[高野公彦選]
○ 籠り居る心を街に連れ出せば何人も会う笑顔の天使 (大月市)都倉富士雄
「籠り居る心を街に連れ出せば」までの表現は作者の手柄であるが、その後の「何人も会う笑顔の天使」という表現はあまりにも能天気な表現である。
そもそも、この世の中というものはそんなにも善意に満ちたものではありませんし、仮に、たまたま作中主体(=作者)が、自らの引き籠もりがちな「心を街に連れ出」した時に、彼と「会う」の人々の「何人」もが「笑顔の天使」であったとしたならば、それは彼の顔にご飯粒でも付いていたのかも知れません。
とは言うものの、いつもいつも自室に引き籠もってばかり居ないで、一週間に一度の土曜日ぐらいは、大月駅前通りかそれと交差する甲州街道沿いの繁華街に繰り出したら如何でありましょう。
先月末に、私・鳥羽省三が足を運んだ時には、ダイエー大月店前の通りを大月短期大学付属高校の女生徒たちが、あの藍色の上着と海老茶色の格子のスカート姿で闊歩していて、それはそれは賑やかで華やかで、私の鬱屈していた心も久しぶりに解放されたことでありました。
[反歌] 曳き出せよ!君の心をあの街へ!海老茶のスカートが君を待つてる!
○ 単身で、夫婦で、女性グループで、高齢者が秋の川辺を歩む (八王子市)青木一秋
「秋の川辺を歩む」程度なれば宜しいが、現実には、暇とお金を持て余した「高齢者」たちが、「単身で、夫婦で、女性グループで」と、わんさかわんさか間も無く雪が降雪期を迎える北アルプスに挑んだりするから、山岳救助隊の方々は益々忙しくなるのでありましょう。
[反歌] 戻り鮎の鱗きらめく川沿ひを老いた二人が手を取り歩む
○ 「戦闘」を「衝突」に変え戦地への派遣目論む為政者の虚言 (高松市)植田正太郎
「為政者の虚言」と朧化して述べ、「自公連立政権の虚言」としないところが、表現者としての植田正太郎さんの〈節度〉というものでありましょうか?
[反歌] 戦闘を衝突などと誤魔化してアメリカ帝国主義に肩入れ
○ 武器輸送・駆けつけ警護と慣らされて改憲の垣根ひくくなりゆく (下関市)乗安 勉
「改憲の垣根」が泣かせる!
そうです。彼らにとっての「改憲」は、当初から「垣根」程度の高さでしかなかったのでありましょう。
[反歌] 農村の失対事業の一環の警察予備隊のとどの詰まりよ
○ 今はただ母のみ一人住む家も表札はまだ八人家族 (交野市)木下祥子
この頃、よく見る風景ですが、それでも「八人家族」とは驚き!
[反歌] 玄関に男の大きな靴置きて寡婦なる姉の防犯対策
○ 秋は湯のぬくもりにまたよみがえる雪崩で逝きし吾子の冷たさ (千葉市)有村妙子
本作中の「吾子」も亦、冬山登山とやらで「雪崩」に遭ったのでありましょうか?
