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映画・演劇のレビュー

沢木耕太郎『夢ノ町本通り ブックエッセイ』

2023-10-30 06:06:00 | その他
沢木さんのこの新刊はここ30年間に書かれた読書に関するエッセイを集めたものだが、書評ではない。「本を買う」からスタートして「本を読む」、「語る」、「編む」を経て最後は「本を売る」まで。さまざまな文章はまさに本を巡る沢木さんの世界で、旅と同じく本が彼の人生そのものだということを改めて実感させられる。圧巻は山本周五郎の短編集(『山本周五郎名品館』)の解説だろう。4冊に収録された作品すべての解説を書いて . . . 本文を読む
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虚空旅団『四T桜梅桃李』

2023-10-28 13:58:00 | 演劇
4人の俳人を主人公にして、彼女たちのそれぞれの生き方を並行して描く。4人が、こんなにも関わり合わないまま、ラストを迎えるなんて意外だった。4人の話は別々の話で、これは結果的にオムニバススタイルの芝居となっている。  俳人として、女として、同時代を生きた彼女たちのそれぞれの戦いがじっくりと綴られる。ドラマチックな展開も、そんな見せ方もしない。ただ目の前の出来事をさらりと綴る。基本ふたり芝 . . . 本文を読む
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劇団未来『パレードを待ちながら』(再演)

2023-10-28 10:55:00 | 演劇
昨年上演され大評判になった作品をバージョンアップして再演する。今回はさらにワークショップメンバーでの公演フェーズⅡも含めて3パターンでの公演となる。簡単に再演をするわけではない。   オリジナルメンバーによるバージョンを見た。先週の男性版も見たかったが、旅行に行っていたから、見ることが出来なかった。1年を経ての再演だが、まるで初めて見るような新鮮さ。演出が大きく変わったわけではない。 . . . 本文を読む
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西加奈子『夜が明ける』

2023-10-27 19:25:00 | その他
2021年の秋に出版された時には、あまりに予約がありすぎて、さすがに読むことを諦めたけどブームが落ち着いてきたから今ならようやく読むことができる。今は、読めてよかった。400ページ越えの長編小説。圧巻の苦しみ。  ブックカバーの絵が凄まじい。男の顔。口から下。長い首までのドアップ。圧倒的なインパクト。これはなんだぁ、と思う。読み始めてからも同じ。あの絵の男が主人公のひとり。アキは深沢暁 . . . 本文を読む
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朝霧咲『どうしようもなく辛かったよ』

2023-10-27 08:30:00 | その他
18歳の大学生が高三の時に書いた小説。小説現代長編新人賞を受賞した作品だということだ。中学生が主人公。中2の終わりから卒業までを背景に5人の女の子を語り手にして描く。  バレー部の7人、とひとり。彼女たち8人の1年間。5つのエピソードは5人の語り手による。最初のふたりまで読んだところでなんだかありきたりの小説でガッカリかな、と思った。18歳が書いた14歳から15歳の日々。バレー部で頑張 . . . 本文を読む
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『暴力脱獄』

2023-10-26 16:04:06 | 映画
これはポール・ニューマンの映画だが、同時にスチュアート・ローゼンバーグ監督。懐かしい。後日、と言っても70年代の話だが彼はロバート・レッドフォードの『ブルベイカー』を監督した。あの映画はもうリアルタイムで見ている。60年代の映画はまだ子供だったから、リアルタイムでは見ていないし、名作と呼ばれた映画でもこの映画のように見逃したままだった作品も多い。初見だ。 なんだか悠々たるタッチで、2時間7分。今 . . . 本文を読む
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原宏一『たわごとレジデンス』

2023-10-26 05:33:00 | その他
高級分譲シニア・マンションを舞台にした老人たちの暴走とそれに振り回される若者たちを描く短編連作。老人と若者の対比からドラマを紡ぐという設定はなかなか斬新でいい。原宏一らしいコメディだが、ただ扱う問題がシニアの在り方といういささか難しい問題で笑い飛ばすには心苦しい。セレブを主人公にしているから、お金があるから、深刻にも、シリアスにもならないというところもあるけど、やはり微妙。   最初 . . . 本文を読む
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草野たき『最高のともだち』

