Olivier Bogé(sax) Tigran Hamasyan(p) Sam Minaie(b) Jeff Ballard(ds)
これは、外で何度も聴くうちに、だんだん気に入ってきたアルバム。
前にも書いたことがあったと思うけど、ぼくは通勤などの外出時には大体いつもCDを聴いていて、そのCDがあまり面白いものじゃなくても、ついCDを入れ替えるのが面倒で、何度も繰り返し聴いてしまうことがある。そうすると、中にはそれで徐々によくなってきて、結局「家聴き」盤に昇格してしまうこものが出てきたりするわけで。まあ、これもそういう盤のひとつ。
で、この盤。もとは Tigran Hamasyan と Jeff Ballard という、以前から知っている人が参加しているといういわば「信用」で拾ってみた盤だけど、どうも最初は肝心のリーダーのサックス奏者の印象が弱くて、音楽が耳に入ってくるまでにちょっと手間取ってしまっていた。
でも、それが聴いていくにつれ、まずは Hamasyan の、彼の魅力を感じる曲を足掛かりにして、段々とコンテンポラリーな音楽性と、Olivier Bogéその人の独自性みたいなものを感じるようになって、これは演奏自体の熱みたいなもので聴き手を惹きつけるというよりは、例えば暗闇みたいな中に陽の光が射してきたようなジャケットを見てみても、かなりスピリチュアルな世界観を持っている人で、そういう精神性みたいなものが前面に出てきている人ではないかと思い直したのだった。
実際気づけば、この「The World Begins Today」というタイトル自体、フランスの盲目の詩人で、第二次大戦中にドイツに対するレジスタンス運動に参加して強制収容所に収容された経験があるというjacques lusseyran(ジャック・リュセイラン)によるかなりスピリチュアルな雰囲気の詩の一節だということだし(ブックレットに引用されている)、また別の「SEVEN EAGLE FEATHERS」という曲は、これも HENRI GOUGAUD (アンリ・グゴー)という作家・詩人の「Les Sept Plumes de l'aigle, récit de vie de Luis Ansa」という南米のインディオの世界を扱った作品から採ったタイトルで(内容はよく分からないが、やはりスピリチュアル的な雰囲気の本なのではないかと思う)、その一節もやはりブックレットに引用されている。
また、このOlivier Bogé、サックスだけでなく実はピアノも得意なようで、アルバム中の2曲では Hamasyan でなく彼自身がピアノを弾いているし、その1曲ではひそかにヴォーカルもやっていたり、やはり頭の中のことに若干比重がかかっているタイプ(少なくともこのアルバムでは)のではないか、という感じ。まあ、この先あまりスピリチュアル方面に傾きすぎられてもちょっと困るんだけど。
で、ここからはちょっと音楽からは話が逸れるんだけど、さっきそのジャック・リュセイランやアンリ・グゴーという、自分にとって未知の作家の名前をちょっと調べてみて思ってしまったのは、何と言うか、この日本から見ての、現代フランスとの「疎遠さ」みたいなもの。
ぼくなんて、かなり自分の興味の範囲の振幅の大きい人間だからなおさらかも知れないけど、どうも現代のフランスという国について、すごくメジャーな国にしては日ごろ接する情報がすごく少ないというか、その結果知識も少ないままだし、フランスについて考えることももちろん少ないしで、何だか全体が謎の国みたいに思えてきてしまったのだった。実際、普段ふつうにこの日本で生活していて、最近の話題としてパッと思いつくのはせいぜい大統領の名前とか、昨年のサッカーのワールドカップ優勝くらいのもの。
例えば音楽は、ドビュッシーやラヴェルが活躍したのは100年も前の話だし、まだシャンソンみたいな音楽が人気なのか、それともやっぱりフランスでもロックが人気なのかもよく知らないし、画家なんかでもせいぜいマティスくらいまでの世代しか知らない。映画はアラン・ドロンやゴダールもヘタをしたらもう半世紀くらい前になるし、もっと最近はというと、ホントにせいぜいリュック・ベッソンとかがポツポツ話題になったくらい。人気の海外ドラマとかでも、フランスものって思いつかない。
あと、文学でも全く同じで、ランボーやヴェルレーヌとかは100年前だし、サルトルとかカミュとかでも半世紀前。あっと、メグレ警部を忘れていたけど、それも大分昔の話だし。あと、ウェルベックってわりと最近だけど、あれってフランス人だったっけ?
・・・と、そんなわけで、どうもフランスの知識(興味)って昭和の中頃くらいまでにストップしてしまったというか、肝心の今現在の一般的なフランス人というのが何をどう考えながら生活しているのか、というのがパッとはっきり見えてこないのだ。
そしてこの HENRI GOUGAUD にしても、今調べたところではけっこう著作も多くてフランスではたぶんけっこう有名な作家だと思うのだが、どうやら邦訳された作品は過去に1作のみ。それも、全然売れなかったのか、あまり知られてもいない様子。
きっと、当然ながらフランスには他にも今現役で活躍している作家たちがたくさんいるはずなのに、それを全然知らないまま、こうして時間が過ぎ去っていっているってどうなんだろう。これって日本人のアンテナが届いていないだけなのか、はたまた今一つフランス自体の発信力が弱いのか、なんてことを思ってしまった。
・・・まあ、それはそれとして、この盤については今ではかなり良い盤だと思っているし、あと、このNAÏVEってレーベル、実はこれまで相性が悪くて、最近では見かけてもあまり拾っていなかったので、そういう意味でもまた聴いてみるきっかけが出来て、そういう意味でも良かったかも。