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映画・演劇のレビュー

『オリ・マキの人生で最も幸せな日』

2023-04-30 10:26:26 | 映画
先日見た『コンパートメントno.6』のユホ・クオスマネン監督のデビュー作、2016年のフィンランド映画である。第69回カンヌ国際映画祭のある視点部門である視点賞を受賞した作品。小さな映画だけど、丁寧に作られていて、なのにそっけない。モノクロで16ミリで撮られている。監督が細部までこだわった逸品。   1962年のお話。実話の映画化。フィンランドでボクシングの世界戦が行われる。オリ・マ . . . 本文を読む
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太田和彦『書を置いて、街に出よう』

2023-04-30 09:19:00 | その他
もちろんこのタイトルは寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』を踏まえたものだ。あの名著、そして寺山の劇場用長編映画デビュー作。70年代、寺山修司の映画と著作は僕にとってバイブルだった。さらには天井桟敷の芝居に憧れて、東京に行くことを夢見る高校生だった。懐かしい。あれから45年。あっというまに今に至る。僕が、まさかの老人の仲間入りである。   この著書の太田和彦さんは僕より一回りほど年上 . . . 本文を読む
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標野凪『本のない、絵本屋クッタラ』

2023-04-30 09:00:00 | その他
またまた「食」を取り上げた本だ。ただ今回はそこに「本」をアレンジした。しかも「絵本」だ。僕にはまだ絵本は敷居が高い。せいぜいYA本止まり。児童書もまだまだ難しい。子どもの本はあまりに膨大で手が出せないって感じ。まぁそんな大袈裟な話ではないけど。  さて、この本である。さすがポプラ社文庫オリジナルだ。甘いだけではない。一本筋が通っている。とてもよく出来た短編連作スタイルの長編小説である。 . . . 本文を読む
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『ブラックフォン』

2023-04-29 08:18:00 | 映画
ホラーは大好きだったが、今はあまり見ない。配信で膨大な量の映画や、映画もどきが公開されているからだ。そこから自分の欲しい映画を探すのは難しい。ということで、リスクは大きく得るものは小さい。Jホラーの初期は興奮した。中田秀夫や清水崇。もちろん白眉は『リング』と『呪怨』。遡り70年代のアメリカ映画。『エクソシスト』がスタートだ。こちらの白眉はトビー・フーパー『悪魔のいけにえ』、スプラッター元祖のサム・ . . . 本文を読む
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北川悦吏子、百瀬しのぶ『夕暮れに、手をつなぐ』

2023-04-28 12:45:00 | その他
久しぶりにノベライズ本を読んだ。あまり記憶はないけど、高校生の時、『新幹線大爆破』を見て、あまりに感動して、サウンドトラックレコードやノベライズ本を買ってきて映画の余韻に何ヶ月も浸っていたことははっきり憶えているけど、それ以降はノベライズを読んでないかも。もう45年以上前の話だ。なかなか新鮮な体験だった気がする。   大好きだった北川悦吏子の新作ドラマのノベライズ本である。間違えて借 . . . 本文を読む
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『ガール・ピクチャー』

2023-04-27 09:33:47 | 映画
フィンランド発のガールズ・ムービー。3人の女の子の3つの金曜日が描かれる。恋に臆病なくせにセックスに憧れる。不満を抱える毎日にイラついている。大好きなことが不安から嫌いになる。そんな3人の恋が描かれる。これもまた女性監督による作品だ。3人の女の子たちの揺れる想いが繊細なタッチで綴られていく。心の弱さが映画自身の弱さにまでつながるところも『ぬいぐるみにしゃべる人はやさしい』と似ている。ここでも明確な . . . 本文を読む
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『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

2023-04-27 08:11:00 | 映画
金子修介監督のお嬢さん、金子由里奈の監督デビュー作。脚本はお兄さん(金子鈴幸)との共作。だからこれは金子兄妹作品なのだ。タイトル同様、とてもやさしい映画だ。やさしすぎて弱い。映画自体がこんなに弱くては作品としては失敗だと思う。でも、失敗だって構わない気がする。失敗をして人は成長する。 最近女性監督の映画が増えている。女性が映画監督をすることが当たり前のことになってきた。職業に男女の差別があっては . . . 本文を読む
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住野よる『恋とそれとあと全部』

2023-04-26 10:04:00 | その他
高校生の男の子と女の子がたったふたりで夏休み4日間の旅に出るというお話。ふたりで田舎の彼女のおじいちゃん家に行く。亡くなった叔父さんの死について叔父を聞くために。 一応ラブストーリーなんだが、少しよくある恋愛ものとは違う。ふたりは死者の理由を求める。だからこれは甘い恋物語ではなく、子供たちが「死」というものと向き合う小説なのだ。夏のバカンス、という色どりの中に、死ぬほどの苦しみという問題がある。 . . . 本文を読む
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行成薫『できたてごはんを君に』

