汚泥やま為す白露かな


(北九州市・伊藤信昭)
〇  軍歌とふ悲しき歌や敗戦忌

 それを言うならば、斯くも言えましょうか?
 〔返〕  演歌とふ今は昔の流行り歌


(アメリカ・城田朋子)
〇  枇杷ふたつ言ひにくきこと言はぬまま

 「言ひにくきこと」を、敢えて言わせていただきますと、「枇杷」という果物は、美味しくも可笑しくもありません。
 あの「美味しくも可笑しくも無い枇杷」同士が、互いにものも言わずに対立している有り様こそは、まさしく、我が国の伝統芸能・歌舞伎芝居で謂うところの「だんまり(暗闘)」の図柄でありましょう。
 〔返〕  枇杷二つ暗闘決め込む月見月


(千葉市・相馬詩美子)
〇  遙かなるものに昨日と雲の峰

 「『昨日』という時間が、どんなに手を伸ばしても届かない遙かな存在である事は、夏空に湧く『雲の峰』という空間と同様である」といった意味でありましょうか?
 〔返〕  縁日やアセチレンランプの燈と金魚


(日光市・牛尾桂)
〇  帰省子や東京人の貌をして

 恥ずかしながら、私・鳥羽省三は、東京・横浜・川崎と首都圏暮らしが五十年余りになりますが、周囲の女性から「鳥羽さんは『東京人の貌をして』いるから近づき難いわ!」などと言われた事は、未だに一度としてありません。
 〔返〕  盂蘭盆にフランス人の妻連れて帰省せむとの夢も有りしに


(塩尻市・古厩林生)
〇  夏休み喧嘩のルール覚えたり

 四十日もの「夏休み」を「喧嘩のルール」を「覚え」ただけで過ごしてしまったら、あまりにも嘆かわしい事ではありませんか!
 「私などは、学生時代の夏休み中の全てをアルバイトに費やしながらも、源氏物語・五十四巻の全てを読破したもんだよ!」などと言ってみたいもんですが、残念ながら、それは真っ黒い噓です。
 それにしても、「喧嘩」に「ルール」が在ったとは寡聞にして初耳でありました。
 例えば、その「ルール」とは、相手を三回叩いたらとしたら、少なくとも二回は相手側に逆襲する機会を与えるように仕組む、というような「ルール」でありましょうか?
 冗談はそれくらいにして、本句に認められる作者・古厩林生さんの心理状態を分析してみると、彼・古厩林生さんは、明らかに夏休み期間中に「鬱状態」に置かれていたのであり、彼が長野県塩尻市の居住者では無くて、例えば最珠県薇市界隈の居住者であったとしたならば、この夏休み期間中に危険ドラッグの常用者になっていたかも知れません。
 〔返〕  喧嘩とは相手を屈服させれば宜し買収するのが上々の策 


(尼崎市・ほりもとちか)
〇  戦争を知らぬ子ばかり夏休

 スマホゲームでのバーチャル戦争ならば、尼崎市にお住いのほりもとちかさんなどよりは、よっぽど詳しく知ってるはずです。
 そう言えば、往年の名画『パッチギ!』の舞台になったのは、兵庫県の尼崎市では無かったっけ?
 もしもそうであるならば、本句の作者のほりもとちかは、本物の戦争の実態はともかくとしても、「喧嘩のルール」ぐらいは知ってるはずである。
 〔返〕  戦争はルール無用の殺し合い

<追伸>  映画『パッチギ!』の舞台になった土地を、私はうろ覚えの儘に「兵庫県の尼崎市では無かったっけ?」などと記してしまいましたが、件の鑑賞文を公開した直後に、「通りすがり」と称する方から、「『パッチギ!』の舞台になったのは京都だぞ!それくらいの事も知らない馬鹿が俳句の鑑賞文を書くとは、呆れちゃうよ!」とのコメントが入りましたので、此処に訂正させていただくと共に、関係者の方々には篤く侘び申し上げます。
 尚、私の初歩的な誤りをご指摘下さった方には、本来ならば、福島県産の梨「幸水」を一箱を引っ提げて参上し御礼申し上げるべきでありましょうが、何分「通りすがり」の方でありますので、それが叶いませんので、真に失礼ではありますが、本ブログ上の<追伸>で以って、それに代えさせていただきます。


(さいたま市・川辺了)
〇  茄子馬の一肢蹴上げて納まらず

 下五を「納まらず」とした事に因って、この句は、音韻的には真に納まりの良い一句になったのではあるが、肝心要の「納まらず」の意味が、今ひとつ不明瞭である。
 或いは、「盆棚に上げる『茄子馬』を如何にも生きている馬らしく見せる為に、四本の『肢』の中の一本(恐らくは、右の後ろ肢)を蹴り上げているように作ったのであるが、その結果として、盆棚の中に納まらなくなってしまった」という意でありましょうか?
 〔返〕  茄子馬の尻に群がる蟻五匹


(みよし市・稲垣長)
〇  六尺の仏や切子高吊りに

 作中の「切子」とは、盂蘭盆の折に「六尺の仏」の前に掲げられた「切り子灯籠」の意と思われるのであるが、その点に就いては、識者の方々のご教授を乞う。
 〔返〕  丈六の仏の前に額をつき祈り申すほどに上京叶ふ