2023-10-25 20:25:00 | その他
児童書(図書館ではYA小説に分類されていた)だけど、まさかの展開で、ミステリー仕立てにもなっている。3人の子どもたちが主人公。それぞれが家庭に問題を抱えている。ふたりは学校で虐めにも遭っている。傍観者である陸と虐めを相手にしない菜摘。孤高のふたりが出会ったライトはふたりがそれぞれ隠し持っている心の秘密を言い当てる。あり得ないことだ。だからふたりはライトと唯一の友だちになろうとする。   . . . 本文を読む
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『春画先生』

2023-10-25 18:01:00 | 映画
塩田明彦が原作・脚本・監督を手掛けた新作。これまた奇想天外な話で、こんなのが映画になるのか、と呆れる。だけど、映画はかなり面白い。無茶苦茶だけど、最後まで引き込まれていく。『シック・オブ・マイセルフ』と違ってこちらは、不快ではない。春画の先生に引き込まれていく女性の話。こんな話なのに、なんだか爽快。春画の世界は淫靡なエロではなく、あっけらかんとした性の開放。そこでは人間が人間らしく生きている。だか . . . 本文を読む
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『シック・オブ・マイ・セルフ』

2023-10-25 17:51:00 | 映画
この映画の予告編を何度も見て(シネリーブル梅田にばかり行っているからね)気分が悪くなった。なんなんだ、これは、と。『四谷怪談』のお岩さんのような女性が登場する。薬を飲んで顔が崩れてきたようだが、自分で進んで飲んだところが騙されて飲んだお岩さんとは違う。彼女の行為はどこまでもエスカレートしていく。 そんな女性が主人公。承認欲求が異常に高い。盗人アーチスト(あり得ない! 彼は盗品を使って作品を作る、 . . . 本文を読む
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菅野久美子『生きづらさ時代』

2023-10-25 02:15:00 | その他
ノンフィクションライター菅野久美子によるエッセイ風レポート。読みやすい本だ。だが、重くて暗い。そして僕たちはここから目を背けれない。評論家の上から目線ではなく、そこで暮らす我々と同じ目線から現実と向き合う。いや、最底辺に陥った人たちと寄り添うところから始める。 タイトル通り生きづらさの時代を生きるための指針が示される。彼女の実体験をベースにして、そこから彼女自身もまたそこから立ち上がっていく、そ . . . 本文を読む
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『ザ・クリエイター 創造主』

2023-10-24 19:23:00 | 映画
『SW ローグ・ワン』や『ゴジラ』を手掛けたギャレス・エドワーズが監督・脚本を手がけた近未来SFアクション大作。まさかの展開を見せる。同時にシンプル過ぎの展開でもある。ひとりの男が戦争の中、AIの少女を守って戦うという物語。背景は人間対AIによる世界戦争。アメリカ対アジア。AIによって核を落とされ廃墟と化したロサンゼルス。数百万の死者が出たアメリカは、AIを廃棄するが、AIとの共生を受け入れるNE . . . 本文を読む
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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

2023-10-23 15:58:45 | 映画
スコセッシの新作はなんと3時間半に及ぶ大長編だ。『タクシードライバー』からもう50年。今もなお彼は精力的に魅力的な新作を撮り続ける。今回もそうだ。思いもしない題材に挑戦して、しかもすごく困難な題材を見事に料理する。Netflix大作『アイリッシュマン』に続いて今回も長い。正直言うと2時間の映画にしたほうが見やすい。だけどそうはしないのが今のスコセッシだ。テンポが悪いわけではないが、敢えて話をじっく . . . 本文を読む
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小野寺史宜『夫妻集』

2023-10-23 15:54:45 | その他
どんどん新刊が刊行されていく売れっ子作家、小野寺 史宜。今回は4つの夫婦のお話。今回はなんだかあざといくらいにいろんなことを仕掛けてくる。ワンパターンにならないように編集者としっかり打ち合わせして、あらゆるパターンを想定して万全の構えでさりげなく仕掛ける。だから、あざとい。でもそれは嫌じゃない。読者への最大限の心配りだから。夫婦の問題に挑む。これはそんな短編集である。いや、短編集は売れないから、ち . . . 本文を読む
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『略称・連続射殺魔』

2023-10-23 15:53:44 | 映画
東京都写真美術館に行ってきた。『風景論以後』という企画展を見るためだ。予定にはなかったが、時間が出来たから行くことにした。そこで、偶然ずっと以前から見たかったこの映画を見ることができたのだ。とてもうれしい。 大阪から東京に帰って牛乳配達をするところから見る。映画を途中から見るなんて、久しぶりのことだ。今は映画館はみんな入替制なので、途中から見ることはない。70年代の二番館は3本立だったが、あの頃 . . . 本文を読む
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