〔曲目〕
・ピアノソナタ第9番 ホ長調 作品14-1
・ピアノソナタ第10番 ト長調 作品14-2
・ピアノソナタ第4番変ホ長調 作品7
・ピアノソナタ第28番 イ長調 作品101
また一人、未知の往年のピアニストを知る。
このCD、もともとは中古屋でベートーヴェンの棚を漁っていた時に、初期のソナタが何曲も入っているのに気づいて(全集以外の企画では、かなり珍しい)拾っただけだったんだけど、聴きながらピアニストを調べてみると、これが ANDOR FOLDES(アンドール・フォルデス、もしくはフォルデシュ・アンドール)という、ハンガリー出身のかなりの巨匠と判明。
1913年ブダペスト生まれで、ドホナーニやバルトークの教えを受け、第二次大戦でアメリカに亡命。日本にも来日したことがあったそうです。
また、レパートリーはやはりバルトークなどが目立つものの守備範囲はすごく広く、特にベートーヴェンはかなりよく弾いていた様子。ただ、どちらかというと派手なタイプでなくて実直な演奏家だったので、あまり知名度は高くなかったらしい(それと、現在から見てもうひとつ不利に思えるのが、それなりに少なくはない録音の多くが1950~60年代の初め頃で、特に意識なく聴いてみるには音質的にちょっと厳しい面があるという点)。
で、この盤。
録音は前半の第9,10番が1966年。後半の第4,28番が1963年と、フォルデス50歳あたりの録音。音質としては、なぜか1963年のほうが若干クリアな気がするけど、演奏面では前半の2曲がやや充実している感じ。
そもそも「ピアノ・ソナタ第9番」って、以前から耳にも残っていたし好きな曲だという意識はあったんだけど、なにせなかなかCDに収録されることすらないし、それに曲自体も短いので、ボーッと聴いているといつのまにか終わってしまうことも。でも、例えば第2楽章の主題とかけっこう何気なく思い出すことも多くて、ベートーヴェンのソナタの中で、かなりマイナーな扱いなのが不満にも思っていた曲。
その曲を、このCDが誰によってどういう意図で編集されたのかは全く不明とは言え、こうして冒頭で取り上げてくれているというだけで、もうこのアンドール・フォルデスにちょっと親近感を持ってしまった。
そして演奏自体も、特に前半の2曲は音の粒立ちもいいし、表現も最近のピアニストからはどうしても漂ってきてしまう「過剰な自意識」とはまだ無縁の、(決して淡白というのとも違う、時代がまだ棘をまとっていなかったというべきか)オーソドックスな空気感。
この「過剰な自意識」って、実はベートーヴェンその人の中でもやっぱり初期から後期へと進むうちにより一層感じてしまうことも多くて、そういう意味ではまだこの第9,10番のソナタくらいの年代では、曲そのものもちょうどこの演奏くらいの雰囲気にマッチしているのかも、なんてこともちょっと思ってしまった。
* YouTubeに、多分同じ音源だと思われるソナタ第9番の第1,2楽章があったので(やっぱり音質比べると劣るけど)、貼っておきました。
Piano Sonata No.9 in E Major, Op. 14 No.1: I. Allegro
Piano Sonata No.9 in E Major, Op. 14 No.1: II. Allegretto