Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

湧き騰がる香りと血潮

2006-03-04 | その他アルコール
シュナップスと聞くと黙ってはいられない。と言うか血が騒ぐ。それほど強いアルコールを飲みつけていた訳ではないが、以前は深夜まで何かをして頭のクールダウンにスコッチをよく愛飲した。ブランデーもワイン産地で作られるが、ブランデーが 適 当 な 葡萄とワイン樽を必要とするので、厳密に言えば醸造のためのワイン栽培とは相容れない。だから其処に住むようになるとどうしてもワイン蒸留酒(ヴァイン・ブラント)への評価が下がるらしい。同じ飲むなら林檎から作ったブランデー・カルバドスを好む。

それとは別にシュナップス類と言う蒸留酒類が存在する。特にイタリアのグラッパを初めとするワインを原料とする蒸留酒(へーフェ・ブラント)は、ワイン産地で一般的である。ブランデーと最も違うのは、醸造に使った日本酒の酒粕に相当するであろう溜まった酵母(へーフェ)を使い、その独特の香りを漂わす製法と味である。グラッパも上等になると大変に品が良い。

シュナップスの原料として、果実やナッツ類、高山植物から根っ子、芋や穀物類とアルコール化する糖さえ存在すればありとあらゆる可能性がある。果実類では、サクランボやアプリコットや梨から蒸留した定番のキルッシュヴァッサー、ミラベル、ヴィリアムスも良いのだが、オーストリアの谷間に入ると所々で密造酒のような美味い物が飲める。普通に買えるプラム類のツヴェッチケやハーゲンブットなどは、其々果物やハーブティーとしてだけで無くシュナップスとしても美味い。ナッツ類もその香ばしさなど侮れないが、何と言っても植物の根っ子類は漢方薬の傾向が強まる。これを若い田舎のお運びの娘に特別注文すると、カウンターの裏にいる両親や常連席の親仁達に相談しに行く。

もしこの傾向のシュナップスが店にないとすると、親仁達の面子や沽券に関わる。常連の親仁達が弁解を言い出す事もあるのだ。だから、「君達、子供のような酒を飲んで大人面してカードなどに興じてはいけないぞ」と言う顔で、こうした店中がそわそわした様子を眺めるのが楽しい。それでも擦れたお運び娘になると、「そんなのは家の爺さんの飲みもんだ。」と笑われるのが落ちである。それでも仕方が無いなと言う顔を繕って、代わりにジャガイモや麦のシュナップスを注文する。

マーチで有名なツィラータールでスキーを敢行した時の事が思い出される。広い谷ゆえに農業も発達して裕福で物価が安いと知っていたので、早速スポーツ用品店に顔を出した。開店間際のお店をうろついていると、親爺がご機嫌そうな顔で「一杯飲まんか、シュナッピ、ほれ、ヴィリアムスだ。」と盆の上に並べたショットグラスを勧めるのである。「朝から」と躊躇うと、「一杯飲んだら、滑りが早うなる。」と言って勧め上手であった。豊かな社会とはこういう事を指すのかと思って、夕飯には生まれて初めて食するカモシカの肉でノイジードラーゼーの赤ワインを鱈腹飲んだ。勿論、腹ごなしにはこの秘薬を引っかける。

思い出したが、二年前の山篭りで何日目かに少し目標を達成した夕飯後、同行の皆にシュナップス一巡を振舞った事があった。世にも美しいエンツィアンの根っ子のシュナップスを山小屋に見つけ、これを配ろうとすると、「ヴィリアムスならいいけど」と言う輩が出てきた。エンツィアンを摂ったのは、結局親爺三人だけだった様に記憶する。そのメンバーの不甲斐なさは嘗て記したが、「男なら黙って苦味を利かせ」と言いたかった。既に気炎を上げていたお詫びの振る舞いであったので、我慢をした。ブランデーを燻らせる柔なフランス人を見下すように-実際フランス人の客も居た-「男子たるや親仁シュナップスを飲め」と言うと、実は 虚 勢 だ け で 性 根 の 無 い 出来の悪い大日本帝国陸軍鬼軍曹のように思われるといけないので、シュナップスで沸き上がる苦味と共にぐっと唾を飲み下した。(フェリエンログの記事に触発されて特別投稿)



参照:
リンドウ - Der Enzian [ その他アルコール ] / 2004-11-19
お花畑に響くカウベル [ 音 ] / 2005-06-23
北オランダからはゴウダー [ 料理 ] / 2005-07-19
オェツィーと現代の人々 [ アウトドーア・環境 ] / 2005-08-20
コメント (11)
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