 平安後期の紀行文『更級日記』の冒頭に「東路の道の果てよりもなほ奥つ方に生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひ始めけることにか、世の中に物語といふもののあなるを、いかで見ばやと思ひつつ、つれづれなる昼間、よひゐなどに、姉、継母などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとど ゆかしさまされど、わが思ふままにそらにいかでかおぼえ語らむ。いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏を作りて、手洗ひなどして、ひとまにみそかに入りつつ、『京にとく上げたまひて、物語の多く候ふなる、ある限り見せたまへ』と、身を捨てて額をつき、折りまうすほどに、十三になる年、上らむとて、九月三日門出して、いまたちといふ所に移る」とある。
 識者の方々の補注に拠ると、件の「薬師仏」の身の丈は通常「丈六」、即ち「六尺」であるとか。

今週の朝日歌壇から(9月1日掲載・其のⅣ・)

2014年09月01日 | 今週の朝日歌壇から
[馬場あき子選]

(北九州市・嶋津裕子)
〇  雨の夕塀をのぼりし幼虫は真夜をましろき蝉になりたり

(鎌倉市・小島陽子)
〇  地下道のギャラリー並ぶ小学生の絵からこぼれるさんざめく色

(大阪市・安良田梨湖)
〇  黙禱を捧げて水を飲むこれは何万人が飲めなかった水

(香川県・出村匡)
〇  長寿国仏間に掛る若者は陸と海との軍服姿

(蓮田市・亀岡愛一郎)
〇  肺がんの疑ひ晴れてのち曇りひびがあるらし肋をさする

(アメリカ・郷隼人)
〇  これだけの人種と宗教が同居すれば齟齬が生ずる囚人間に

(八王子市・倉石玲子)
〇  朝顔の花の中を住処としカエルも夏を乗り切らんとす

(伊那市・小林勝幸)
〇  菩提樹もへくそかづらも実を結び秋立つものか山風匂ふ
 そよりともせいで秋立つものかいな
(横浜市・高橋理沙子)
〇  ボランティア保育園児と水遊び園児のパワーに圧倒されそう

(横浜市・敷田千尋)
〇  始まった一人で行く旅長い旅新幹線で福岡まで行く

今週の朝日歌壇から(9月1日掲載・其のⅢ・)

2014年09月01日 | 今週の朝日歌壇から
[永田和宏選]

(近江八幡市・寺下吉則)
〇  縦じわと横じわ深く交差させヒロシマに座すケネディ大使

(浜松市・桑原元義)
〇  「見解の相違ですね」と打ち切った民への宣戦布告のやうに

(大阪市・安良田梨湖)
〇  黙禱を捧げて水を飲むこれは何万人が飲めなかった水

(四日市市・水野とよ子)
〇  英霊の名のもと父の眠る海豪華客船十四ノット

(和泉市・星田美紀)
〇  夏の夕会いたくなるのは君ではなく君をあそこで待っていた我

 〔返〕  夜も昼も構わず会いたくなるのは君ではなくて君のお財布 
(熱海市・山口智恵子)
〇  名付けると家族になってしまうから居着いてひとつき〝我が家のカエル〟

(東京都・山木海絵子)
〇  鵜には鵜の魚には魚の蜻蛉には蜻蛉の時間不忍池

(札幌市・大友啓子)
〇  ハイハイができて世界の拡がり来お供のくまを引きずりながら

(東村山市・さいとうすみこ)
〇  胡瓜にはマヨネーズより味噌だなと語ってやがる中三男子

(東京都・西秋聞)
〇  桜島挟んで南を仰ぎ見る二頭の仔鹿鹿児島県は

今週の朝日歌壇から(9月1日掲載・其のⅡ・)

2014年09月01日 | 今週の朝日歌壇から
[高野公彦選]

(川崎市・赤松郁夫)
〇  キスリング背負ひ縦走せし夏の等高線の密なりしかな

(草津市・山添聖子)
〇  八月に背中を押されてペディキュアを私のために塗る珊瑚色

(柏市・秋葉徳雄)
〇  サッカーのゴールネットの真うしろに青き巨鯨のごとき除染土

(西宮市・平野貴子)
〇  子の頃を知っているよという顔でアサガオの花われに咲きおり

(アメリカ・郷隼人)
〇  蟷螂が夜の独房に忍び込み功夫(カンフー)名手の如く威嚇す

(横須賀市・五十嵐たかし)
〇  朝食の蜆を洗ふ音のして七十二歳妻誕生日

(八戸市・安倍淑子)
〇  涼やかにお盆の前に虫の声東北の夏は来てすぐに行く

(宗像市・巻桔梗)
〇  <3K>をいとはざりけむ肩に鍬のせて破顔の埴輪は立てり

(富山市・松田わこ)
〇  控えめなセミの声たまにししおどし耳がダンボになる詩仙堂

(横浜市・高橋理沙子)
〇  夏休みお昼は冷や汁作ります一椀にギュッと栄養つめて