On a bench ブログ

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観たDVD カズオ・イシグロ 文学白熱教室

2022年02月14日 | 本・文学

 

 これは、ちょっと恥ずかしい目的で見てしまったDVD。

 先月の終わりだったか、たまたま行った図書館に偶然置いてあって見つけたDVDだったんだけど、しかし実はこれまで、ぼくはカズオ・イシグロの本は1冊も読んではいなかった。

 ただ、彼についてはノーベル文学賞受賞時をはじめとして都度都度大きく報道もされていたので、人並みにはずっと興味があるつもりではあったのです。でも、それがいつまでたっても、「うーん、一番有名な『日の名残り』って、イギリスの年老いた執事の回想みたいな話なのか。どうもちょっとねえ・・・」みたいな感じで、手つかずのまま。もしかしたら、本当にこのまま、全く彼の一端にも触れないで終わってしまうことだってあったかもしれない。

 ところが、手に取ったこのDVDの裏を見ると、そのカズオ・イシグロが「自作を紐解きながら学生たちに文学の神髄・創作秘話を語った」と書いてある。

 つまり、これを見れば作品を読まずともとりあえず彼の人柄や作品のことも多少は分かるのではないか、と思ったわけ。我ながら、ちょっとズルしているような気もしたが、しかしこのまま何もしないよりマシではないかと。

 で、実際に観てみた感想はというと、すごく面白かった。

 この講義は、ノーベル賞受賞の2,3年前に氏が来日した折りに行われたもので、2,30人の学生が入るくらいの小さい部屋でちょこんと椅子に座った氏を学生が囲むような感じで話すという形式のものだったのだが、まず手ぶらで何の資料も持たずに気負いもなく学生たちに向き合い、随時質問も受けつつそれに率直かつ真摯に答える氏の姿がすごく素晴らしい。

 この辺り、これが日本人だったらきっと照れや衒いが出てくることが多いんだろうし、オープンに質疑応答を自然かつスムーズにこなすということも、きっと議論を多く行う国民性が背後にあるんだろうなあ、なんてことを感じてしまった。何て言うか、そんなこの講義の様子だけでも、すでにちょっと俄かファンになりかけてしまったんだけど。

 で、肝心の講義についても、自分が小説を書き始めたきっかけ、それに関連して日本との関わりや日本への思い、小説とは何か、なぜ小説を読むのか、そしてテーマとして大きく浮かび上がる人間の「記憶」についてなど、一貫してすごく率直に語っていて、本当に素晴らしい。

 人は、受け入れがたい現実を目の前にして、自身の記憶をそれと知らずに改変してしまったりもするし、都合の良くないところだけ意識の底に隠してしまうこともある。また社会全体でも、その社会を保つために似たようなことを行うことがある、と・・・。

 また、学生たちも欧米系からアジア系、また英語を話せない日本人などすごく多様で、質問も臆せずにどんどんするし、そのレベルもいろいろだったのもすごく面白かった(それを、ひとつひとつイシグロ氏は丁寧に拾っていた)。

 いやあ、こういう授業、彼だけでなくもっといろんな作家について聴いてみたい。例えばノーベル文学賞にしたって、毎年誰かが選ばれているのだが、けっこう名前も聞いたことがない人が多いという印象だし。しかし、当然ながら彼らには選ばれる理由があったわけでこちらが知らないだけなわけだし、それをこういう形式で紹介してくれると、すごく面白いと思うんだけど。

 ひとりずつ的を絞れば、YouTube なんかにインタビューとか落ちているんだろうか。

カズオ・イシグロ 文学白熱教室 PR動画

コメント
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