〔曲目〕
・モジジェル=ダニエルソン=フレスコ:サファーリング
・フランチシェク・ラチュコフスキ・トリオ:5/8
・スワヴェク・ヤスクウケ・トリオ:マルィ
・ピョトル・ヴィレジョウ:ホワイト・ウォーター
・ハニャ・ラニ&ドブラヴァ・チョヘル:レプブリカ・マジェニ
・シンプル・アコースティック・トリオ:シンプル・ジャングル
・セバスティアン・ザヴァツキ・トリオ&ストリングズ:ズヴウォカ
・トゥビス・トリオ:シェデム・シェデム
・レシェク・クワコフスキ:プションシニチュカ
・ミハウ・トカイ・トリオ:ザ・サイン
・スワヴェク・ヤスクウケ&ハンセアティカ・チェンバー・オーケストラ:バイ・ゾポト
これは発売された当初から気づいていたけど、でも知っている演奏者も何人かいるしどうしようと迷っている間に、忘れてしまっていたCD。
それが、先日普段あまり行かない図書館に足を伸ばした際に思いがけず発見。やっぱり、たまには遠出してみるもんですね。
と、そんな経緯で聴き始めたこのCD。しかし、冒頭からすごくいい演奏ばかり。しかも、1曲ごとに演奏者が違うのに、けっこう統一感みたいなものもあって、ボーッと聴いていると普通にアルバムを聴いているような感じもしてきたりしました。
しかしそれにしても、ここに聴かれる現代のポーランドのピアニストは、どの人も非常に感受性も鋭くてスタイリッシュな人ばかり。もともと、クラシックばかり聴いて育ち、ポーランドに限らずヨーロッパの国々を今でも19世紀ロマン派の時代的なイメージで捉えてしまいがちな自分としては、ポーランドといえばいまだに何となく「素朴な農業国」というイメージで、実はそんな最近の印象の変わりようにこそ、今回は一番驚いてしまったかもしれない。
というか、それ以前に、ポーランドって言えばわりと最近(ソ連崩壊)までは共産圏だったはずで(もう忘れ始めているけど、まだほんの30年前)、昔の共産圏といえば芸術にも統制がかかっていて、全体に暗くて野暮ったくて武骨でというイメージだったはず(クラシックの現代音楽の作曲家には有名な人が何人かいるが、その人たちの曲もやっぱり暗かった)。
ところが、今このCDで聴いているような若い世代の音楽には、その名残りすら微塵も残っていないと思ってしまうほど(ついでに言うと、クラシック的にはポーランドでピアノとくれば、いまだに反射的には「ポロネーズ」や「マズルカ」なわけだけど、そんな響きも、表面的にはほぼ痕跡ゼロ)。
まあ、それでもトマス・スタンコあたりではまだそんな雰囲気が残っていたとも思うんだけど、しかし例えば今30歳半ばの人でも、大体幼少時の物心がつく頃にやっと民主化という世代だったはず。それなのに早くもこのギャップって、もともとこんな繊細で感受性豊かな人々が、よっぽど長年の抑圧と西側の先進的な音楽の情報も少なくて、自由にやりたい音楽を表現できていなかったということなのだろうか(何も知らないからうかつにいろいろ言えないけど)。
それに、ちょっと話はずれるけど、こんなに音楽が美しいのならその他のジャンル、例えば文学でも民主化後に良い小説がたくさん生まれていてもよさそうなのだが、そちらは果たしてどうなのか(でも、文学はやっぱり音楽より時間がかかりそうだし、昔の時代をずっと引きずったりしていそうだなあ)。
・・・と、ともかくそんなこんなで、近年ではぼくの耳にも少しずつポーランドのジャズが入り始めて、ポーランドのイメージも少しずつ変わり始めてきていたわけだけど、今回このコンピレーションCDを聴いてみて、改めてポーランド・ジャズは今若手がたくさん出てきて、すごく勢いがあるんだなあと感じた。
この中で知っていたのは、レシェック・モジジェル(いつも中古価格が高め)とヤスクウケ、そのヤスクウケとデュオをやっていたピョトル・ヴィレジョウと、マルチン・ボシレフスキくらいだけど、ぼくはどちらかと言えば既知の人より知らない人の音楽を聴くほうが好きなタイプなので、こんなに未知の人がいっぱいいるというだけで、思わずワクワクしてしまう(すでに、ここで紹介されている人のCDのジャケは、検索して目に焼き付けた)。
特に、ハニャ・ラニやセバスティアン・ザヴァツキって人は、早めにチェックしてみたいかなあ。
あと、最後にもう一つ思い出したけど、昔のポーランド音楽というと、個人的には都内の中古店でたまに拾っていた民族音楽のLPのイメージもあって、そもそもあれこそが「素朴な農業国」のイメージの最たるものだった。いや、でも、それもせいぜい10~20年前のことだし、やっぱりこのポーランドの音楽の、昔と今のギャップの大きさは、スゴイんじゃないだろうか。