中村義洋監督が湊かなえのミステリーに挑戦した意欲作だ。主人公の井上真央が前半の1時間、登場しない。この画期的な構成は原作を踏襲したのだろうが、後半になり腰砕け。満を持しての彼女の登場から、お話がどんどん膨らんでいかなくてはならないはずが、ただただ、事件の解決で終わる。説明なんかいらないのだ。これは原作のつまらなさだろうけど、そこを中村監督ならちゃんとクリアしてくれると期待しただけに残念だ。
井 . . . 本文を読む
現役中学生が実年齢の中学生を演じる、という当たり前のことが、芝居ではとても新鮮だ。(実はかなり微妙な問題もそこには孕むのだが、)最初は彼女たち3人のおしゃべりシーンからスタートする。それがけっこう長い。残念ながら、そこが弾まないから、乗り切れない。劇団未来の大人の役者が登場すると、その差は歴然となる。しかも、途中から彼女たち中学生の話から、大人の側へとシフトする。それは台本の問題なのだが、安心して . . . 本文を読む
三池崇史の快進撃はどこまでも続く。さすがに、今回はつまらなかったけど、でも、こういうばかばかしい映画を本気で撮る彼は好き。エンタメとして、よく出来ている。それだけで、充分だ、という人もいるだろう。だが、僕はそういうのは嫌だから、これでは納得しないけど、否定はしない。
いきなり、この不条理のただなかに叩き込まれる。問答無用だ。1時限目。だるまさんが転んだ。スプラッターではない。でも、ただの冗談で . . . 本文を読む
改めまして。高倉健を主人公にしたらいいような小説、と先に書いた。でも、この主人公の中年男はそんなかっこいい存在ではない。家族がばらばらになり、心細い。自分のせいで妻を失った。独立したはずの子供たちは厄介事を抱えて、彼を悩ませる。さらには、家を出てほかの男と再婚した妻が苦しんでいることを知る。
50歳を目前にして、彼の人生は、もしかしたら、今、一番、大事な局面を迎えているのかもしれない。ばらばら . . . 本文を読む
漫才のことは知らない。興味ないというのではなく、そんな時間がないからだ。だから、この映画のモデルになった二人組のことも、名前くらいしか知らなかった。しかも、これは吉本が制作した映画だ。近年量産される安易な「映画もどき」の作品の1本だと思ったから、最初は見る気がしなかった。だが、劇場でたまたま見た予告編が琴線に触れた。なんだか胸いっぱいになる。こういう「難病もの」(のようなもの)は好きではない。だ . . . 本文を読む
とても素敵な映画を見た。こういう作品が、誰にも知られず、ひそかに公開されている。そして、すぐに消えていく。とても残念な話だ。もっとたくさんのお客さんを集めてもいい。きっと、誰が見ても満足する。そんな傑作なのだ。だが、ほとんどの人は知らない。それだけのお話なのだ。
こういう小さな作品は目立たない。主人公の福ちゃんと同じように市井に潜んで、でも、確かに周囲の人たちから感謝されている。この映画に僕た . . . 本文を読む
あまりのそっけないタイトルにそれはないでしょ、と思った。しかも、主人公は長距離夜行バスの運転手だ。それって、ただのまんまじゃん、と思う。でも、この暗く切なく長い小説(450ページほどもある)を読んでいると、だんだんそのシンプルなタイトルに込められた意味が胸に滲みてくる。この男は、30年前の高倉健が演じて欲しい。
先日亡くなられた時、あと1本健さんが映画を撮るなら、何がよかっただろうか、と考えた . . . 本文を読む
クリストファー・ノーランが挑むこの超大作映画は、スピルバーグとキューブリックが合体したような作品だ。しかも、3時間に及ぶ(厳密に言うと2時間49分)という長尺は、今時のハリウッド映画には普通はない。これはノーランならではの特例であろう。
そこに作家としての心意気を感じる。これは彼にとって大きな挑戦だ。しかもちゃんとフィルム撮りされたらしい。とことん拘りに貫かれた作品だ。大体こういうタイプのSF映 . . . 本文を読む
メイドたちによる奥様ごっこが描かれる。最初はそれが「ごっこ」だとは、思わない。だが、やがて奥様の不在が明確になる。そこに、本物の奥様が帰ってくる。しかし、彼女もまた、もうひとりのメイドで、さらなる奥様ごっこが繰り返されることになる。
ジャン・ジュネの『女中たち』を底本にして佐藤香聲が構成、演出、作曲をした作品。これは佐藤さんとしては、本当に久々のストレートプレイとなる。身体表現や音楽ではなく台詞 . . . 本文を読む
シュワルツエネッガーの最新作である。政治家を辞めて、映画界に復帰してから、少しずつ、いろんな役に挑戦している。復帰第1作の『ラストスタンド』は、楽しかった。ゲスト出演で『エクスペンダブルス』に呼ばれて、その流れでスタローンとダブル主演の『大脱出』にも出た。だが、今回はこれまでの軽い映画から脱して、シリアスで、重量級のアクション映画に挑む。
これは絶対に見なくては、と期待した。それにしても、やは . . . 本文を読む
シリーズの第9作目。前作はスピンオフだった(短編集だった)ので、これは久々の新作となる。でも、変わらない。というか、その変わらなさがこの作品の魅力だ。
家族はどんどん増えていき、もう収拾がつかないほどだ。でも、友達の輪は広がり続ける。どんどん新しい人たちを受け入れるからそうなる。でも、それこそがこの家族なのだ。閉じることなく、開かれた関係性。しかも、子どもたちはどんどん成長していく。そんな成長 . . . 本文を読む
天才ジャン=ピエール・ジュネ監督が、またまたやってくれた。僕は大ヒットした『アメリ』よりもこの映画の方が好き。彼のフィルモグラフィティの中ではこの2作品はよく似た傾向の作品であろうが、「かわいい」のアメリよりも、「家族愛」のこちらの方がより、彼らしい。普遍的なお話の中で、自分の個性をどこまで発揮するか。それがこの2作品の特徴だ。それは商業主義への迎合ではない。もし、それなら、彼は今頃ハリウッドで . . . 本文を読む
このタイトルって実は『ペーパームーン』なのだ。そんな当たり前のことに今頃になって気づく。まるで何も考えずにいた。原作を読んだときだって、気づいたはずなのに、今回映画を見るまで、思い出さなかった。ただ、あの膨大な小説をどう映画化したのか。さらには、この嫌な話に耐えられるのか、そんなことを考えながら見始めた。ピーター・ボグダノビッチ監督のあの映画は、とても優しい作品で、大好きだった。だが、同じタイトル . . . 本文を読む
こんなお芝居を見るのは初めてだ。何が初めてかというと、こんな「恋愛演劇」が、である。ふつうなら、絶対にここまではしない。どこかテレてしまって、どこかに何か他の物を入れてしまう。ここまでやれないし、やらない。でも、上野友之さんはそうはしない。これは最初から最後までやる。それだけやる。だからこれは純度100パーセントの恋愛劇なのだ。
ここに登場する人たちは恋愛以外何もしないし、考えない。仕事をして . . . 本文を読む
とても緊張感のあるいい舞台だった。以前、劇団大阪がこの台本を取り上げたのだが、それを見た時、あまりに演じる保護者たちが高齢すぎて、リアリティがないと思った。今回は反対に、いささか若すぎてリアリティがないのではないか、と危惧した。だが、何の何の。このメンバーによる作品が、ここまでリアルな作品になっていたのだ。それには驚かされた。若いキャストが無理して演じるのではない。彼らは等身大の中学生の両親を見 . . . 本文を読む