[金子兜太選]
(松江市・三方元)
〇 サーフィンやこの東に真珠湾
昨今の日本人は、「円安弗高」をものともせずに海外に水遊びに出掛けようとする、とか?
松江市にお住いの三方元さんは、もう立派な大人ですから、地元・宍道湖での水遊びに満足せずに、今年の夏は、海外、しかも熱海沖の初島や佐渡島や沖永良部島などの我が国内の島ではなく、畏れ多くもアメリカ領の太平洋中央海山群の中に浮かぶ孤島・ウェータ島まで「サーフィン」とやらを楽しむ為にお出掛けになられたのでありましょう。
アメリカ領・ウェータ島と言えば、北緯二十度線から僅かに赤道側に外れた島であり、それを何処までも東側に泳いで行けば、溺れない限りに於いては、間も無く「真珠湾」の在るハワイ諸島に辿り着くはずである。
そこで、三方元さんはサーフィンを楽しみながらも、「この海を東の方向に何処までもサーフィンボードに乗っかって進んで行ったとしたら、あの日米開戦の初っ端となった真珠湾に辿り着くはずである。それなのにも関わらず、僕はこの島でサーフィンなどに現を抜かしている始末である。自公連立政権の横暴に拠って、解釈改憲が為されたそうだから、これからは、地元の日本海でサーフィンを楽しまなければならないな!」などとお思いになったのでありましょう。
でも、日本海にも近頃は得体の知れない船舶が出没しているという噂があり、日本海岸には注射針などが漂流して来るという噂もありますから、サーフィンを楽しむ事は不可能なのかも知れません。
〔返〕 サーフィンもおちおち出来ぬ日本海
小魚も根こそぎ攫ふ某国船
(さぬき市・野崎憲子)
〇 身の内の荒野青条揚羽かな
私の連れ合いのS子が話すところに拠ると、「女性というものは、誰しも、身の内に必ず鬼を匿っている存在である」とか?
本句の作者、即ち、香川県さぬき市にお住いの野崎憲子さんの場合は、「身の内」に茫漠たる「荒野」が広がっているのであり、句中に登場する「青条揚羽」は、野崎憲子さんの身の内の荒野から突如として湧き出でたものと判断されるのである。
本句は、家庭内のいざこざに拠って生じたフラストレーションから解放されようとする、作者ご自身の言うに言われぬ衝動が詠ましめた名句でありましょうか?
〔返〕 身の内の不満みーんみーん蝉時雨
(熊谷市・時田幻椏)
〇 泡盛は俳句の季語なり一壺あり
「泡盛」と言えば、「主としてインディカ米を原料として黒麹菌を用いた米麹である黒麹によって発酵させ、もろみを蒸留した琉球諸島産の蒸留酒であり」、日本酒やビールに厭きた我が国の酒好きの輩どもの垂涎の的となっているアルコール飲料である。
かく申す、私・鳥羽省三も酒好きの輩どもの中の一人であるが、先年、石垣島旅行から帰った知人から、同地方で幻の酒とされている泡盛「八重泉・黒真珠」の4合瓶を頂戴したのであったが、その頃の私は、通い付けの医師からドクターストップを食らっていたので、せっかくの賜物を口にしないままに何処かに棄ててしまったように記憶しているのである。
本句の作者・即ち、我が国随一の猛暑の地として知られた、埼玉県熊谷市にお住いの時田幻椏さんは、日本各地に親友をお持ちの方と推察されますから、沖縄地方にも俳句友達をお持ちになられ、四季折々の名産品などをご贈答なさって居られる事と拝察される。
ならば、本句中の「一壺」の「泡盛」とは、そうした折に沖縄地方の俳句友達からクロネコヤマトのクール宅急便で送られて来た品物と思われるのであるが、その銘柄に就いては、私は一切存じ上げません。
本句の上五と中七に「泡盛は俳句の季語なり」とあるが、時田幻椏さんの仰る通り、「泡盛」は焼酎や冷酒やビールやサイダーなどの他の飲料と共に「俳句の季語」の一つとして数えられていて、これを季語として用いた俳句は、石塚友二作の「泡盛や汚れて老ゆる人の中」、後藤比奈夫作の「泡盛にちゆらさんといふ言葉よき」、岸はじめ作の「届きたる甕の泡盛先ず試飲」等など、数えきれない程に詠まれているのであるが、この度、私が朝日俳壇の入選句として接する機会を得た、時田幻椏さんの御作、「泡盛は俳句の季語なり一壺あり」は、その滋味溢れる内容もさる事ながら、「泡盛は⇒俳句の季語なり⇒一壺あり」という、一気呵成に詠み上げた格調高い詠風は、二十一世紀の「俳句歳時記」に登録され、我が日本人の残した精神遺産の一つとして永く記憶されるべき名句である。
〔返〕 泡盛を飲みたけれども命惜しせめて飲もうか三ツ矢サイダー
泡盛を飲みたけれども命惜しせめて飲もうか養命酒など
(茅ヶ崎市・清水呑舟)
〇 とめどなき佐渡の流星世阿弥の忌
「陰暦八月八日」は、「観世流二世(観阿弥が一世)・世阿弥」の忌日とされていて、俳句では秋の季語である。
「陰暦八月八日」は、現行暦の九月半ばであるから、澄み切った「佐渡」の夜空には「流星」が一晩じゅう流れる季節でありましょうか?
