ショパン:夜想曲集 | |
ワーナーミュージック・ジャパン |
これは、かなりよく聴けた1枚。これから先、愛聴盤になるかも。
前にも書いたけど、ふだんなかなか好きな盤が増えてくれないショパンの中でも、「夜想曲」は特に昔から手持ちの音源が少なかったので、最初にこのCDを聴いた時にスッと耳になじんでくれた時は、ちょっとうれしかった。
そしてレオンスカヤというピアニストも、有名だから名前は昔から知ってたけど、これまであまり縁がなくて、ちゃんと聴いたのは実質的に今回が初めてかも。
とりあえずこの盤の印象を言っておくと、しっかりしたゆるぎない安定感の上で、女性的なおおらかさで包んでくれるような魅力があり、また同時にショパンの繊細なピアニズムの陶酔もちゃんと透けて見えるようにできているような感じ。
全13曲のノクターンを、1曲1曲非常に濃やかに心を注ぎ込んで、時間をかけて彫琢していったかのような演奏に感じる。そして、これを聴いてしまったから感じるのかもしれないが、ショパンの曲でもこのノクターンこそが、彼女と特に相性がいいのではないかとも感じる。彼女のディスコグラフィーを見ると、ショパンではこの他にポロネーズ集くらいしか録音見当たらないし。
それと、今回もうひとつちょっと感じたのは、全体の雰囲気の「ロシアっぽさ」。まあ、彼女の場合は名前からして国籍は容易に知れるわけだけど、ぼくのこれまでの(あまり多くはない)「ショパン聴き」歴というのは、フランソワなどの例外を除いて、ほとんどすべてが東欧、ロシア(出身も含めて)のピアニストばかり。もしかしたらこういう点も、この録音の音がスッとぼくの耳に届いた理由じゃないかという気がした(気がしただけかもしれないが)。
それと、あまり関係ないけど、このレオンスカヤ、旧ソ連内でもなんとグルジアのトビリシ出身!!(グルジア好きのぼくとしては一瞬驚いたんだけど、両親はロシア人ということでちょっと残念)。
ただ、彼女の経歴を見ていくと、そこに何度か「リヒテル」という名前が現れ、4手の曲のパートナーやらコンサートの代役やらをこなしてリヒテルの信頼と、自分の名声をも得ていったというのは興味を引く。これは、リヒテルの薫陶を多少とも受けたという点でも大きいと思うし、実はリヒテル自身もウクライナという旧ソ連の辺境からモスクワ音楽院へ入学したという経歴の持ち主。
この、辺境の出身だという点、自分の感受性を育てる点で最も大事な幼少期に大勢のすれっからしの大人たちに囲まれて心を弄ばれるような環境がないという点では大都市出身者に比べてある意味有利ではないかと思うし、また彼ら辺境出身者というのは世界に出る前にすでに1度モスクワを征服しているだけあって、「逞しさ」というものがやはり違うと思う。
彼女のディスコグラフィーに話を戻すと、どうやら彼女はシューベルトが得意らしい。そして気づいてみると、ショパンのノクターンとシューベルトのソナタほかのピアノ曲って、曲調にけっこう共通点があるような気も。そうなると、きっと彼女のシューベルトも素晴らしいんじゃないだろうか。
(例えば「ノクターン第13番OP.48-1」なんて、いつもこの曲って半分シューベルトが入ってるんじゃないか、みたいにも思うんだけど)。(2008.12)