週末は遊び呆けた。遊びといっても何処にでも鼻を突っ込むのだから、とてもややこしい問題を目の当たりにしてしまう。ワイン街道に住んでいるというだけでなんら利害関係も直接的な経済的な影響もないのだが、ワインを探しているうちに思い掛けない世界にまで入り込んでしまったような感すらある。何の得にもならないのだが関心を引かれてしまうのだ。
今回の「事件」は、ラインガウの名門醸造所フォン・ジンメルンを舞台にして展開している。そもそも醸造所には9月1日に発売されているべきであった、注文したグランクリュワインを取りに行ったのである。高価なものであるので限られる数しか買わないので、出来れば試飲して、買ったものは二年以上は寝かすつもりで態々出向いたのである。
いつものように粛々と試飲を始めて、期待と不安に胸を膨らましていよいよグランクリュの場所へとやってきた。そして、危惧していたようにお目当ての地所「バイケン」のグランクリュは無く、地所「ヴィッセルブルンネン」だけがそこにあったのだ。まあ、それだけ人気があり売り切れるものだから試飲出来ないのは仕方ないと思った。
態々高速を走らせフェリーに乗って出かけてきた甲斐はなかったが、それでも午前中にハッテンハイムの地所を散策して2009年度の出来を観察して来たので良しと考えた。とにかく甘口のヴィンテージものまでを含めて一通り試飲した。
甘口の状態も悪くはないが、やはりこの醸造所の持ち味は辛口が二年程経た時の旨味のある熟成感だと認識する。そして売るものが少ないからかテーブルの上にはチーズ等も置いていないと若干がっかりしていると、話掛けられる。
「あの話聞きました?」、「なんです!?」
「バイケンのグランクリュは、エルステスゲヴェックスとして審査に通らなかったのですよ。だから、注文をキャンセルして貰っても良いですよ」
「なんですって!」
「バイケンがね、VDPでは凄く評価が良かったのですが、ヘッセンの審査に通らなかったので、シュペートレーゼとして従来どおりに出します」と言うのだ。
「今年初めてグローセスゲヴェクスとして発売される筈だったんですよね」
「そうですよ。確か、日本の方と9月に来られたときに試飲されたと思いますが」
「飲んでませんよ。残っていたのはヴィッセルブルンネンだけで」
「試飲出来ますから、飲まれます?」
「もちろんですよ」
なるほど、少々酸が弱いかと思った。それでも糖比重96エクスレ、残糖7.3G、残酸7.4Gでアルコール13%は立派な数字である。
「スレートのワインが分かっていないんですよね」と仰るので、「石灰ですよ。石灰を含んでいないという意味が解っていないのですよ」と断言した。
「バイケンはプフェルツァーヴァインですからね」と私は慰められる。
要するに、高級ドイツワイン協会はこの地所の独自の意味合いが分かっているからグロースゲヴェックスとして賞賛したのだが、州の公的機関は独自のエルステスゲウェクスとしてこれを認めなかったのである。
その基準にはそれほどの差があるとは思わないが、検査の時点でその潜在力をどのように計るかで異なるのである。公的機関・VDP・評価本など基準はかわらなくともその求めるものによって評価が異なっても仕方ない。そして、それが政治的な動きとして統一の見解への合意を妨げなければ問題ない。
結局、我々消費者にとっては、美味く安いワインを探すこと以外にはないのだが、その二つの基準すら求めるものによって異なるのである。そしてそれは、食事の質や酔い心地など単純な味覚を越えた感覚に左右されるものであって、客観的な判断などは不可能なことは言うまでもない。それでも自分自身にとっては、またそれを直接奨めたいと思う人にとっては、揺るぎない判断基準が存在するのは繰り返すまでもない。
お蔭で、グランクリュ価格で22,50ユーロであった同じものがシュペートレーゼとして18ユーロにて購入出来た。そして一本余計に試飲のために購入した。分からない者に飲ます余分はない、それを自分が飲めればそれで良いのだが、それでもやはり残念であった。もちろん同じように予約していた常連客は全く動じる様子がない。私などよりも遥かに古い顧客のように窺えた。
参照:
ヨーロッパ版のWindows 7のパロットスクリーン。 (タイポグラフィ)
艶消しが燻し銀とはならず 2009-09-18 | 試飲百景
熟成の秋を待つ初夏の日 2009-05-18 | ワイン
