Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

どこから来てどこへ行くの

2005-04-09 | 文学・思想
バイエルン放送協会のニュースチャンネルでは、朝5時過ぎからサンピエトロ広場の様子が写され続けた。8時過ぎにスタジオからの前放送が始まり10時まで神学者とケルンドーム放送局の編集長が解説した。

大伽藍に柔らかな陽が当たる静かな朝の風景とは打って変わり、人の波で埋まる広場で死者のためのミサが執り行われた。恐らく誰もが意外に感じたのは、大変質素な木のお棺であろう。こうして巨大な権力の座から開放される。そしてそこに開かれて乗せられた聖書は、折からの突風に靡いて福音の頁が繰り返し捲られる。まるでラマ教の廻す教文のようである。ここに生前の活躍を多くの人が連想したように、風の助けを借りて最後まで強い印象を与えた。


「あなたたちは新たに生まれなければならない」とわたしが言ったからといって、驚いてはならない。風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞いても、それがどこから来てどこへ行くのかを知らない。霊から生まれたものもその通りである。(ヨハネスによる福音3.7-3.8)


お棺の横には復活祭の蝋燭が立てられていた。これは復活祭に、教会の前で点火されて暗い教会へと導かれて、「光と温もり」を象徴する蝋燭らしい。アルファからオメガへと書かれた蝋燭はキリストが世界の始めから終わりであることを意味する。故人の身近な存在であったミュンヘンで活躍したラッチィンガー枢機卿長が式を執り行った。彼が冒頭に、「彼は今日、主の窓際にいる」と語ったように復活を表す。

そしてミサ式典の終わりにサント・スビドのシュプッレヒ・コールが巻き起こる。それは次から次へと大きな波となって広がっていく。若い信者たちは、早期の聖人推挙への要求を繰り返す。その訴えに呼応して今度はジョヴァンニ・パオロを呼ぶ掛け声が繰り返される。

実際、居並ぶ世界の権力者達はスターリンの悪い冗談「法王は何個師団を有しているのか?」を思い起こしたのではないだろうか。東方教会の祈りや来賓のイランのハメイニ師や合衆国要人が居並ぶ姿は改めて故人の世俗での業績を思い起こさせる。

そしてお棺が担がれ、それが改めて信者に向けられて最後のお別れをする。再びサントとジョバンニの応答が沸き起こり、手が大きく振られて送られる。お棺の聖水の雫が瑞々しかった。



参照:
神の器官の痛みを分けて [ 女 ] / 2005-04-06
鍵の架けられた法王執務室 [ 生活・暦 ] / 2005-04-04

後記:
その後発行された記念切手にも、故人が望んだお棺の通りに、十字架横にマリア信仰を表すMが記されている。
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18 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (michikong)
2005-04-09 11:09:48
世界中で一番何も持たない法王が、

世界で一番盛大な葬儀の主となった・・・

その人の生き様を見るには、

葬儀を見るとわかるといいます。



その光景を見ながら、宗教に関係なく

彼のもたらした平和への道を私達は

受け継がなければならないと、深く思いました。
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Unknown (ひろ)
2005-04-09 11:17:24
TBありがとうございました。

私のほうからもTBさせていただきました。



今回の葬儀を見て、カトリックの影響力の強さを再認識いたしました。ドイツにいらっしゃると、日本にいるよりより強く感じられるのではないでしょうか。
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TBありがとうございます (マサボン)
2005-04-09 12:06:39
 ボクは宗教やヨーロッパのことに疎いのでうまくコメントできませんが、この葬儀を機にバチカン市国と中国・台湾の関係がぎくしゃくしていくことは分かってきました。偉大なる方の死を前にして自国の主張を通そうとする浅ましい姿勢に、哀しくなってきました。
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Unknown (☆木イチゴプリン☆)
2005-04-09 12:47:41
こんにちは、Himbeerpuddingです。

TBありがとうございます。

僕の方からもさせていただきます。



歴代法王の中でもっとも多くの国に渡った方でしたよね。

それだけ、世界平和に尽力された方だったのだと感じます。

私達は宗教に関係なく、彼の遺志を受け継がなくてはいけないでしょう。



バイエルンにお住まいなのですか?

