このLP、中古屋で見つけた時はふつうに単品で売られていたんだけど、実はもと「非売品」。たぶん、何かの企画の「付録」だったのではないでしょうか。
で、その内容はというと、バーンスタインがピアノを弾きながら、あるいは自身が指揮するオケの演奏を交えてのレクチャー・レコード。
ベートーヴェンが「運命」、「英雄」の作曲過程で残した(採用されなかった)楽想をいつくか取り上げて、2つの交響曲がどのように推敲されて最終的な形になったのかを、垣間見せてくれます。
2曲あわせても25分くらいの、ホントに「さわり」だけという印象の短いLPなんだけど、しかしこれが面白い。ベートーヴェンの音楽って、時として本当に「これしかない」というくらいに完璧にキマっていて、例えば「運命」の最初の「ダダダダ~ン」を聴いて、「さて次の音は?」と考えると、やっぱりあの2度下がった「ダダダダ~ン」以上のものがあり得るとは到底思えない。そしてその次は、とまた考えると、やっぱり今以上のものは、・・・。
というように、もしかすると「運命」は最初の4音が現れた瞬間に実は最後の部分まで決定されてしまっているんじゃないかさえ思えてしまうのですが(そんな風に思ったことないですか?)、このLPではベートーヴェン自身も実は何年もかけてそういう説得力のある構成を得ていたのだ、ということを実例とともに教えてくれます。
そして、この盤が貴重だと思えるのは、こういう風に、クラシックについてのやや突っ込んだ解説を実際の「音」でもって示してくれるこのような試みが、ほかにいつまでたってもほとんどみかけないということ。
これは、昔クラシックに目覚めた頃から不満に思っていたことなんだけど、音楽に興味が出てきて自分でいろいろとCDなどを聴くうちに、次第にCDの短い解説などだけでは飽き足らなくなってくるでしょう。
ところが、それから一歩進んで何か参考になる本などを探そうと町の本屋などに行くと、そこにあるのはすでにある程度音楽の素養があり、楽譜など読めることは前提とした難しそうな本ばかり(それでさえ、置いてあれば上々なんだけど・・・)。それじゃあ、せっかく芽生えた好奇心もなえてしまうというものです。
その点、このバーンスタインは偉大で、長年にわたって有名な「ヤング・ピープルズ・コンサート」などの試みをたくさんやっておりました(ただ、これもビデオ25本セットなんてものしか売ってなくて、簡単に買える青少年なんてほとんどいなかったと思う)。
ウ~ン、昔からこのようなものがもう少しでも身近にいろいろとあってくれれば、クラシック界全体の環境も今とはずいぶん違ったものになったんじゃないかと思うんですけどね。せめて、有名な交響曲だけでもいいから、誰かバーンスタインの跡を継いで、もう少し本格的なものを作ってくれないでしょうかね。(2008/04/19)
(↓ 今では、それぞれこのようなCDに収録されているようです)。
ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」/「英雄」の出来るまで | |
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ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/ 「運命」の出来るまで | |
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