〔返〕 佐渡島燈点し頃のお椀舟
(秩父市・浅賀信太郎)
〇 人間の頭上に原爆落した日
「金子兜太選」ならではの入選作であるが、こんなにストレートなもの言いをしても、俳句と言えるのでありましょうか?
〔返〕 人間の頭上に原爆落すとは神を恐れぬ所業なりけむ
(鹿児島市・青野迦葉)
〇 縄文人の身の丈四尺草の花
「身の丈四尺」と言えば、僅かに120cm余りの身長である。
我が国の先住民に「コロボックル」という小人が居た、との説が為されているのであるが、「縄文人」とは、そのコロボックルの異名なのかも知れません。
事の序でに記しますと、昭和の歌姫・美空ひばりさんの身長が150cmだったとか?
〔返〕 ステージも狭しとばかりに歌い捲る昭和の歌姫・美空ひばりさん
(柳川市・木下万沙羅)
〇 終戦日居住ひ正す父をふと
(茅ヶ崎市・小泉由美子)
〇 昼寝覚兵役に泣く夢に泣く
兵役に就いていた者にとって、軍隊生活の中で身に付いた習慣は、一生涯、死ぬまで付いて回るとの説も在ります。
木下万沙羅さん作に登場する「父」にとっての兵役経験と、小泉由美子さん作に登場する人物の兵役経験の差はかなり大きいようにも感じられますが、実のところは、それ程の差は無いのかも知れません。
〔返〕 昼寝覚め一兵卒の我なりき
(佐賀県有田町・森川清志)
〇 老いたれど太陽族の夏ありき
佐賀県有田町に「太陽族」が居たとはビックリ仰天!
あの怒張したイチモツでも以って、赤絵の花瓶でも割り捲っていたのでありましょうか?
〔返〕 老いぬれどかつては暴走族なるぞキャブトン飛ばして鳴らしたもんだ!
(野洲市・鈴木幸江)
〇 わたくしはひつくり返つた兜虫
もう起き上がることが出来ません。
他人の手、取り分け、お金持ちの殿方の手を借りなければ、私は永久に起き上がることが出来ません。
〔返〕 私はひっくり返ったカブトムシ五体曝して干上がるばかり
(松江市・三方元)
〇 サーフィンやこの東に真珠湾
昨今の日本人は、「円安弗高」をものともせずに海外に水遊びに出掛けようとする、とか?
松江市にお住いの三方元さんは、もう立派な大人ですから、地元・宍道湖での水遊びに満足せずに、今年の夏は、海外、しかも熱海沖の初島や佐渡島や沖永良部島などの我が国内の島ではなく、畏れ多くもアメリカ領の太平洋中央海山群の中に浮かぶ孤島・ウェータ島まで「サーフィン」とやらを楽しむ為にお出掛けになられたのでありましょう。
アメリカ領・ウェータ島と言えば、北緯二十度線から僅かに赤道側に外れた島であり、それを何処までも東側に泳いで行けば、溺れない限りに於いては、間も無く「真珠湾」の在るハワイ諸島に辿り着くはずである。
そこで、三方元さんはサーフィンを楽しみながらも、「この海を東の方向に何処までもサーフィンボードに乗っかって進んで行ったとしたら、あの日米開戦の初っ端となった真珠湾に辿り着くはずである。それなのにも関わらず、僕はこの島でサーフィンなどに現を抜かしている始末である。自公連立政権の横暴に拠って、解釈改憲が為されたそうだから、これからは、地元の日本海でサーフィンを楽しまなければならないな!」などとお思いになったのでありましょう。
でも、日本海にも近頃は得体の知れない船舶が出没しているという噂があり、日本海岸には注射針などが漂流して来るという噂もありますから、サーフィンを楽しむ事は不可能なのかも知れません。
〔返〕 サーフィンもおちおち出来ぬ日本海
小魚も根こそぎ攫ふ某国船
(さぬき市・野崎憲子)
〇 身の内の荒野青条揚羽かな
私の連れ合いのS子が話すところに拠ると、「女性というものは、誰しも、身の内に必ず鬼を匿っている存在である」とか?
本句の作者、即ち、香川県さぬき市にお住いの野崎憲子さんの場合は、「身の内」に茫漠たる「荒野」が広がっているのであり、句中に登場する「青条揚羽」は、野崎憲子さんの身の内の荒野から突如として湧き出でたものと判断されるのである。
本句は、家庭内のいざこざに拠って生じたフラストレーションから解放されようとする、作者ご自身の言うに言われぬ衝動が詠ましめた名句でありましょうか?
