習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ばるぼら』

2020-11-30 21:16:02 | 映画
きっとこんな映画なのだろう、と期待したような映画だった。手塚眞は彼の最高傑作である大作『白痴』のように、今回もまた大胆に自分の世界を提示した。原作の持つ雰囲気を大切にしながら、彼にしか作れない世界を堂々と見せてくれる。でもそれは自分の独りよがりにはならない。圧倒的なビジュアルで映画を埋め尽くす。 ばるぼらというわけのわからない女と出会ってしまった男の地獄めぐりだ。でも、それは彼にとって快感である . . . 本文を読む
コメント

村上春樹『一人称単数』

2020-11-30 21:05:46 | その他
村上春樹の最新短編集なのだが、いつも通りの内容に既視感しかない。彼のこんな小説なら今までも何度となく読んでいる。だからこれは昔ながらの変わることのない村上ワールドなのだ。そしてそれが心地よい。ぬるま湯のようなこの世界に浸っているといろんなことがどうでもよくなる。何かとても大切なことがあったはずなのに、それが何だったのか、わからなくなる。でも、それがどうしたというのだ。忘れてしまうなら忘れればいい。 . . . 本文を読む
コメント

劇団未来『スリーウィンターズ』②

2020-11-30 21:05:12 | 演劇
劇場に入って、まず、目を奪われるのは、その舞台美術だ。廃墟と化した大邸宅をリアルに表現するのではなく、象徴的なイメージとして見せる。空中で正面に突き出した浮遊する廃材のインパクトは凄い。本来なら狭いはずのこの劇場の利点でもある高さを最大限に生かしたリアルと抽象の融合された空間造形は見事だ。壊れた額縁で囲われた空間はこの屋敷の居間だ。そこで4世代、3つの時間の壮大なドラマは繰り広げられる。 194 . . . 本文を読む
コメント

『佐々木・イン・マイマイン』

2020-11-29 19:48:41 | 映画
こんな地味な映画が東宝シネマズなんばで公開されている。公開2日目の夕方、客は8人だけ。土曜なのに。寂しい。そして、この映画自体も、とてもさみしい映画だ。うら寂しい。27歳の男たちが、人生に疲れて、倒れていく。佐々木の死は彼らにどんな影響を与えたか。 高校時代と現在が交錯して描かれる。キラキラ輝いていたあの頃、なんていうパターンではない。今の閉塞感も半端じゃない。息苦しい映画だ。2時間ずっとそれが . . . 本文を読む
コメント

劇的☆爽怪人間『ロケット流星群』

2020-11-26 21:32:34 | 演劇
今年もウイングカップは開催される。11月から来年の2月まで、総勢7団体が参加する。そしてこの作品はそのトップバッターだ。なんと1回こっきりの上演。でも、お手軽に作った安易な作品ではない。実に手の込んだ気合の入った作品なのだ。見ていて気持ちがよかった。若手劇団だからこそ可能な一途さと生真面目さ。初々しくて全力投球。それが実に爽やか。劇団名にあるように「爽快」なのだ。(まぁ、劇団名は「爽快」ではなく「 . . . 本文を読む
コメント

slatstick『No Time』

2020-11-26 21:09:14 | 演劇
初めて見たスラステの舞台は、とても楽しくてアッという間の1時間だった。まぁ、たった1時間だから短く感じるのではなく実際に短いのだけど。さらっとしていて、飽きささない、というか、飽きるほど長くはないのだけど。要するに、とても上手な1時間ということなのだ。 ふたり芝居。ふたりの掛け合いだけで見せる。基本、装置もいらない。彼女たちがそこにいるだけでいい。中村なる美×永津真奈。作、演出は虚空 . . . 本文を読む
コメント

劇団未来『スリーウィンターズ』

2020-11-26 20:39:57 | 演劇
久々に凄い芝居を見た。2時間半の大作なのだが、あっ、という間の出来事だ。これだけの覚悟を決めて、この作品に挑戦して、見事成功した演出のしまよしみちとそのチームに拍手を惜しまない。 知り尽くした自分たちのアトリエでこの空間を最大限生かした芝居を作る。この1年間の充電期間(ということにしておこう)を無駄にしない。もう後がない状態で最後の戦いに挑む、そんな覚悟を感じさせる芝居だった。でも、実に冷静で、 . . . 本文を読む
コメント