「秋は湯のぬくもりにまたよみがえる」という叙述からすると、本作の作者の有村妙子さんが、「吾子」が「雪崩」で亡くなった山の麓の温泉にでも訪れて思い出に浸っているものと解釈されがちでありますが、事の真実は、案外、ご自宅のINAX社製の瀟洒な浴室の「湯のぬくもり」に浸りながら、今は亡きご子息様の思い出を耽って居られるのかも知れません。
[反歌] 燗酒の温もりにさへ蘇る巣立ちし息子の引き籠もりのさま
○ ざわついた心を鎮める安定剤あの人の声と図書館と土 (水戸市)横須賀美穂子
率直に言わせていただきますと、末尾の「土」の取って付けたような感じには救いようがありません。
[反歌] 浮ついた心を鎮める安定剤鏡に映る醜い面貌
○ もう少し背が高ければボクシングやらなかったよ絵を描いてたよ (神戸市)康 哲虎
本作の作者・康哲虎(リングネーム・千里馬哲虎)さんは、元日本ミドル級チャンピオンの千里馬啓徳氏が会長を務める神戸市のボクシングジム「千里馬神戸ボクシングジム」に、かって所属し、スーパーバンタム級のA級ライセンスを所持していた人気ボクサーであり、〈神戸の虎〉という渾名を奉られた突貫ファイターでありました。
彼のプロボクサーとしての現役時代の戦績は〈29戦21勝5敗3分(11KO)〉という輝かしいものでありましたが、彼がボクサーとして頭角を現したのは三十歳を過ぎてからであり、それ故に彼は幾多のリスクを背負ってリングに立たざるを得なかったのであり、プロボクサーとして我が国のスーパーバンタム級の一位まで上り詰めていた彼が、志半ばで1002年に引退せざるを得なかったのは、プロボクサーにとっての致命傷である網膜剥離を患ったからである、とのことであります。
斯くして、残念無念の引退後の彼は、認知症ケア専門の看護師として働きながら、「NHK短歌」の2015年11月号掲載の一首「婚約のときの約束はたさんとゴキブリを手に封じ込めたり」や、今年の5月23日の朝日歌壇の高野選・永田選の共選の一首「キムチというあだ名で呼ばれし『在日』の友思いだす総菜売場」などの如き、持ち前のユニークな発想に依る短歌を発表して居られるのである。
「もう少し背が高ければ」とは、彼のプロボクサーとしての階級が〈スーパーバンタム級〉であったことから推して理解されるのであるが、彼が絵描き志望であったことは、かく申し、私・鳥羽省三も、今日まで知りませんでした。
[反歌] もう少し顔が良かつたらシンガーソングライターになつていたのだ
○ 雀真似、鵯を真似、草むらの虫の音真似る百舌の一日 (松坂市)こやまはつみ
「百舌」という和名は、この鳥が「様々な鳥(百の鳥)の鳴き声を真似た、複雑な囀りを行うことに由来する」とのこと。
[反歌] 百舌よ百舌!お願ひだから、菅官房長官の真似だけはしないでお呉れ
○ ガラガラと崩れた自信うなだれて答案受け取る中間テスト (芦屋市)室 文子
自信過剰な天才少女の室文子でさえも、この度の「中間テスト」の結果には自信喪失寸前なのかも知れません。
[反歌] ガラガラと廻せば飛び出す白い玉 四等賞は飴玉一個
○ 籠り居る心を街に連れ出せば何人も会う笑顔の天使 (大月市)都倉富士雄
「籠り居る心を街に連れ出せば」までの表現は作者の手柄であるが、その後の「何人も会う笑顔の天使」という表現はあまりにも能天気な表現である。
そもそも、この世の中というものはそんなにも善意に満ちたものではありませんし、仮に、たまたま作中主体(=作者)が、自らの引き籠もりがちな「心を街に連れ出」した時に、彼と「会う」の人々の「何人」もが「笑顔の天使」であったとしたならば、それは彼の顔にご飯粒でも付いていたのかも知れません。
とは言うものの、いつもいつも自室に引き籠もってばかり居ないで、一週間に一度の土曜日ぐらいは、大月駅前通りかそれと交差する甲州街道沿いの繁華街に繰り出したら如何でありましょう。
先月末に、私・鳥羽省三が足を運んだ時には、ダイエー大月店前の通りを大月短期大学付属高校の女生徒たちが、あの藍色の上着と海老茶色の格子のスカート姿で闊歩していて、それはそれは賑やかで華やかで、私の鬱屈していた心も久しぶりに解放されたことでありました。
[反歌] 曳き出せよ!君の心をあの街へ!海老茶のスカートが君を待つてる!
○ 単身で、夫婦で、女性グループで、高齢者が秋の川辺を歩む (八王子市)青木一秋
「秋の川辺を歩む」程度なれば宜しいが、現実には、暇とお金を持て余した「高齢者」たちが、「単身で、夫婦で、女性グループで」と、わんさかわんさか間も無く雪が降雪期を迎える北アルプスに挑んだりするから、山岳救助隊の方々は益々忙しくなるのでありましょう。
[反歌] 戻り鮎の鱗きらめく川沿ひを老いた二人が手を取り歩む
○ 「戦闘」を「衝突」に変え戦地への派遣目論む為政者の虚言 (高松市)植田正太郎
「為政者の虚言」と朧化して述べ、「自公連立政権の虚言」としないところが、表現者としての植田正太郎さんの〈節度〉というものでありましょうか?
