〔曲目〕
モーツァルト:弦楽四重奏曲第4番 K.157、第17番 K.458「狩り」、第22番 K.589「プロイセン王第2番」
今日は、(すっごく)久しぶりにモーツァルトの弦楽四重奏曲集を聴いてみる。
演奏は、1993年にイスラエルで結成されたという「エルサレム四重奏団」。活動歴はもう20年以上ということで、録音もかなりの量があるみたいだけど、ぼくとしてはこれが初聴き。ちなみに、この盤は2011年発売とのことです。
ただ、日頃ぼくも多少は弦楽四重奏を聴くといっても、基本はベートーヴェン以後。それも多くはロマン派や20世紀以後の作品なので、なかなかハイドンやモーツァルトまでは手が伸びない。というのも、やはりどうしてもその頃の室内楽って、他のジャンル以上に王侯貴族のための「サロン音楽」という雰囲気を強く感じてしまうから。
ぼくもはるか昔、半ば勉強のためにアルバン・ベルクQやジュリアードQあたりを聴いてみたことがあったけど、やっぱりどうしても受け付けない面があって、結局あまり近づけないままに終わってしまっていた。
ところが、最近になって比較的録音の新しい(2000年代以後)の、それも若手のカルテットをちょこちょこ聴いてみると、これが意外と以前より抵抗がなく聴けてしまうばかりか、むしろはっきりと「美しい」と感じることも多くなってきた。
というか、最近徐々に強く思うようになってきたのだが、今どきのクラシック演奏家って、もう世代がどうこうとかではなく、根本的に昔の人たちと音楽の発信そのもの(の姿勢というか)が変わりつつあるんじゃないか、という気がしてきている。
例えば、さきほど名前が出たアルバン・ベルクQやジュリアードQなど、概ねLPレコードの時代から活躍していた人たちの世代って、言うなればまだクラシックの伝統の中だけに生きていられたというか、自分たちもクラシック界の人間というだけで良かったし、聴衆も長年クラシックを愛好してきた人たちの厚みというものがあって、その中ですべての物事が完結している世界の中にまだ何とか存在していられた、というような気がする。
そしてそこでは、音楽の表現も特に奇抜な趣向を凝らす必要がなく、それまでのやり方に則った表現をしてこれまでの聴衆に迎え入れられればそれでよかったというか。
ところが、・・・時代は下り、今の21世紀初頭という時点での状況はどうかと考えると、残念ながらクラシックなんてもう完全に「少数派」。たとえ演奏者の家族がたまたま熱烈な音楽一家で、クラシックの英才教育を受けて育ったとしても、しかしそのすぐ外は嫌でもポップスやロックがあふれている世界で昔とは根本的に違うし、ファン層もどんどん先細って、下手をすれば今後自分たちの存在基盤自体が失われかねないような状況に置かれてしまっている。
そんな中で、クラシックでも「保守的」とされてきた室内楽の分野でさえ、これから自分たちが生き残っていくためにはクラシックの世界の中だけを見ているだけではダメで、積極的に外部の人たちに向けてアピールして新たなファンを獲得しなければという外向きの意識が生まれ、それが徐々に演奏にも表れてきているんじゃないか、なんてことを思うことが多くなってきた。
実際、最近の弦楽四重奏の録音を聴き始めてまず驚くのは、誰もがハッと耳を奪われるような、従来にない弦の「美音」で(録音技術の発達も大きいとは思うけど)、特に低音のクリアかつ豊かな響きはそれだけでゾクッとすることもあるし、当然それが合奏になると全体の音の厚みも加わって、まるでもっと大きな弦楽合奏を聴いているように感じることもある。
そしてリズムのキレや強さにしても、昔と比べて質が全然違ってきていると思うし(ポップスやダンス音楽からの影響も絶対にあると思う)、その結果全体の雰囲気としては都会的でスタイリッシュで、ある意味「現代的」と感じたりもするようになった。
そのような変化は、ともすると外面的な面に偏っているように見えることもあり(何となく、求愛のために美しい羽根を競う南国の鳥をイメージしてしまったりもする)、作曲者の精神に肉迫するという音楽の本質とは多少離れたりするのかもしれないが、しかし自らの世界の存立の危機においての生存本能の発露とみればそれも当然だし、それに何よりアグレッシブに新しい方向性をどんどん推し進めるのは、いつだってすごく健全なことであるはずだ、と思ったりもする。
・・・というわけで、今回は何だかCDの感想とは趣が少し違ってしまったけど、このエルサレムQのモーツァルトにしても、大筋の感想はほぼ上の通り(現代のSQとしては、かなり端正で丁寧な演奏をするほうのように感じた)。
3曲の演目の中でこれまで個人的に一番親しみがあったのはご多聞にもれず第17番の「狩り」だけど、昔の演奏ではどちらかというと絵画に描かれた「昔の狩り」みたいな印象だったのが、この演奏ではやはりアンサンブル自体に迫力があって、同じ狩りだとしてもずっと生き生きして身に迫ってくるような感じ。
あと、この盤は全集企画ではなく、1枚もののセレクトとして選曲にもかなり力を入れていると思うんだけど、これまで記憶に残っていなかった冒頭の「弦楽四重奏曲第4番 K.157」が、特に第二楽章なんてすごく良くて、この曲聴きたさに何度も繰り返し聴いたりしてしまった。
2000年代、2010年代の演奏となると、ハイドンもモーツァルトもまだ未聴曲ばかりということも言えるのかもしれない。未知の弦楽四重奏団で、でいろいろとフレッシュな演奏を聴いてみたいです。
String Quartet No. 17 in B-Flat Major, K. 458 - 'The Hunt': I. Allegro vivace assai