〔返〕 身の内の不満みーんみーん蝉時雨
(熊谷市・時田幻椏)
〇 泡盛は俳句の季語なり一壺あり
「泡盛」と言えば、「主としてインディカ米を原料として黒麹菌を用いた米麹である黒麹によって発酵させ、もろみを蒸留した琉球諸島産の蒸留酒であり」、日本酒やビールに厭きた我が国の酒好きの輩どもの垂涎の的となっているアルコール飲料である。
かく申す、私・鳥羽省三も酒好きの輩どもの中の一人であるが、先年、石垣島旅行から帰った知人から、同地方で幻の酒とされている泡盛「八重泉・黒真珠」の4合瓶を頂戴したのであったが、その頃の私は、通い付けの医師からドクターストップを食らっていたので、せっかくの賜物を口にしないままに何処かに棄ててしまったように記憶しているのである。
本句の作者・即ち、我が国随一の猛暑の地として知られた、埼玉県熊谷市にお住いの時田幻椏さんは、日本各地に親友をお持ちの方と推察されますから、沖縄地方にも俳句友達をお持ちになられ、四季折々の名産品などをご贈答なさって居られる事と拝察される。
ならば、本句中の「一壺」の「泡盛」とは、そうした折に沖縄地方の俳句友達からクロネコヤマトのクール宅急便で送られて来た品物と思われるのであるが、その銘柄に就いては、私は一切存じ上げません。
本句の上五と中七に「泡盛は俳句の季語なり」とあるが、時田幻椏さんの仰る通り、「泡盛」は焼酎や冷酒やビールやサイダーなどの他の飲料と共に「俳句の季語」の一つとして数えられていて、これを季語として用いた俳句は、石塚友二作の「泡盛や汚れて老ゆる人の中」、後藤比奈夫作の「泡盛にちゆらさんといふ言葉よき」、岸はじめ作の「届きたる甕の泡盛先ず試飲」等など、数えきれない程に詠まれているのであるが、この度、私が朝日俳壇の入選句として接する機会を得た、時田幻椏さんの御作、「泡盛は俳句の季語なり一壺あり」は、その滋味溢れる内容もさる事ながら、「泡盛は⇒俳句の季語なり⇒一壺あり」という、一気呵成に詠み上げた格調高い詠風は、二十一世紀の「俳句歳時記」に登録され、我が日本人の残した精神遺産の一つとして永く記憶されるべき名句である。
〔返〕 泡盛を飲みたけれども命惜しせめて飲もうか三ツ矢サイダー
泡盛を飲みたけれども命惜しせめて飲もうか養命酒など
(茅ヶ崎市・清水呑舟)
〇 とめどなき佐渡の流星世阿弥の忌
「陰暦八月八日」は、「観世流二世(観阿弥が一世)・世阿弥」の忌日とされていて、俳句では秋の季語である。
「陰暦八月八日」は、現行暦の九月半ばであるから、澄み切った「佐渡」の夜空には「流星」が一晩じゅう流れる季節でありましょうか?
〔返〕 佐渡島燈点し頃のお椀舟
(秩父市・浅賀信太郎)
〇 人間の頭上に原爆落した日
「金子兜太選」ならではの入選作であるが、こんなにストレートなもの言いをしても、俳句と言えるのでありましょうか?
〔返〕 人間の頭上に原爆落すとは神を恐れぬ所業なりけむ
(鹿児島市・青野迦葉)
〇 縄文人の身の丈四尺草の花
「身の丈四尺」と言えば、僅かに120cm余りの身長である。
我が国の先住民に「コロボックル」という小人が居た、との説が為されているのであるが、「縄文人」とは、そのコロボックルの異名なのかも知れません。
事の序でに記しますと、昭和の歌姫・美空ひばりさんの身長が150cmだったとか?
〔返〕 ステージも狭しとばかりに歌い捲る昭和の歌姫・美空ひばりさん
(柳川市・木下万沙羅)
〇 終戦日居住ひ正す父をふと
(茅ヶ崎市・小泉由美子)
〇 昼寝覚兵役に泣く夢に泣く
兵役に就いていた者にとって、軍隊生活の中で身に付いた習慣は、一生涯、死ぬまで付いて回るとの説も在ります。
木下万沙羅さん作に登場する「父」にとっての兵役経験と、小泉由美子さん作に登場する人物の兵役経験の差はかなり大きいようにも感じられますが、実のところは、それ程の差は無いのかも知れません。
〔返〕 昼寝覚め一兵卒の我なりき
(佐賀県有田町・森川清志)
〇 老いたれど太陽族の夏ありき
佐賀県有田町に「太陽族」が居たとはビックリ仰天!
あの怒張したイチモツでも以って、赤絵の花瓶でも割り捲っていたのでありましょうか?
〔返〕 老いぬれどかつては暴走族なるぞキャブトン飛ばして鳴らしたもんだ!
(野洲市・鈴木幸江)
〇 わたくしはひつくり返つた兜虫
もう起き上がることが出来ません。
他人の手、取り分け、お金持ちの殿方の手を借りなければ、私は永久に起き上がることが出来ません。
〔返〕 私はひっくり返ったカブトムシ五体曝して干上がるばかり