これは、ここ1カ月くらいかけて、主に外出時の移動や待ち時間に読んでいた本。
いやあ、でもこれは長かった。そして、つらかった(泣)。解説を入れると全部で500ページ。でも、とにかく最後まで読んだぞ!(笑)
で、この小説、どういう話かと言うと、主人公はアルドーという、架空の国オルセンナの貴族階級の青年。ちなみにこのオルセンナ、ヴェネツィアを思わせる国で、過去には異民族を打ち負かせて東方貿易で栄えた国なのだが、今ではすっかり老人のように活力を失って老いさびれてしまっているという設定。
その彼が、一応戦争中ではあるとはいえ、過去300年にわたり戦闘もなく敵国と海を隔てて対峙し続けている、海辺のシルトという砦に監察将校として赴任するという話なのだが、しかし特に前半は物語の展開が異様に遅く、かつ大きな出来事もなく主人公の独白が延々と続いていくという感じで、1ページ全部が改行もほとんどなく字で埋め尽くされていることなんてこともザラ。
しかも、その展開を一層遅らせるのが「それはたとえば、・・・のようなものだ」みたいな、目もくらむような比喩の大洪水で、それぞれの比喩は詩的でもあり、また十分に作者の人生や物事に対する慧眼をも感じさせるのだが、しかしいかんせん量が多すぎて、ただでさえ細かいところを読み飛ばしてあらすじばかり追ってしまうクセのある自分を、迷路の中のように迷子にしてしまう。
ということで、最初の内は戸惑うばかりだったのだが、途中からはこの小説はむしろこの比喩の洪水を味わうものなのかもしれないと気づいて、そこからは印象が一転。むしろ、その比喩の海にどっぷりと溺れてやろう、みたいな気持ちで読み進めることに。すると、いつのまにかだんだんと、依然として展開の遅さに苦しみながらも、むしろずっと終わらないでほしいみたいな気持ちも湧いてくるようにもなってきた。
そして、そうするうちに後半になると物語は徐々には進んでいき、全体の2/3を過ぎたあたり、つまり先週あたりからだんだん緊張感が増してきて、結局最後まで敵国との戦争などは起こらないものの、主人公の行動がきっかけになって(か、そうでもなかったのかははっきりとはしないのだが)、最後は明らかに全ての破滅が暗示されるという大きな結末に。
今の時点で自分なりにこの小説全体を見渡すとすると、これは最初から滅亡が濃厚に暗示されていて、ゆっくりと物語が進む中で最後にはっきりとそれが分かるという、平家物語とはまた違った形の滅亡の物語であるともいえるかもしれないし、最初、ただ何も分からないまま300年も眠ったような砦に派遣された貴族の青二才の主人公の行動にしても、実は自分の全く知らないところで自分がそこで為してしまうかもしれないその行動をすでに予想されており、しかもそれが国を滅亡に導くことを承知でもあったという点が最後の最後に明かされる点、物語の構成としてもすごく秀逸に感じる。
ただ、この小説、自分としては青息吐息でやっと1回通読したというだけで、比喩の洪水にしたってよく分からないまま読み飛ばした箇所も多いし、まだしっかりと味わったというには程遠い。
なので、こうして物語の結末が分かった上でもう一度通読したいと思うのだが、しかし一方、この余白の少ない500ページをやっとの思いで踏破したばかりで、またすぐにもう一度これに挑むのはあまりに過酷に思われるのも事実なわけで。
というわけで、しばらくは身のそばに置いて時を待つことになると思うのだが、しかしこの本、自分のこれまで読んできた本の中でも、ものすごく異質な本であることは確か。
実は、数年前に買ってずっと積ん読状態だった本なのだが、あの時ちょっと迷いつつも買っていてホントに良かったと思う、ホントに貴重な読書体験となった本でした。
・・・しかし、こんな本を最初から最後まで丹念に訳す翻訳者の人って、ホントにスゴイな。