2023-04-26 08:38:00 | その他
今流行りのご飯小説だ。(流行りの、と書いたがその真偽は知らない。ただ最近僕が読んでいる本が食をテーマにした作品ばかりだったからそう書いてしまっただけ)映画『名もなき世界のエンドロール』の作者の新刊。彼女の(彼?)の小説は初めて読むのだが、心地よいハートウォーミングで、読みやすい短編連作。と最初は思った。だけど読んでいるうちにこれは思いがけない傑作だということに気付く。構成もまた見事で、最終話を読み . . . 本文を読む
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『オテサーネク 妄想の子供』、『ほんとうのピノッキオ』

2023-04-25 18:21:00 | 映画
チェコのヤン・シュヴァンクマイエル監督による驚きの映画。配信が後1週間で終了するから、慌てて見ることにしたのだが、見逃さなくて良かった。これは思いがけない拾い物だ。あっと驚く過激で大胆な描写が連続。驚愕の、衝撃の一作である。2時間12分の長尺なのに怒濤の展開で一瞬もダレないし、飽きさせない。予想不能のまさかの、あきれるばかりの展開になっていく。 赤ちゃんに恵まれない夫婦が手にした赤ん坊は夫が持ち . . . 本文を読む
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川上佐都『街に躍ねる』

2023-04-25 07:56:00 | その他
第11回ポプラ社小説新人賞の特別賞受賞作。ポプラ社の本はそれだけで信用できる。この小説も素晴らしかった。ある兄弟のお話。五年生の弟と高2の兄。兄は1年前から学校に行ってない。部屋に引きこもって絵を描いている。弟は心配で頻繁に兄の部屋を訪れる。兄はいろんなことを教えてくれる。何があったか、ではなく、今何をしているのかが描かれていく。母さんたちは兄に学校に行きなさいとは言わない。諦めたのではなく、気長 . . . 本文を読む
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タルトプロデュース『ナビゲーション』

2023-04-24 10:08:00 | 演劇
NMB48のアイドルが主演するハートフルコメディ。台本はTVドラマの脚本家は江頭美智留。お話はかなり緩く、設定にもかなり無理がある。ただ無理を押し通して最後まで、見せる。東京から山形までの無許可遺体運搬なんていう特異な設定は面白いが、お話にはリアリティはない。あり得ないことの連鎖は意図的にではなく、最初から破綻している。台本の不備だけど、それが途中から快感になる。めちゃくちゃ大胆な辻褄合わせには呆 . . . 本文を読む
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あゆみ企画『螢の光』

2023-04-24 09:46:00 | 演劇
これは傑作だ。舞台となるのは尼崎の市営団地。チラシには「夏の始まり。傍らのドブのような水路にも蛍がやってくる。」とある。冒頭のナレーション。シンプルな舞台装置。それらはこれから始まるドラマを客観視するための仕掛けだ。慎ましく、誠実。そんなある夫婦の破局が描かれる。きっかけは些細なことかもしれない。妻は一緒に蛍を観に行きたかっただけ。もちろんそんな願い事が彼から拒否されたことが、彼女の失踪の理由では . . . 本文を読む
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工藤純子『だれもみえない教室で』

2023-04-24 07:59:00 | その他
優れた児童書は優れた一般書以上にあらゆることの核心を突く。ラジカルだ。この作品は虐めを扱って大人たちの愚かさを糾弾するのではなく、きちんと諌める。バカな大人を優しく諭すようなこの小説を児童だけに与えるのはもったいない。大人たちこそがこれを読んでちゃんと学んだほうがいい。学年主任の高畑先生は子どもたちから教え諭される。彼は子どもたちにちゃんと謝罪する。なかなかいい大人だ。間違いは誰にだってあるからね . . . 本文を読む
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角田光代『明日も一日きみを見てる』、僕のマリ『書きたい生活』

2023-04-22 07:52:00 | その他
何冊かエッセイを読んでいる。最近は気合いの入った小説が続いたので少し休憩を兼ねての読書。まずは僕のマリ『書きたい生活』。僕のマリって作者名だとは最初は気付いていなかったから、「あれっ、作者は?」と本を何度も見てしまった。これは彼女がエッセイストになるきっかけになった作品『常識のない喫茶店』の続編みたいだ。専業作家としてスタートする彼女の日々のスケッチ。日記を挟みながら、引っ越し、同棲、結婚へと、怒 . . . 本文を読む
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