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映画・演劇のレビュー

浪花グランドロマン『たなびく黄昏』

2022-10-02 17:08:43 | 演劇

昨年の新作が見られなかったので久しぶりの浪花グランドロマンとなる。今回は葬式のお話。母親の死去、残された3姉妹による葬儀が描かれる。この3人の罵り合いが凄まじい。ここまで仲の悪い姉妹なのだ。久々に実家に集まった3人とその家族。彼女たちだけの家族葬。これはその2日間のドラマだ。

お通夜もなし、最少人数の家族葬だが、その身近な家族が母親の遺体の前で顔を突き合わせると大声で罵り合う。葬儀の場なのにありえない。まぁ、ここにいるのは彼女たちだけなのでそうなるのだろうが強烈だ。長女夫婦とその娘。次女夫婦とその息子。独身の3女。近所に住む親戚の女性。葬儀の前日やってきた彼女たちは優しかった母親のことを静かに語り合うのではなく、葬儀を巡って喧嘩腰の対応。葬儀屋のミスで前日から棺桶が運び込まれてきたことで、長女と次女がひと悶着。ふたりの孫と3女は少し冷静な対応をする。長女と次女のそれぞれの夫はもうできるだけかかわりあいたくないと距離を取る。

こんなことだから、しっとりとしたドラマにはならない。だがドタバタ・コメディにもならない。こんな感じだけど、どこにでもあるような葬式の光景としてそれが綴られる。すでに死去した父親が酷い男で母はずっとその仕打ちに耐えてきた。手を出す暴力を振るうわけではなかったが、言葉による暴力はすさまじかったようだ。そんな父と向き合ってきた母親を見てきたはずの3姉妹なのに、彼女たちは父親の血を受け継いだようだ。大声で怒鳴りあう。特にめり演じる次女が凄まじい。受けて立つ長女サトーエミは天然のボケで巧みにかわす。このふたりの応酬がお話の中心を担う。だが、それだけでそこからドラマチックな展開はしない。

どちらかというとそんなふたりのやり取りも含めて芝居全体は淡々とこの家族を描くことに終始する。葬儀を巡るトラブルも些細なことだ。「どこにでもあるお話」として「ここにしかないお話」をさりげなく提示していくのだ。特別なことではない日常の延長としてこの肉親の死を描く。

母親が亡くなり、同居していた長女一家が、そのままここで暮らすみたいだ。家や遺産相続という付随する問題にはここでは触れない。母の死すら日常の中で埋もれていく。ふたりの孫の対応、葬儀に出ないという選択をした3女とそれに付き合うことにした次女の息子。母(祖母)が不在となった家で葬儀の時間、亡くなった母を寝かせていた布団で眠る3女の想いが実はお話の中心を担う。だが、ことさらそこを大きくは取り上げはしない。それだってさりげない描写で抑える。

みんな何も言わないけど、それぞれ悲しんでいる。そこには言葉にはしない想いが溢れている。こんな芝居をNGRが作るんだ、と感心した。やがて誰もが死ぬ。そんな当たり前のことを作、演出の浦部さんはこんなふうに淡々と見せてくれる。


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1 コメント

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Unknown (つげともこ)
2022-10-08 09:41:37
遅ればせながら、、ご観劇ありがとうございました!

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