今日は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲のCDを聴く。
実は買っていたのは2,3年くらい前で、ぼくの好きな第2&4番の組み合わせであることと、ジャケット写真のシュテファン・シュトロイスニヒという未知のピアニストの物憂げな感じにちょっと惹かれてゲットしてみたんだけど、しかしその当時は全く印象に残らず。
演奏自体は、普通にきれいに弾いているとは思ったのだが、しかしその演奏に特に何か特徴があるわけでもなく、本当に最初から最後までただ普通なまま終わってしまうという感じで、何かほかで活躍して話題になっているピアニストでもなさそうだし、一体このCDがどういう経緯で企画されたのだろうと、ちょっと首をひねったりもしたものだった。
しかし・・・、そう思っておきながら、不思議に何か心に残るものもあって、それ以後たまに思い出しては聴き返してしまうというパターンに。そして、何度かポツポツと聴き返すうちに、だんだんとこの演奏に好感とまではいかないが、肯定的な気持ちも芽生えてくるようになってきた。
そして、そうなると自然にこの演奏がどう評価されているのだろうという興味も出てきて、こないだからちょこちょこネットで検索してみたのだが、しかしやはりというか、どうも世間的にも評価はあまり芳しいとは言えない。というより評価自体が少なくて、まとまったコメントを探すのに苦労するくらい。
というのも、やはり演奏している曲目自体が2曲ともベートーヴェンのピアノ協奏曲の中ではやや地味な作品であることに加えて、シュトロイスニヒというピアニスト自身の演奏が、流麗で繊細なピアニズムの持ち主であるとはいえ、いかんせん個性が強いほうではなく、はっきりしたアピールポイントが見出しにくいという点が大きいのではないかと思う。
しかし、考えて見ると、それならそれで最初から不思議な話ではあるのだ。
というのも、この人は自身初めてのベートーヴェンのコンチェルトのCDを録音するという人生でも大きな機会にあたって、もっと演奏効果が大きい曲を選んで少しでも多くのリスナーにアピールしようとすることもできたはずなのに、わざわざこの「第2&4番」という地味な組み合わせを敢えて選んで、しかもCDのデザインの面でもなぜかこんな暗めの物憂げなジャケット写真を採用しているのだ。
そして、これまでの経験で自分の演奏がどのように聴き手に受け取られるかもある程度は予想がついているはずの中で、いくらなんでもこれでは戦略がなさすぎではないだろうか。それとも、それでもなおこの2曲にこだわる理由が何かあったのだろうか。
・・・なんてことを考えるうちに、いやむしろ、もしかするとこの人はこの機会に大向こう受けを狙ってガンガン行くみたいな俗っぽいことを最初から考えていたのではなくて、このCDの演奏こそが彼の狙い、この選曲の組み合わせも演奏スタイルも、自分がこの時点で演奏したかった曲を自分流の美意識で演奏しただけで、むしろ積極的に選ばれた結果なんじゃないかとも、少しずつ思い始めたのだった。
実際、ここでのベートーヴェンは、数多ある先達たちの名演奏による演奏像からは、どこか根本的な何かしらが少し異質、というか焦点がずれているようにも思える。
一体、このピアニストはどこにいて、どこを向いて演奏しているのだろう。何だか、力感を出したり技巧的なキメみたいなものに執着がなく少し寂しげでニュアンスに富む感じは、シューベルトっぽい感じもするんだけど・・・、んっ、そう思ってジャケット写真を改めて見てみると、本当に何だか、シューベルトにこそ使いたくなるような写真にも思えてきたんだが。
そして、シューベルトといえば、先日読んだネットの記事にも、この人はリサイタルでシューベルトの最後のソナタをよく弾くと書いてあったし、そんな意識をもって改めてこのCDを聴き直してみると、ここでの演奏の表現は、目につくパッセージがことごとくベートーヴェンの硬質な力感や、決然とした意志みたいな演奏とは対極にあるような、柔和でニュアンスに富んでいる世界。
例えば第2番の第一楽章のカデンツァなんて(第2番ほどではないが、第4番でも同様に)、ふと弱音になったり歩みが止まりそうになったりもして、ここだけ抜きだして聴くと半分くらいシューベルトの未知のソナタの一節にも思えてきてしまった。
というか、この「第2&4番」という組み合わせこそが、そもそもベートーヴェンの協奏曲の中ではやや内省的で歌心があるという面を含んでいて、シューベルトの世界に多少とも近しい世界といえるのではないか。
・・・と、さっきから深夜にひとりでこんなことを妄想していたのだった。
実際、シューベルトがもし夭折せず、のちにピアノ協奏曲を書くことになっていたとしたら、どんな雰囲気の曲になっていたのだろう。
あるいは、シューベルト好きのピアニストが、どうしても協奏曲を演奏するとなって他の作曲家の作品の中にシューベルト的な響きを少しでも見出そうとすれば、それはどの曲で、どんな演奏になるのだろう。もしかすると、このCDと同じような選曲と演奏とになってしまったりするのではないか・・・。
日本語解説の中には、シュトロイスニヒ自身のコメントなどは全くないので、本人がどう思っているか現時点でぼくは全く知らないのだが、とりあえずはまあ、今回は以上のような感想でございました。
↓(このCDの演奏は見つからなかったので、参考までにシューベルトの最後のソナタの演奏を貼っておきました)
Piano Sonata No. 21 in B-Flat Major, D. 960: I. Molto moderato