今回の「事件」は、ラインガウの名門醸造所フォン・ジンメルンを舞台にして展開している。そもそも醸造所には9月1日に発売されているべきであった、注文したグランクリュワインを取りに行ったのである。高価なものであるので限られる数しか買わないので、出来れば試飲して、買ったものは二年以上は寝かすつもりで態々出向いたのである。
いつものように粛々と試飲を始めて、期待と不安に胸を膨らましていよいよグランクリュの場所へとやってきた。そして、危惧していたようにお目当ての地所「バイケン」のグランクリュは無く、地所「ヴィッセルブルンネン」だけがそこにあったのだ。まあ、それだけ人気があり売り切れるものだから試飲出来ないのは仕方ないと思った。
態々高速を走らせフェリーに乗って出かけてきた甲斐はなかったが、それでも午前中にハッテンハイムの地所を散策して2009年度の出来を観察して来たので良しと考えた。とにかく甘口のヴィンテージものまでを含めて一通り試飲した。
甘口の状態も悪くはないが、やはりこの醸造所の持ち味は辛口が二年程経た時の旨味のある熟成感だと認識する。そして売るものが少ないからかテーブルの上にはチーズ等も置いていないと若干がっかりしていると、話掛けられる。
「あの話聞きました?」、「なんです!?」
「バイケンのグランクリュは、エルステスゲヴェックスとして審査に通らなかったのですよ。だから、注文をキャンセルして貰っても良いですよ」
「なんですって!」
「バイケンがね、VDPでは凄く評価が良かったのですが、ヘッセンの審査に通らなかったので、シュペートレーゼとして従来どおりに出します」と言うのだ。
「今年初めてグローセスゲヴェクスとして発売される筈だったんですよね」
「そうですよ。確か、日本の方と9月に来られたときに試飲されたと思いますが」
「飲んでませんよ。残っていたのはヴィッセルブルンネンだけで」
「試飲出来ますから、飲まれます?」
「もちろんですよ」
なるほど、少々酸が弱いかと思った。それでも糖比重96エクスレ、残糖7.3G、残酸7.4Gでアルコール13%は立派な数字である。
「スレートのワインが分かっていないんですよね」と仰るので、「石灰ですよ。石灰を含んでいないという意味が解っていないのですよ」と断言した。
「バイケンはプフェルツァーヴァインですからね」と私は慰められる。
要するに、高級ドイツワイン協会はこの地所の独自の意味合いが分かっているからグロースゲヴェックスとして賞賛したのだが、州の公的機関は独自のエルステスゲウェクスとしてこれを認めなかったのである。
その基準にはそれほどの差があるとは思わないが、検査の時点でその潜在力をどのように計るかで異なるのである。公的機関・VDP・評価本など基準はかわらなくともその求めるものによって評価が異なっても仕方ない。そして、それが政治的な動きとして統一の見解への合意を妨げなければ問題ない。
結局、我々消費者にとっては、美味く安いワインを探すこと以外にはないのだが、その二つの基準すら求めるものによって異なるのである。そしてそれは、食事の質や酔い心地など単純な味覚を越えた感覚に左右されるものであって、客観的な判断などは不可能なことは言うまでもない。それでも自分自身にとっては、またそれを直接奨めたいと思う人にとっては、揺るぎない判断基準が存在するのは繰り返すまでもない。
お蔭で、グランクリュ価格で22,50ユーロであった同じものがシュペートレーゼとして18ユーロにて購入出来た。そして一本余計に試飲のために購入した。分からない者に飲ます余分はない、それを自分が飲めればそれで良いのだが、それでもやはり残念であった。もちろん同じように予約していた常連客は全く動じる様子がない。私などよりも遥かに古い顧客のように窺えた。
参照:
ヨーロッパ版のWindows 7のパロットスクリーン。 (タイポグラフィ)
艶消しが燻し銀とはならず 2009-09-18 | 試飲百景
熟成の秋を待つ初夏の日 2009-05-18 | ワイン
>「バイケンはプフェルツァーヴァインですからね」と私は慰められる。
というくだりで思わず吹き出してしまいました。
>「石灰ですよ。石灰を含んでいないという意味が解っていないのですよ」と断言した。
などとのくだりは、
さすが師匠です。
州の検査官はどういう基準で
落としたのでしょうね。
このバイケンのグランクリュ落ちは、
ちょっと信じられないです。
試飲してみたいです。
どんな感じでしたか?
