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映画・演劇のレビュー

椰月美智子『つながりの蔵』

2018-06-30 18:30:17 | その他
児童文学に分類されてもかまわないくらいに単純で誰にでもわかりやすい小説だ。「『しずかな日々』の少女版」と帯には書かれていたが、感触はまるで違う。あれは大人に向けての小説だったが、この幼い少女たちの世界はファンタジーのようなお話とも相俟って、児童文学と呼ぶのがふさわしい。まずこれは子供たちのための小説であり、それは大人たちにもちゃんと通用する。 ここには子供たちへの確かなメッセージが込められてある . . . 本文を読む
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『最低。』

2018-06-30 07:11:43 | 映画
昨年の11月の末にひっそりと公開された瀬々敬久監督のこの作品は実はとても重要な作品だったのか、と改めて気づく。先日公開された最新作『友罪』は東宝系公開のメジャー映画なのだけど、こんなにも地味で重くて暗い映画がメジャー作品として公開されていいのか、と心配になるような作家主義の映画だった。商業映画としての妥協は一切感じられない見事な作品だ。スターを使いながら彼らの最高の演技を引き出し、自らの求めるテー . . . 本文を読む
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『焼肉ドラゴン』

2018-06-25 21:52:59 | 映画
1969年から71年までの3年間のできごと。伊丹空港の横にあった朝鮮人集落の焼肉屋を舞台にしての家族の物語。最近見る映画はなぜかみんな家族をテーマにしたものばかりだ。たまたまなのだろうけど、なんだか不思議。これもたまたま昨日見たのだが、『月と雷』という映画もそうだった。壊れてしまった家族のお話。ひとりの女が、そこから再生していくまでの。(安藤尋監督作品だからDVDを借りてきて見た。)   . . . 本文を読む
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川上弘美『森へ行きましょう』

2018-06-25 21:50:51 | その他
人生という森の中で迷子になってしまう。ルツと留津。同じ時に生まれ別々の人生を歩む同じ女性のふたつの人生が交互に描かれていく。生まれる前から始まり、50年間が同じくらいのボリュームで描かれていく。同じ家で生まれて、でも、微妙に環境や状況が違って、母親が死んでしまった場合と生きている場合とか、誰と結婚するのか、しないのか、とか。人生の様々な局面での選択の違いが同じ人間をこんなにも変えてしまうのか。 . . . 本文を読む
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ももちの世界『鎖骨に天使が眠っている』

2018-06-25 21:39:16 | 演劇
久々に芝居を見てシビれた。劇場に入った瞬間からこれは本気に芝居だ、ということがビンビン伝わってきた。まず、舞台美術が素晴らしい。この狭い空間に的確に必要なものがちゃんと乗せられている。そこからはここで忌まわしいできごとが起きる予感がひしひしと伝わってくるのだ。通夜が行われているのは、ここではない。桐野家の父親の死から始まるこのドラマの舞台は、家の裏手に立てられたプレハブの前。ここは本編の主人公であ . . . 本文を読む
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遊劇舞台二月病『Delete』

2018-06-25 21:35:30 | 演劇
1年ぶりの新作だが、中川真一は変わらない。生真面目に「事件」に至る顛末を描いていく。だが、それはあまりに直線的すぎて、芝居は単調になる。そこがなんだかもったいない。もっと緩急が欲しいのだ。   とことん彼女を追い詰めていく。だが、事件の全容を描くのではない。そこに至る時間を丁寧に、貪欲に、追いかける。何が彼女をそうさせたのかに対して、作者の批評を加えることはない。事実を積み重ねるだけ . . . 本文を読む
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『終わった人』

2018-06-25 21:30:53 | 映画
これはコメディ映画なんだろうが、まるで笑えない。それが作り手の意図なのなら、救われるがそうではあるまい。このお話をシリアスに描いたなら悲惨な話にもなる。どういうスタンスで望むかが作品の成否にもつながる。中田秀夫監督はどっちつかずの映画にしてしまった。だから何がしたかったのかもわからない。悲惨だ。   定年を迎えた男がその日から先の時間をどうして生きるのかを描く。「終わった人」という定 . . . 本文を読む
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『空飛ぶタイヤ』