僕はStuttgartで生まれました。



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Unknown (yukimomo)
2005-04-09 16:39:33
こんにちわ。



TBありがとうございます。



ジョバンニ・パオロ2世は、私にとっていつの間にか、遠いところにいるおじさんのような感覚になっていましたので、これから寂しくなるような気がします。

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Unknown (庄治)
2005-04-09 16:58:20
TBありがとうございます。

前半部が全く違う内容なので迷いましたがTBさせて貰います。
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素朴な問い、影響力、台湾、人類の願い、皆同じ、文化的な記号 (pfaelzerwein)
2005-04-09 18:01:34
michikongさん、コメント有難うございました。生き様、死に様、何人もそこから逃れられない素朴な問いが投げかけられます。



法王は実際は何も持たない所か、教会を通して巨大な権力を保持しています。軍事力は僅かなスイスの傭兵ですが、比較の出来ないほどの精神的影響力を持つ事が出来ます。しかし、それが己の宗教を越えて正しく行使される事によって、法王庁が世界の宗教の指導的立場を確立する方向にあります。仰るようにそれが世界の平和に繋がりますね。







ひろさん、コメントとTB有難うございました。同じリンクが既に入っていたので、新しい方を消してしまいました。必要ならば後ほど貼って置いてください。



法王庁の影響力の強さは、ドイツでは違う方向に出ていて教会改革への圧力となっています。この件は改めて記したいと思います。只、欧米先進国での精神的影響力は何処でも然程変わらないと思います。寧ろ東欧、南米、アフリカ、アジア地域での権威のほうが高いかもしれません。







マサボンさん、コメント有難うございます。私も中継を観ていて、サンピエトロの参道建物に大きく掲げられている台湾の国旗に気が付きました。法王庁にとって大陸の方が重要ですし、今後も共産党との駆け引きが注目されます。地下に潜っているキリシタンの数も含めると可なりの数になっているかも知れません。それが東欧のように党崩壊に繋がる切っ掛けになるとも思いませんが。中国人の法王なども想像してしまいます。







☆木イチゴプリン☆さん、コメント有難うございます。なるほど、プァルツは旧バイエルン領地ですが、カトリック多数ではありません。



参照:朕強クリースリングヲ欲シ [ 歴史・時事 ] / 2005-03-30



宗教的にはシュトュツガルトと同じような事情です。放送は有線です。確かに平和への理想やメッセージと言う意味では人類全ての願いなのですが。







yukimomoさん、コメント有難うございます。おじさんですか。特に死者はその尊厳を持って扱われるべき事は、誰でも変わらないですね。







庄治さん、コメントとTB有難うございます。こちらこそ知っていて敢えてTB貼りました。一つは、報道の仕方と受け取られ方に興味を持っているからです。ここで挙げているようなエピソードも新約聖書の引用を除けばこちらの定時ニュースの冒頭でのナレーションにあたります。受け取り方によっては可なり宗教的とも取られないのですが、これを欧米の文化的な記号の典型として著しました。勿論カトリックの聖体拝領などは秘儀のようなものですが、これらは全て象徴的なものとして捉えられています。カトリックのフィリッピンなどでは、また違うのであろうと想像しています。

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はじめまして (susie)
2005-04-09 22:41:29
TBありがとうございます。



同じ映像を異なる地で異なる解説で見ていたのですね。こちらでは、木製のお棺について、木、亜鉛、木で三重になっていて、遺体の腐敗の過程を遅くする、という解説がありました。



また途中でEastern ---(よく聞き取れなかった)の方たちがお棺近くで儀式をされました(流れる歌がまったく違うものになりました)。あれは東方教会の方たちだったのでしょうか?
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TBありがとうございました。 (かっしー(@Payaso))
2005-04-10 00:40:02
トラックバック、ありがとうございました。



私はローマ法王について詳しく存じていないので、コメントはできませんが、テレビでなんとなく目に入った厳かで、盛大な葬儀に、ヨハネ・パウロ2世の功績と、その偉大さをうかがいしることができました。



そして、pfaelzerweinさんの記事を拝見させていただいて、改めて法皇について触れることができました。本当にトラックバック、ありがとうございました。

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はじめまして (lisa555)
2005-04-10 08:12:53
TBありがとうございました。



武器を持たずにこれだけ世界を変えた法王は偉大でした。



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