Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

用心深い行為に隠されたもの

2009-11-08 | 文化一般
レヴィ=ストロース追悼の記事は、一通り目を通したが、殆ど二面の量があった。最後の民俗学者みたいに呼ぶと、それは面白いと思った。偉大な西洋の民俗学者として、未開文化のエキゾティックな魅力に憑かれて、全人類像を描こうとした学者という意味である。そしてそのようなフィールドワークをアマゾンで最初で最後に行なったのが1936年ごろの話と聞いてなるほどと合点が行く。いきなり脱線するがまさにアルピニズムのヒマラヤ探検や鉄の時代に相当するのである。そこでもそのエピゴーネンは長く戦後にも続くが、その後の流れはお子ちゃまの探検ごっこになるのである。

学問的に、所謂文字の無い文化を観察するという行為自体が、西洋の優越感に満ちた視点で未発達な文化を観察して、それをその世界観の中で認識すると言う行為に他ならないのである。その認識の仕方として、二項対立のパラメーターを「用心深く選ぶ」ことで、分析可能となりそこではじめて抽象化・一般化出来るのは当然というしかない。

その視点を築くためには少なくとも見かけ上の三角法の視点を必要とする訳で、だからこの人文学者は出来る限り自らの文化の大気圏から一度飛び出して異なる大陸や島々を観察する ― 少なくともそれを試みるのである。それにも拘らず、その民族学の求める根源が発見できなかったのは、そもそもそうしたエキゾシズム自体がまるで薪の激しく焚かれたマントルピースの前で居睡りする子供の幻想であったと知る失望から、同時にそれが西洋の近代社会の救いへと繋がらないと「覚醒」したと文学的に解釈される。

そしてその三角法の測量のためには、必ずや必要な離れた二点の距離、要するに文化的差異が必要となるのだが、その二点間で交流が始るや否や、そこには社会的な相対的な重力関係が生じるのは周知である。それこそが摂理であるかも知れないが、まさにそこに「用心深い」行為が生じるのも直感出来るだろうか ― それどころか異文化の接触は西洋近代の終焉を加速させ、それが68年革命へとそして脱構造へと転換されたのは、過ぎ去った二十世紀後半の既知の歴史である。

クロード・レヴィ=ストロースのある小論文にそこで関心が向う。有名なマネの絵画「オランピア」を解析している。そこに描かれている幾つかの興味深い点を指摘している。先ずは、豊かだが可愛い胸元を口を開けて観察している我々にはどうしても気になるかもしれない裸女の足元でこちらを見る黒猫の目である。それと同時に、今入ってきたばかりかのような黒人の召使の動きのある姿勢であろうか。すると今度はそれに対照的にまるで静止画のように固まっている主役の女性がまた気になってくる。まるで、猫や召使の存在に気がついていないかのようであると。

黒猫の目を意識しながらもその視線を避けるかのように、その女性を今度は肝を据えてゆっくりと観察すると、首に捲いてある黒いリボンがどうしても気になるのである。なにかのバランスを取るためかとこの人文学者は考える。そして左手で隠してある恥丘と陰毛が気になったようである。彼女はブルネットだけどもそのリボンの結び方などをみて、欠けているのは陰毛と確信するのである。しかし流石に知能の高い人文学者だけのことはある、そこでは終らない。なぜ彼女が固まっているかとどうしても気になって、此方にいる画家との関係に妄想し始めるのだ。

少々端折って書いたが、このあくまでも専門的な批評とは異なる観察者が弁明している文章は、上に呈したこの二十世期の学者の自己を含んだその存在や行為の本質を示唆するような大変旨味のある自画像だと感じた。これを読んで、こちら側は作曲家リヒャルト・シュトラウスの楽劇「ザロメ」のユダヤ人の場面や楽劇「ローゼンカヴァリエ」の黒人のお小姓の登場場面を中心に、どうしても気になって来た。



参照:
Die Arbeit des Augenblicks, Hennning Ritter, FAZ vom 5.11.2009
旨味へと関心が移る展開 2009-11-07 | 文学・思想
感性の嗜好を認知する行為 2009-11-02 | マスメディア批評
駒落としから3D映像へ 2005-10-19 | 雑感
三角測量的アシストとゴール 2005-07-01 | 歴史・時事
ゴットフリード・W・ライプニッツ 2004-11-18 | 数学・自然科学
衝撃の統計値 (クラシックおっかけ日記)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 旨味へと関心が移る展開 | トップ | オープンに対応出来るとは »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