やはり2・3年待たないと、
本領は発揮されないのでしょうか?
それは多くのラインガウのエルステスゲヴェックスが石灰を多く含んでいるエルステラーゲの葡萄から醸造されている事と対極にあります。
要するに一般的なラインガウのエルステゲベックスはシーファーのあたりと香りで州立のロットラントに代表されるようなものを基準にしているかと思います。もちろん、ヴァイルのグレーフェンベルクなどが典型的なグローセスゲヴェックスです。その中にあって、バイケンは香りは高いものの細身でシーファーの分厚さがないのです。
このシュペートレーゼは一本余分に買いましたので審査官を審議するために近いうちに開けてみようと思いますが、一度でも開いたものを味わったことがあればはじめからその潜在力は判ります。よく似た例はフォルストのペッヒシュタインで、綺麗に開くまでに最低二年は掛かります。
余談ですがVBのペッヒシュタインは州立のグランクリュの醸造法と似ていますね。
このシュペートレーゼもカビネットよりもより時間が掛かることは間違いありません。去年飲んだ2005年産は凄かったですが、これもそれを越えると思います。但し、飲み頃を計るのはとても難しいです。そしてこの醸造所のヴィリアムスビルネシュナップスのような熟れ方に馴染む必要があります。
ブログデザインが今のになって読みやすくなりました。
しっかし、スレート土壌のミネラル感の方が美味しいと思うのですが・・・評価基準も私には難しいです。
ところで、今は石灰土壌の方が評価が高いですか?!
さて、スレート土壌の旨味はこの話題の基本にあるのですが、バイケンはそれが新しいうちは表にでないところに深みやら熟成の面白さがあります。
石灰質土壌の評価が必ずしも高いのではないのですが、ラインガウワーの多くはスレート味がそれによって丸くなっているので開くのも早く熟成香(例のオイリーに通じる)も出易くなり、評価が出易いのです。
グローセスゲヴェックスに求められるのは寧ろ大器晩成だと思うのですが、どうもエルステスゲヴェックスは違うようです。すると、20ユーロも出して早く消費してしまわないといけないワインはやはり刹那的で高過ぎると思うのです。
だからというわけではないのですが、高いな~~と思いながらもVollradsで大枚はたいてしまいました。
あけるのは2年後といたしましょう・・・・
フォルラートも日本で古いものを飲ませて貰った事があるのですが、酸が丸くなって熟成したような感じで飲む、典型的なラインガウワーなのでしょう。残糖値が高く些か残糖感がある傾向と認識してます。
その点からバイケンは唯一無二の地所なんですね。しかし新鮮ということは新しいうちは酸が強いことになります。
全般的にラインガウの地所は泥濘が多く散歩には向きませんね。シュタインベルクなどがまだマシな方です。つまり、湿気も高く粘土質となるとどうしてもリースリングの味も重くなり、良い地所は意外に少ないと思ってます。