高校教育無償化と憲法の関係

2017-08-21 00:00:29 | 市民A
日本維新の会を改憲組に引込むため、自民党総裁が、維新の会の政策目標を憲法に書き込もうという趣旨の発言をしているのだが、果たしてそれを維新側が強く望んでいるのか、はっきりしていないように感じている。自民党総裁は高校どころか幼児から大学まで無償にしたいと言い出しているのだが、元々民主党政権の時に公立高校授業料無償化をしたことを「民主党の失敗政策」と評価し、有償化したわけだ。

もっとも、先週、池袋の駅前で右翼の街宣車が「安倍は右翼でも言わないような激しい主張をするのだが、実際には何もできないボンボンだ」とがなりたてていたように、思いつきで言葉が口からでてくるタイプの政治家なのだろう。「今でも自衛隊が違憲だという法学者がいるから憲法を変える」というのもずれているような気がするのは、法学者というのは弁護士や裁判官じゃないのだから、憲法の効力だけを論ずるのではなく、法律の体系とか各国の差とか、憲法内の矛盾点とかさまざまな角度から研究しているのだから、「こう考えてはいけない」というような発想で学者を論ずるのもおかしい。

で、話を拡げないように「教育」という観点から見ると、現憲法では第26条(教育権)で2つの項を規定している。

1.すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

2.すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務強育は、これを無償とする。

第1項は文字通り、国民は教育を受ける権利をもっている、ということ。じゃあ、教育を提供するのは誰かというと、いきなり難しい。国ということなのか、あるいは民主主義なのだから国=国民なのか。また大きな問題ではないが、憲法には「国民」「日本国民」「何人(なんびと)も」という3種類の言い方があり、在日外国人はどうなるのかということになる。(もっとも憲法は、単に漠然と理念を書いてあるのだから、細かな解釈は個別に法令を作って対処すればいい、という考え方もある)

そして第2項。国民はその子女に法律が定める内容で、普通教育を受けさせる義務がある。というのが最初の意味で、義務教育の主体は、こどもの親が指定されている。

そして、義務教育は、これを無償とする、という部分は義務教育=タダということ。このタダの内訳に教科書代や教材費、修学旅行の費用は含まれないというような下品なことは書かれていない。教科書をタダにしてほしいという裁判があって、裁判長が「タダはダメ」といったということ。しかしその後、公立学校の教科書はただとなっている。また「高校が無償でないのは憲法違反だ!」という裁判があったわけではないが、あっても「憲法で、法令に定めると書いてあるのだから憲法裁判にはならない」と一蹴されるのだと思う。

では、どういう法律で決まっているかというと教育基本法。戦前の教育勅語が廃止になり、教育についての国の基本的な方針が書かれているのだが、義務教育は9年間とするとなっていて、さらに学校教育法の中で、公立の小学校と中学校は授業料がタダで、特例として教科書もタダ、となっているわけだ。

論点をまとめると、

1.「義務教育」と「教育無償化」は別の問題で、義務9年だが無償は12年とか20年とか別に決めればいいわけだ。

2.もともと憲法には小学校と中学校が義務教育だとは書かれていない。つまり教育基本法や学校教育法を部分改定し、その中で、義務の範囲と無償化の範囲を別に決めればいいのではないかと言えるわけだ。

(もっとも維新の隠れ党首は弁護士なのだから憲法のロジックを知らないわけはない。)

また、私見だが、タダにすべきは、高校ではなく幼児教育ではないかと思っている。トマトの苗の話で恐縮だが、細くてひょろ長い苗に大量に栄養を与えてもうまく育たない。小さくても元気のいい苗の方が、結局、大きくなるわけだ。

なお、世界的には「9年間」は中の下のようだが、あまり大差はない。その国によって考え方が違うということだろう。ちなみに日本の高校進学率は97%で、問題は学費ではなく教育の質だと思っている。大学へ行く高校生はしかたなく勉強するが、大学に行かない高校生は、まるで何も勉強しない生徒が多いと思う。


そして、これで終わると内容が空虚なので、現行憲法や教育基本法(旧)の成立の話だが、日本国憲法は大日本帝国憲法の規定の中の憲法改正の手続きに即して行われている。大日本帝国憲法(1889年~1947年)では、勅命により憲法改正案が審議され、衆議院と貴族院がそれぞれ3分の2以上で決議して成立となっていた。勅命によるというのは帝国だったからで、実際には憲法改正は、日本国憲法への改正の最後の1回しか行われていない。

そして、現憲法は衆議院でまず修正が行われ、さらに貴族院で修正が行われ、その最終修正案を再び衆議院で可決して成立している。そして、憲法改正に伴って教育勅語が廃止になることが確実になったため、その代わりに教育基本法が成立し、教育勅語が廃止になった。その過程で小中学校の無償化について帝国議会で質疑応答があり、「国力の許す範囲は今のところここまで」ということになった。もっとも1946年当時、70年後の教育現場を想定したわけではないだろう。