[反歌] 戦闘を衝突などと誤魔化してアメリカ帝国主義に肩入れ
○ 武器輸送・駆けつけ警護と慣らされて改憲の垣根ひくくなりゆく (下関市)乗安 勉
「改憲の垣根」が泣かせる!
そうです。彼らにとっての「改憲」は、当初から「垣根」程度の高さでしかなかったのでありましょう。
[反歌] 農村の失対事業の一環の警察予備隊のとどの詰まりよ
○ 今はただ母のみ一人住む家も表札はまだ八人家族 (交野市)木下祥子
この頃、よく見る風景ですが、それでも「八人家族」とは驚き!
[反歌] 玄関に男の大きな靴置きて寡婦なる姉の防犯対策
○ 秋は湯のぬくもりにまたよみがえる雪崩で逝きし吾子の冷たさ (千葉市)有村妙子
本作中の「吾子」も亦、冬山登山とやらで「雪崩」に遭ったのでありましょうか?
「秋は湯のぬくもりにまたよみがえる」という叙述からすると、本作の作者の有村妙子さんが、「吾子」が「雪崩」で亡くなった山の麓の温泉にでも訪れて思い出に浸っているものと解釈されがちでありますが、事の真実は、案外、ご自宅のINAX社製の瀟洒な浴室の「湯のぬくもり」に浸りながら、今は亡きご子息様の思い出を耽って居られるのかも知れません。
[反歌] 燗酒の温もりにさへ蘇る巣立ちし息子の引き籠もりのさま
○ ざわついた心を鎮める安定剤あの人の声と図書館と土 (水戸市)横須賀美穂子
率直に言わせていただきますと、末尾の「土」の取って付けたような感じには救いようがありません。
[反歌] 浮ついた心を鎮める安定剤鏡に映る醜い面貌
○ もう少し背が高ければボクシングやらなかったよ絵を描いてたよ (神戸市)康 哲虎
本作の作者・康哲虎(リングネーム・千里馬哲虎)さんは、元日本ミドル級チャンピオンの千里馬啓徳氏が会長を務める神戸市のボクシングジム「千里馬神戸ボクシングジム」に、かって所属し、スーパーバンタム級のA級ライセンスを所持していた人気ボクサーであり、〈神戸の虎〉という渾名を奉られた突貫ファイターでありました。
彼のプロボクサーとしての現役時代の戦績は〈29戦21勝5敗3分(11KO)〉という輝かしいものでありましたが、彼がボクサーとして頭角を現したのは三十歳を過ぎてからであり、それ故に彼は幾多のリスクを背負ってリングに立たざるを得なかったのであり、プロボクサーとして我が国のスーパーバンタム級の一位まで上り詰めていた彼が、志半ばで1002年に引退せざるを得なかったのは、プロボクサーにとっての致命傷である網膜剥離を患ったからである、とのことであります。
斯くして、残念無念の引退後の彼は、認知症ケア専門の看護師として働きながら、「NHK短歌」の2015年11月号掲載の一首「婚約のときの約束はたさんとゴキブリを手に封じ込めたり」や、今年の5月23日の朝日歌壇の高野選・永田選の共選の一首「キムチというあだ名で呼ばれし『在日』の友思いだす総菜売場」などの如き、持ち前のユニークな発想に依る短歌を発表して居られるのである。
「もう少し背が高ければ」とは、彼のプロボクサーとしての階級が〈スーパーバンタム級〉であったことから推して理解されるのであるが、彼が絵描き志望であったことは、かく申し、私・鳥羽省三も、今日まで知りませんでした。
[反歌] もう少し顔が良かつたらシンガーソングライターになつていたのだ
○ 雀真似、鵯を真似、草むらの虫の音真似る百舌の一日 (松坂市)こやまはつみ
「百舌」という和名は、この鳥が「様々な鳥(百の鳥)の鳴き声を真似た、複雑な囀りを行うことに由来する」とのこと。
[反歌] 百舌よ百舌!お願ひだから、菅官房長官の真似だけはしないでお呉れ
○ ガラガラと崩れた自信うなだれて答案受け取る中間テスト (芦屋市)室 文子
自信過剰な天才少女の室文子でさえも、この度の「中間テスト」の結果には自信喪失寸前なのかも知れません。
[反歌] ガラガラと廻せば飛び出す白い玉 四等賞は飴玉一個