瀬尾和紀(フルート) フランソワ・サルク(チェロ) 朴鐘和(ピアノ) ローラン・ヴァグシャル(ピアノ)
・ ヴォルガの舟歌による変奏曲 ~チェロとピアノのための
・ ソナチネ ~フルートとピアノのための
・ 子供の歌による遊戯 ~ピアノ連弾のための
・ 演奏会用ソナチネ ~チェロとピアノのための
・ グリーグの主題による変奏曲 ~フルートとピアノのための
これは、たまに行く図書館で見つけたCD。
でも、その時は、あと1枚どのCDを借りるか困っていただけで、期待みたいなものは全くなし。だって、クラシックの世界では著名な演奏家が実は作曲家でもあって、という話はけっこうよくあるパターンで、それがかのギーゼキングだったとしても、所詮は演奏の傍らでの余技なのだろう、とつい思ってしまったので。
でも、そう思いながらも結局こうして借りてしまったのは、一方ではやはり「ギーゼキング」という長年の信用が作用したのだと思うけど、でも今回、いざCDを初めてプレーヤーに載せようとする時も、気持ちはちょっと重かったというのが正直なところ。
だったのだが・・・、冒頭いきなり目の前に現れたのが、全くもって想定外の世界。 んっ・・・? この、すごく聴き覚えのある旋律は、あの『ヴォルガの舟歌』じゃないですか!
ギーゼキングといえば、あの昔から馴染んできた本職のピアノ演奏でもロシア物なんて全然印象にないというのに、それがなぜ作曲となると突然ロシア民謡の世界が現れるのか。しかも、それがミスマッチな結果になるかと思いきや、チェロとピアノのアンサンブルの変奏曲が、時に重厚で力強く、時に繊細さや優雅さも兼ね備えていて、何と言うか、かなり魅力的。
というか、個人的に10代の頃にギーゼキングのドビュッシー演奏に魅せられて以来、そのイメージからこれまで一歩も出ていなかったような自分の中で、これまでの固定観念が一瞬で音を立てて壊れていったというか、自分はギーゼキングの頭の中を何一つ分かっていなかったのだ、ということが赤裸々に明らかになってしまったのだった(要するに、彼の頭の中は、彼がこれまで弾いてきた作曲家やその曲だけで出来上がっていると勝手に思い込んでいた)。
そして、続くラヴェルを少し思わせる端正なフルートのためのソナチネ、モーツァルトの「きらきら星変奏曲」を基にしたピアノ連弾曲、さらにもう1曲チェロ曲のソナチネが続いた後、最後はグリーグの『抒情小曲集』の「アリエッタ」に基づく変奏曲まで、どれも十分聴き応えのある曲ばかり。
この、作曲家としてのギーゼキングに目を付け、CDを企画したのは瀬尾和紀さんというフルート奏者の方らしいのだが、ホントに慧眼というか、その企画を通したレコード会社もけっこうスゴイというか。
基本的に、作曲家ギーゼキングの世界は、ラヴェルやフォーレを彷彿とさせる20世紀初めの頃のフランス音楽に近しい世界のように感じるのだが、やはり往年のピアノ演奏から受ける印象の通り、非常に繊細かつ品も良いところが感じられて、こうして聴いている限り、これまで全くといっていいほど埋もれてしまっているのが不思議に思えてくるような印象。
これが、もっと名のある作曲家の作品だったとしたら、もっと頻繁に録音されてリスナーの耳に届いていたとしても、全然おかしくないレベルなのではないかと思ってしまった。
そしてこの1枚は、構成的にもそんな作品の中から端正なフルート曲とけっこう迫力のあるチェロ曲を2曲ずつ配置する中で、ピアノ連弾曲を真ん中に挟んでいる点もすごく巧妙。
と言うか、そんなことの前に、作曲家ギーゼキングの作品がとにかく予想をいくつも上回ってスゴイ。最初、聴く前にちょっと軽く見てしまって全く申し訳ありませんでした、というCDでした。
いやあ、ギーゼキングって、これまで思っていたよりずっと世界も広くて才能も豊かな人だったんだなあ。
⇓(YouTubeで、このCDの演奏は見つからなかったけど、別の演奏家によるフルートとピアノのためのソナチネがありました。でも、本当は『ヴォルガの舟歌』が良かったんだけどなあ)
Amy Porter and Tim Carey play Gieseking Sonatine