2018-06-20 19:23:08 | 映画
  本木克英監督がこういう社会派映画に挑むというのがうれしい。デビュー作『てなもんや商社』からずっと彼の映画は見ている。僕と同世代なのに松竹の社員監督としてコンスタントに映画を作り続けてきた彼のキャリアは地味に見えて、その実、ありえないほど波乱に富んだものだ。何本か監督しても消えていくのが80年代以降の遅れてきた社員監督の宿命なのに彼は、山田洋次の弟子である朝間義隆ですら消えたのに、今 . . . 本文を読む
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劇団往来『安楽兵舎VSOP』

2018-06-20 19:20:39 | 演劇
  このバカバカしい芝居は何なのだろうか。もちろん鈴木さんはわかってやっているのだろう。ふざけているわけではなく、本気でこのコメディに挑んでいるのかもしれない。2部構成で、前半の1時間の無意味さは何なのか。ホールが明るくなったときには唖然とした。ここで休憩が入るのか。こんなにも無内容で、だらだらして、大丈夫なのか、と。あまりのことに立ち上がれない。   芝居はもちろん後半 . . . 本文を読む
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『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』

2018-06-20 19:18:58 | 映画
山田洋次は年老いて無邪気に昭和を懐かしむ。惚けてしまったとは言わないけれども、こんなにも古くさい映画を今の時代に作ってしまって大丈夫だろうか。ノスタルジアではなく、結構マジみたいなので、見ていて困惑するしかない。   まるで寅さん映画を見ているようで。橋爪功と西村まさ彦の親子がW寅さん。笑うしかない。あげくは中嶋朋子が「おにいちゃん」とか言い出すし。彼女がサクラを演じるんだもの、なん . . . 本文を読む
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『万引き家族』

2018-06-20 19:15:32 | 映画
こんなにもストレートなタイトル。そのままでセンスのかけらもない安易なタイトル。でも彼は敢えて、こうした。そこに是枝監督の覚悟を感じる。この偽家族が本当の家族以上に本当の存在に見えてくる。愛しいから切ない。ギリギリのところで生活しながらもなんだか幸せそうだ。でも、このささやかな幸せがずっと続くはずもない。だからこそ、今こうしている時間を大切にしようと思う。   そして、やがて、突然に、 . . . 本文を読む
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大島真寿美『それでも彼女は歩きつづける』

2018-06-15 22:02:42 | その他
2011年の作品で、今の今まで読んでいなかった。こんな傑作なのにそれを今日まで読み逃してきていたなんて、情けない。でも、今、これを読めてよかった。こんなに凄い作品をスルーせずに済んだのだから。ふつうなら大島真寿美なのだから、新刊が出たなら絶対に読むところだ。なのに気づかなかった。まぁこんなふうにして見逃して(読み逃して)いる小説なんてきっとたくさんあるのだろう。(映画はほとんど見逃してないはずなの . . . 本文を読む
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劇団大阪『見よ、飛行機の高く飛べるを』

2018-06-15 22:00:12 | 演劇
この圧倒的な息苦しさは何だろうか。舞台はこんなにも明るく、開かれた空間なのにすごい圧迫感に息も出来なくなる。彼女たちの傷みが胸に伝染してきてしんどい。もうこれ以上この芝居を見たくない、早く終わって欲しい、とすら思う。なのに、芝居はこれでもか、これでもかと、いつまでも苦しみは続いていく。こんな芝居はめったにない。   飛びたいと願ったのに、自分たちには今は飛べないと諦めるまでの2時間4 . . . 本文を読む
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『羊と鋼の森』

2018-06-15 21:56:18 | 映画
見る前は、この小説が映画になんてなるのか、と思った。起伏のない淡々としたお話である。地味すぎる。しかも、監督はちょっと甘い青春映画『オレンジ』を作った橋本光二郎だ。でも、思ったよりもよく出来ていてホッとした。前半の緊張感は素晴らしい。ピアノの音以外の音楽はほとんどない。セリフも少ないし、無音のシーンが多く、それがこの映画に緊張感を与える。風景が素晴らしい。雪に閉ざされた町、ただ黙々とピアノと向き合 . . . 本文を読む
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『軍中楽園』

2018-06-06 21:25:45 | 映画
1969年、台湾の小さな島。そこで繰り広げられる男と女たちのドラマ。台中最前線の戦場で、彼らが何を感じ、何を思うのか。ノスタルジックな美しい映像で綴られる懐かしい風景が、80年代に見た台湾映画の数々を想起させる。台湾ニューウエーヴと呼ばれた素晴らしい作品群の流れを汲む。その担い手だったホウ・シャオシェン監督が協力していることも影響しているのかもしれない。初期の彼の映画の流れを汲んでいる。『恋恋風塵 . . . 本文を読む
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