『461個のおべんとう』

2020-11-19 20:21:55 | 映画
こんな映画を作るんだ。こんな話が映画になるんだ。しかも、それなりに面白いし。すごい面白い、わけではないところもいい。こんな地味な映画なのに、そこそこ面白くて、2時間退屈させない。でも、何もない。ただのお弁当のお話。昨年の『今日も嫌がらせ弁当』の姉妹編のような映画。あれが母と娘の話なら、こちらは父と息子。でも、こちらのほうがずっと地味。 高校受験に失敗した息子は、1年間の浪人生活を経て、1年遅れで . . . 本文を読む
コメント

神原組プロデュース『わらわら草紙 五の章』

2020-11-19 19:50:55 | 演劇
コロナが蔓延する中、3月に公演を打ち、7月にも、そして、怒濤の9月公演を経て、今回の11月といつものペースを崩すことなく快進撃を続ける神原ワールドだ。 すかんぽ長屋名義、浮狼舎で、そして今回は神原組プロデュース。もともとはそれぞれ別の座組での公演だったはずだけど、いつのまにか固定メンバーでやっている。休むことなくいつものメンバーが集い。そこで、自由自在に、好き放題。それって神原さんだからできるこ . . . 本文を読む
コメント

『わたしは光をにぎっている』

2020-11-18 21:45:16 | 映画
  『四月の永い夢』の中川龍太郎監督作品だから信じる。あの作品は素晴らしかった。だけど、あれはフロックだったのかも知れない。その後、苦戦している。今回だってそうだ。もどかしい。   たぶん、彼自身もなかなか思うような作品は作れていない、と思っているはず。この作品の次に手掛けた『静かな雨』もすでに見ているけど、あれも同じようなもどかしさを感じさせた。納得のいく作品にはほど遠 . . . 本文を読む
コメント

あみゅーず・とらいあんぐる『F・I・G・H・T ~いつも一緒に~ リーディング』

2020-11-18 21:43:24 | 演劇
ここ数年ずっと夏のリーディング公演と秋の本公演の2本立を続けてきたあみゅーずだが、今年の秋は再びリーディングになった。でも、そこはあみゅーずだ。変わることなく、いつもの自分たちの世界を体現する。もともとリーディングと本公演の垣根は低い。3話からなるオムニバススタイルはいつも通りだし、75分という上演時間も、そうである。今回の4本には共通項は用意していない。でも、1本ずつのそれぞれが作り手のお気に入 . . . 本文を読む
コメント

有川ひろ『イマジン?』

2020-11-18 21:36:02 | その他
久しぶりに楽しい小説を読んだ。400ページに及ぶ作品だけど、読みやすくてあっという間の出来事だった。映像産業に携わる夢を抱きながら、燻っていた青年がひょんなことから制作プロダクションに拾われて、映画やドラマの現場に就く。   彼が全力で夢を叶えるために走り抜けていく姿が心地よい。というか、まさかの夢の世界(映像業界)に入り込んで、そこで生きることが出来るのだ。諦めていた好きなことが出 . . . 本文を読む
コメント

iaku『The last night recipe』

2020-11-15 21:18:51 | 演劇
こんなにも痛ましい芝居はない。冒頭から泣けてしまい、困った。妻が死んだ、というそれだけで過剰に反応してしまう今の自分は異常だ。3月に突然妻が入院して、そこから彼女が、ではなく、自分がおかしくなってしまった。そんな個人的なことも影響しているのだろう。まぁ、それはこの芝居のせいではない。だけど、この芝居の「覚悟」は普通ではない。こんなふうに描くのか、ということと、こんなことを描くのかという驚き。ここま . . . 本文を読む
コメント

『おらおらでひとりいぐも』

2020-11-15 20:27:12 | 映画
75歳のひとり暮らしの老人(田中裕子)。彼女の日々のスケッチを描くファンタジー。3人の妖精さん(寂しさ1,2,3)が出てきて彼女の周囲でいろいろとアドバイスをしたり、干渉したり。リアルなお話なのだけど、ほのぼのとしているのは彼女にしか見えない(妄想だから当たり前だ)3人がコメディリリーフを担当しているからだ。もちろん、頭の中にいる3人は何かをするわけではない。彼女もわかっている。認知症ではなく、ま . . . 本文を読む
コメント

『朝が来る』

2020-11-04 21:36:24 | 映画
  辻村深月の傑作小説を河瀨直美が映画化した。こういうタイプの商業映画を彼女が手掛けるなんてめずらしいことだ、と思いつつ、見たのだが、彼女のやりたいことは明確で、ぶれることはない。特別自分のスタイルに拘るわけではなく、原作小説を忠実にたどりながらも、それを確かに自分の作品にする。それってなんだか凄い。   特別養子縁組で子どもを得た夫婦が自分たちにできる思いっきりの愛情を . . . 本文を読む
コメント